2025年10月29日 11:00

有胞子性乳酸菌プロバイオティクスが子牛の下痢発生を抑制して体重増加を促進することを確認

           

 全国酪農業協同組合連合会(本所:東京都渋谷区、代表理事会長:隈部 洋)、国立大学法人広島大学(本部:広島県東広島市、学長:越智 光夫)、三菱ケミカル株式会社(本社:東京都千代田区、社長:筑本 学)は、有胞子性乳酸菌プロバイオティクスであるHeyndrickxia coagulans SANK70258*1(H・コアグランス)が、子牛の離乳後のスターター飼料*2摂取量の増加による下痢の発生を抑制して、体重増加を促進することを明らかにしました。三者はこの研究成果を日本畜産学会 第133回大会(2025年9月12~15日)で発表しました。本研究において、全国酪農業協同組合連合会が飼養管理を行い、三菱ケミカル株式会社が有胞子性乳酸菌を提供するとともに、それぞれの知見を基に試験デザインを立案し、国立大学法人広島大学を中心に三者でデータの信頼性を検討しました。

 現在、畜産分野では飼料の価格高騰や輸入依存、感染症リスクや抗菌剤使用への懸念など、飼養管理を取り巻く多くの問題があります。中でも牛の飼育において、腸管バリア機能が未発達の子牛時期に発生する下痢は重大な健康問題のひとつであり、下痢による成長遅延や死亡増は畜産経営に深刻な悪影響を及ぼします。

 H・コアグランスは、一般的な乳酸菌とは異なり、胞子を形成するため酸や熱に強く、菌が死滅せずに腸で発芽して増殖する特性を持っています。これまでの研究で、ブロイラーやブタに関しては、H・コアグランスによる腸管バリア機能の亢進(こうしん)作用が体重増加に寄与することが明らかになっています*3。

 そこで今回、子牛へのH・コアグランスの給与が成長や下痢の発生に及ぼす影響を検討しました。本試験では、ホルスタイン種雄子牛を用いて、代用乳*4にH・コアグランスを添加したグループ(処理区)と、H・コアグランスを添加しないグループ(対照区)の2つの区を設け、8週齢まで代用乳を給与した後、13週齢まで飼育しました。
 その結果、処理区では離乳後のスターター飼料摂取量が対照区より多く、体重もより増加していました。一般的にスターター飼料摂取量の増加は大腸内アシドーシス*5を誘発し、下痢の発生リスクを高めますが、対照区の下痢の発生日数は週あたり1.0日であったのに対し、H・コアグランスを給与した処理区では週あたり0.4日と下痢の増加は認められませんでした。
 これらのことから、H・コアグランスの子牛への給与は、離乳後のスターター飼料摂取量の増加による下痢の発生を抑制しながら、体重を増加させる可能性が見出されました。

 本研究成果は、子牛の健全な成長を支える新たな飼養管理技術としてのH・コアグランス給与の可能性を示しています。本研究について引き続き詳細なメカニズムを検証していくとともに、有効性について評価してまいります。

【本件の研究グループ員】
・全国酪農業協同組合連合会
 酪農技術研究所
 研究員 岡村 真吾
 副審査役 村山 恭太郎
 副審査役 西澤 成寿
 小林 夏実

・国立大学法人広島大学
 酪農エコシステム技術開発センター センター長
 大学院統合生命科学研究科 教授 杉野 利久

・三菱ケミカル株式会社 アドバンストソリューションズビジネスグループ
 技術戦略本部 ウェルネス技術部 フード&ヘルスケアグループ
 セクションリーダー 山田 良一
 主席研究員 相田 正典
 研究員 道端 良之介
・三菱ケミカル株式会社 アドバンストソリューションズビジネスグループ
 ライフソリューションズ本部 フード・ヘルスケア事業部 ヘルスケアビジネスグループ
 チームリーダー 松尾 俊輝
 室井 康平

 

*1ヘンドリクシア・コアグランス(Heyndrickxia coagulans SANK70258)
1949 年に中山大樹博士(山梨大学名誉教授)が発見した、胞子を形成する有胞子性乳酸菌であり、長年にわたりプロバイオティクスとして使われている。胃酸で死なず、生きたまま腸まで届くという特性をもつ。ヒトにおいて便通改善、風邪様症状の緩和、肌状態の改善などの作用があることが報告されている。また、畜産動物の増体、抗炎症、感染症抑制に寄与することも報告されている。なお、Bacillus coagulans は 2020 年に Weizmannia coagulans に、2023 年にHeyndrickxia coagulans に学名が変更されており、Bacillus coagulans SANK70258、Weizmannia coagulans SANK70258は Heyndrickxia coagulans SANK70258 と同一の株を指す。
*2スターター飼料
発酵性の高い穀物を主体とした子牛用配合飼料。液状飼料(生乳・代用乳)に次ぐ子牛の栄養源である他、未発達の子牛のルーメンを発達させる働きを持つ。
*3関連論文情報
The effect of supplementation with Weizmannia coagulans strain SANK70258 to coccidia-infected broilers is similar to that of a coccidiostat administration. Vet Sci. 2022 Aug 3;9(8):406. doi: 10.3390/vetsci9080406

Dietary Weizmannia coagulans strain SANK70258 ameliorates coccidial symptoms and improves intestinal barrier functions of broilers by modulating the intestinal immunity and the gut microbiota. Pathogens. 2023 Jan 6;12(1):96. doi: 10.3390/pathogens12010096
Heyndrickxia coagulans SANK70258 supplementation improves growth performance, gut health, and liver function in growing pigs. Front. Vet. Sci. 2025 May 12:1537913. doi: 10.3389/fvets.2025.1537913
https://www.mcgc.com/news_release/pdf/02362/02633.pdf

Exploring spore-forming lactic acid bacterium Heyndrickxia coagulans SANK70258 as a promising probiotic for red sea bream (Pagrus major). Front. Aquac. 3:1450537. doi: 10.3389/faquc.2024.1450537
https://www.mcgc.com/news_release/02158.html

*4代用乳
家畜や動物の幼齢期において、母乳の代わりに与える人工的に作られた液状の飼料。
*5大腸のアシドーシス
固形飼料中の炭水化物が発酵されることによって、酸が過剰に発生し、消化管内のpHが低下した状態。ルーメンアシドーシスよりも影響が大きいとされ、子牛では下痢とそれに伴う発育の低下を招く。

【お問合せ先】
全国酪農業協同組合連合会 酪農技術研究所
TEL:0248-44-2502

国立大学法人 広島大学 酪農エコシステム技術開発センター・大学院統合生命科学研究科
TEL:082-424-7956(担当:杉野利久)

三菱ケミカル株式会社
コーポレートコミュニケーション部 メディアリレーショングループ
TEL:03-6748-7140