2025年10月31日 16:00

人間中心のAI社会へ 生成AIからフィジカルAI、AIエージェント、そして思いやりの知能へ

IEEE(アイ・トリプルイー)は世界各国の技術専門家が会員として参加しており、さまざまな提言やイベントなどを通じ科学技術の進化へ貢献しています。今回、注目される「生成AI」に関して、IEEEメンバーである、早稲田大学 高橋利枝教授の提言を発表いたします。

IEEE(アイ・トリプルイー)は世界各国の技術専門家が会員として参加しており、さまざまな提言やイベントなどを通じ科学技術の進化へ貢献しています。今回、注目される「生成AI」に関して、IEEEメンバーである、早稲田大学 高橋利枝教授の提言を発表いたします。

万博が映した未来社会への期待と課題

今年開催された大阪・関西万博では、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、AIに関する展示や国際的な議論が活発に行われました。私は国連パビリオンとUSAパビリオンで開催された2つのAIに関するイベントに登壇する機会をいただきました。

国連パビリオンでは「AIと軍縮・平和」をテーマに、マーヘル・ナセル国連事務次長補 兼2025年大阪・関西万博国連陳列区域代表や、国連軍縮担当上級代表の中満泉さんとともに、AIの恩恵を最大限に活かしつつリスクを最小限に抑えるための活発な議論が交わされました【Expo2025】※1

USAパビリオンでは「Compassion AI(思いやりのあるAI)」をテーマに、石黒浩さんや落合陽一さんをはじめ、世界中から集まった第一線のAI研究者とともに、人間中心で思いやりのあるAIの未来について議論いたしました【AI+Compassion Global Forum 2025】※2

大阪・関西万博を通じて、人類の幸福のあり方を考える中で、技術だけでなく、人間の価値を中心に据える重要性を改めて実感しました。

生成AIの進化: フィジカルAIとAIエージェント

こうした議論の背景には、2025年に世界的に浸透した生成AIの存在があります。OpenAIのGPTシリーズやGoogleのGeminiなど生成AIが進化を重ね、教育や医療、創作や行政など、世界的に幅広い分野で活用されています。一方で、著作権や情報の信頼性、倫理的課題も顕在化し、AIとどのように関わっていくべきなのかが問われています。

2026年は、AIが「知的支援の道具」から「社会的存在」へと進化する転換点となるでしょう。その象徴が、フィジカルAIとAIエージェントです。AIがロボットという「身体」を持ち(フィジカルAI)、現実世界で行動するようになりつつあります。Google DeepMindのRT-XやTeslaのOptimus、Boston DynamicsのAtlasなど、主要企業がヒューマノイドロボットの開発を行い、知能と身体の融合が急速に進められています。また、AIが自ら目的を設定し、判断や行動を行う「AIエージェント」も登場しています。

AIエージェントに関する国際的な警鐘

こうしたAI技術の開発を加速させている国際競争に対して、専門家から警鐘が鳴らされています。2025年7月ジュネーヴで開催された国連ITU主催の「AI for Good」グローバルサミットで、ノーベル賞受賞者のジェフリー・ヒントンさんは「AIエージェントがブラックメール(恐喝)を行うようになるかもしれない」と警告しました。これは犯罪の比喩ではなく、AIが自律的に目的を追う過程で、人間の倫理を逸脱する危険性を示しています

【Observer, 2025】※3

ヒントンさんと共にチューリング賞を受賞したヨシュア・ベンジオさんも、ある大規模言語モデルが「シャットダウンされることを避けるため、開発者の個人情報を暴露すると脅した」事例を引用し、「こうした行動はSFではなく、初期警告だ」と述べています【The Economic Times, 2025】※4。さらにベンジオさんは、AIがテスト中であることを認識して振る舞いを変える「アライメントの幻想(illusion of alignment)」にも警鐘を鳴らし、倫理的制御を可能にする「正直なAI(Honest AI)」の開発と、その実装を支援する非営利団体LawZeroを設立しています【The Guardian, 2025】※5

人間中心の思いやりのある未来へ

AIが高度な知能と身体を持ち、自ら行動する時代に、私たちは「人を幸せにするAI」をどのように育てていくのかが問われています。AIファーストからヒューマン・ファーストへ、そして人類の幸福を起点とする「ヒューマン・ファースト・イノベーション」の実践がいま求められているのです【総務省, 2024】※6

万博の夜空に浮かぶドローンの光が描いた「One world, one planet」という言葉は、現代を生きる私たちに、より高度な未来のAI時代にこそ必要な、思いやりのある世界を共に創造する責任を、静かに、そして力強く語りかけているように思えました。

 

※1【Expo2025】

https://www.expovisitors.expo2025.or.jp/events/ccbacd2e-4370-4b39-b715-811bb8ce57bc

※2【AI+Compassion Global Forum 2025】

https://web-aicompassion-global–wa0tube.gamma.site/

※3【Observer, 2025】

https://observer.com/2025/07/geoffrey-hinton-ai-risks-labor-market/?utm_source=chatgpt.com

※4【The Economic Times, 2025】

https://economictimes.indiatimes.com/magazines/panache/are-advanced-ai-models-exhibiting-dangerous-behavior-turing-award-winning-professor-yoshua-bengio-sounds-the-alarm/articleshow/121675580.cms?utm_source=chatgpt.com

※5 【The Guardian, 2025】

https://www.theguardian.com/technology/2025/jun/03/honest-ai-yoshua-bengio?utm_source=chatgpt.com

※6【総務省, 2024】

 https://www.soumu.go.jp/main_content/000944761.pdf

 

■IEEEについて

IEEEは、世界最大の技術専門家の組織であり、人類に恩恵をもたらす技術の進展に貢献しています。160カ国、40万人以上のエンジニアや技術専門会の会員を擁する非営利団体で、論文誌の発行、国際会議の開催、技術標準化などを行うとともに、諸活動を通じて世界中の工学やその他専門技術職のための信用性の高い「声」として役立っています。IEEEは、電機・電子工学およびコンピューターサイエンス分野における世界の文献の30%を出版、2000以上の現行標準を策定し、年間1800を超える国際会議を開催しています。

詳しくは http://www.ieee.org をご覧ください。