2019年8月29日 15:00

USB-CとPD (パワー デリバリー) サイプレスが支えるそのスマート充電の舞台裏

何ができるの? 何がすごいの? 今知っておくべき「USB Type-C」のあれこれ

  • そもそもUSBって何だっけ?

 「USBってメモリのことでしょ」と思うかもしれません。スティック型のUSBメモリは、データをやりとりするためのものとしてそのくらい身近な存在です。パソコンやスマートフォン、そして最近では家電製品に至るまで、必ずと言っていいほどUSB端子が用意されていてUSBメモリを使ってデータを受渡しすることができるようになっています。機器に装備されたUSB端子は、決して充電だけのために用意されているわけではないのです。USBはメモリの規格ではなく、Universal Serial Busの頭文字をとったもので、正確にはデータ転送のための規格の名称です。1990年代の終わりごろからUSBが何にでも使える汎用的な規格としてデビューし、ハードウェアとしてのiMacやWindows 98がその普及を牽引 しました。ケーブル一本で機器と機器を接続するだけで必要なソフトウェアが読み込まれて使える状態になるプラグ& プレイによって、デジタル機器には欠かせないデータ転送規格になったのです。USBメモリを装着するだけでディスクがひとつ追加されるという、今となっては当たり前のことを実現したのがUSBという規格です。
 USBはこの20年の間に、データ転送速度の向上やさらなる汎用化を果たしました。そして昨今では、機器を充電する ために電力を供給する規格としての側面が身近になりつつあります。

  • 新しい端子形状 USB-C

 USBケーブルは、接続ケーブルの片側が平たい板状のA端子オス、もう片側が四角いB端子オスというものが一般的に使われてきました。ところが、各種機器の薄型化や小型化に伴い、大きなB端子オスに代わり、AndroidスマートフォンやタブレットなどではmicroUSBという小さな端子が使われるようになりました。一方、iPhoneにはLightning端子が 使われています。さらに最近になってよく見かけるようになったのは、新しい端子形状であるUSB-Cです。このケーブルは両端がUSB-Cプラグになっていて、上下の区別もなく、機器に備わったUSB-C端子メスに接続することができます。どちらがデータを受け取り、どちらがデータを送るかを考える必要もありません。何も考えずにケーブルで機器同士を つなぐだけでいいのです。現時点では、iPhoneだけがLightningという独自の端子形状を使っています。それは、片側がUSB-AやUSB-Cでもう片側がLightningというケーブルで接続しますが、近い将来LightningはきっとType-Cに置き換わることになるでしょう。そのくらいType-Cの汎用的な存在感が高まっているのです。

  • USB-Cで何ができるの? ~データ転送と充電速度、安全性が大幅に向上~

 USB-Cは端子形状の規格です。できることは、これまでの片側がAプラグで、もう片側がBプラグ (またはLightning) のケーブルを使ったUSBと基本的に同じです。ただ、データ転送速度、充電速度、充電に際する安全性が大幅に向上しています。また、オルタネートモードと呼ばれる仕組みによって、USB以外の規格のデータ転送ができるようにもなりました。今後は、機器の映像をモニタースクリーンに映し出すのにもUSB-Cのオルタネートモードが使われるのが当たり前になるでしょう。オルタネートモードを使う規格としては、USBよりさらに高速なThunderbolt 3がよく知られていますが、 こちらは今後、USB4としてUSB規格に吸収されることになっています。
 さらにUSB-Cでは、機器と機器の役割を人間が考える必要がありません。機器と機器をケーブルで結ぶだけで、どちらからどちらにデータや電力が送られるのかが決まり、あるいは、電力とデータの流れを反対方向で双方向にやりとりしたりと、状況に応じて最適な状態が維持されるようになっています。

  • 速くて安全な充電を実現 ~Power Delivery (PD)~

 昨今、もっとも身近に使われているUSB充電。USB-Cでは、速くて安全な充電のためにPowerDelivery (PD) と呼ばれる約束ごとが用意され、それに準拠することで、大電力での高速充電を実現しています。
 サイプレスは、各種電子機器でUSBを使えるようにするための縁の下の力持ちとして、制御用各種半導体の設計、製造を生業のひとつとしている会社です。目の前にUSB機器があってケーブルでつながり、充電が行われていれば、おそらく半分の仕事はサイプレスによるものと考えていいでしょう。USB-C市場ではその世界シェアはすでに40%に達しようと しています。ダントツの世界一のベンダーです。
 PDによる充電は、これまでのUSB充電の制約を取り払います。大電力で発熱などを高度なコントロールを施しながら高速に充電ができるようにするのです。
具体的には、USB-Cケーブルで機器同士を接続したときに、機器同士が相談するインテリジェントな仕組みが取り入れられています。電力を供給する側なのか受ける側なのか、どのくらいの電力が必要なのか、大きな電力を流しても耐えられるケーブルなのかどうかといったことが相談され、細かく賢い制御が行われます。こうしたコントロールによって、 これまでの古い充電方式では3時間かかっていたゼロからのフル充電が2時間以下ですむといった恩恵をもたらしています。
 iPhoneもiPhone 8以降でPD充電に対応しています。添付のACアダプタではなく、PD対応のチャージャーと別売りの専用ケーブルを使うことで、充電効率を大きく高めることができます。

 

ケーブルにまつわるあれこれ ~eMakerの存在の有無~

 PD充電のためには、ACアダプタ、ケーブル、機器がすべてPDに対応している必要があります。なかでもケーブルは、外見が同じなのにスペックが異なる場合があるので注意が必要です。というのも、データ転送規格としてのUSBのスペックがケーブルごとに異なるからです。また、PDについても、サポートされる最大電力が異なります。同じように見えるケーブルでも、ディスプレイに映像を映し出せるものと、そうでないものがあったりするわけです。それはサポートしているデータ転送速度のスペックが異なるからです。ケーブルには、ケーブルのスペックを電子的に検出できるようにeMakerと呼ばれるICチップが内蔵されています。機器同士が接続されると、真っ先にeMakerの存在とその内容がチェックされ、そのケーブルの素性が明らかになってから、機器同士の相談が始まります。もっともPD充電については60W(3A) までか60W (3A)を超える場合の2種類です。それに多くの電子機器は60W (3A) までのサポートで十分ですから、 充電のためだけのケーブルについてはあまり気にしなくても大丈夫そうです。コストのためにeMarkerを内蔵していないケーブルも多いのですが、その場合は60W (3A) までの充電のみがサポートされ、その安全性が担保されています。

 

ACチャージャーのスペックの見分け方

  PDに対応したACチャージャーは家庭用の100V交流電源を、相手先機器に応じて5Vから20Vまでの直流電源に変換し、スペックの範囲内で相手が要求する電力を供給する役割を果たします。PD対応ACチャージャーはいわば、これまでのACアダプタよりもずっと賢いのです。もちろんその内部にはサイプレス製品に代表されるPDコントローラーチップが内蔵され、各機器との通信が行われます。
  PD対応チャージャーの最近の製品では18W、27W、45W、60Wといった製品が多いようです。値が大きいほど大電力を供給できますが、相手先の機器がサポートしていなければ意味がありません。スマートフォンなら、最大18Wのものがほとんどですから、それを超えるものはオーバースペックです。タブレットやパソコンの充電用と考えていいでしょう。ただし、一部のモバイルバッテリーなどでは45Wをサポートし、より高速に充電ができるようになっているものもあります。機器に応じてACチャージャーを選ぶことが求められます。大は小を兼ねますが、大きな電力をサポートする チャージャーは、ボディも大きくなってしまいます。

 

電圧、電流、電力の関係は?

W (ワット) というのは電力の単位で、電圧と電流を掛け算すると算出することができます。ワット値が大きければ大きいほどたくさんの仕事がこなせます。つまり、充電でいえば満充電までの時間が短くなります。そして、電圧か電流のどちらかをあげればワット数も上がります。たとえば18Wの場合、9V (ボルト) の電圧で2A (アンペア) の電流を流せば18Wの仕事ができます。これまでのUSB充電は、USB BC (Battery Charging) という規格のもと、電圧は5V固定、1.5Aまででしたから最大7.5Wが精一杯でした。またiPhoneは独自の規格で2.4Aを強引に流す高速充電を実現していましたが、それでも12Wです。安全性ということを考えたときに、同じ電力を確保するなら、低い電圧で高い電流を流すよりも、高い電圧で少ない電流におさえたほうが安心です。そういう意味では18Wを9V2Aで実現するPDは、仮にできたとしても18Wのために5V3.6Aもの電流が必要となる従来の充電規格よりもずっと有利だといえます。

 

USB-C Everywhere ~ゴミ問題も解決!? 広まっていくUSB-C端子~

  充電端子としてのUSBは、街中のいろいろなところで見かけるようになりました。今のところは旧来のUSB-Aメスを設備しているところが多いようですが、今後はUSB-Cメスの普及が期待されています。新幹線や飛行機の座席にもUSB端子が用意されていることが多くなりました。カフェなどでも同様です。こうした端子が用意されていれば、ACアダプタを携行しなくてもケーブルさえあればスマートフォンなどを充電することができます。
  昔ながらのACコンセントは、あらゆる機器に電力を供給できるユニバーサルな電力供給インフラとして広く認知されています。昨今ではACで使える機器の多くが100~220V対応を果たし、世界のどの地域でも支障がなくなってきています。コンセントの形状だけを気にすれば、簡単な変換プラグで、そこにあるコンセントにプラグを差し込めば電力が使えるという当たり前が実現しています。でも、それはACで使える機器の内部にACをDCに変換する回路を内蔵しているからできていることなのです。
  その回路を内蔵していない小型の機器は、あいかわらず団子のようなACアダプタを外付けで使い、バレルコネクタと 呼ばれる丸型端子や独自形状の端子で電力を供給しなければなりません。各社各機器まちまちのアダプタが使われ、メーカー名や対応機器も記載されていない場合もあり、消費者の混乱を招いています。

サイプレスは、これらの団子型ACアダプタをeウェイストと呼び、極端にいえば電化社会の生んだ、ある種のゴミとしてこの世界から撲滅させることを考えています。USB-Cなら、そして、それをPDに対応させることで、ACコンセントと同様に、あらゆる機器で安全に、そして便利に利用できる電力源が使えるようになる世界を想像してみましょう。冷蔵庫やエアコン、洗濯機といった大電力が必要な白物大型家電はともかくとして、壁のコンセントにUSB-C端子が装備され、シェーバーや電動歯ブラシ、LEDライト、スマートスピーカーなど、比較的小さな電力しか使わない家庭内のあらゆる機器がUSB-Cで電力を確保できるようになったらどんなに便利でしょう。その兆しは少しずつ現実味を帯び始めています。航空会社も座席のUSB端子にUSB-Cを採用するところが出てきています。PD対応チャージャーにも、複数口のUSB-C端子を持つものが増えてきました。将来的に、USB-C端子だけを装備したパソコンが大勢を占めるともいわれています。サイプレスは、その日の到来を夢みて、日夜研究開発に勤しんでいます。

開発担当者への一問一答

① USB Type Cのメリットについて教えてください。
ケーブルの両端が同じプラグで上下の区別もないケーブルは、扱い易さの観点で従来のUSBより大幅に向上しています。PDによる高速充電はType-Cの特長のほんの一部です。通信速度も大幅に向上しています。また、オルタネートモードによってUSB以外の規格での通信ができるため、さらに高速なデータ転送ができたり、規格ごとに別のケーブルを使う必要がなくなったりというメリットがあります。

② 見た目のコネクタ形状は同じに見えるUSB Type-Cケーブルであっても、実際にはさまざまな種類があるってホントですか?
本当です。ケーブルの規格自体、USB 3.1の場合もあればUSB 2.0の場合もあるし、最大100WでPCなどへの給電が行なえるUSB PDに対応する場合もあればしない場合もある。さらにThunderbolt 3対応をうたった製品もあるなど…。 充電時の電力、データ転送速度、Thunderbolt 3などの他規格対応の組み合わせなどで、複数の仕様が存在します。ケーブルの見かけはまったく同じに見えますが、注意が必要です。最近になって対応規格のロゴが策定され、それを表示するメーカーも増えてきましたが、購入時には製品パッケージに記載された仕様をよく確認する必要があります。

③ WidowsではUSB Type C と呼ぶのに、MacではなぜThunderbolt3と呼ぶのですか?また、両者はどう違うのですか?
USB Type-Cはプラグ形状の規格です。Macに装備された端子もUSB Type-C端子であることには変わりありません。Thunderbolt 3は、プロセッサでお馴染みのインテル社が提唱してきた高速データ通信の規格で、通常のUSB通信に加えて、Type-Cを使って最速のUSB規格を超える速度を実現します。ただし、すでにUSB4としてUSB規格に合流することが決まっています。Macに装備されているものをThunderbolt 3端子と呼ぶのは、独立した規格だった過去の経緯によるものです。

④ 転送速度が速いとのことですが、Type-A端子を使ったUSBやアップル社のLightningと較べて、どのくらい転送速度が速くなったのですか?
アップルのLightningは同社独自の端子規格ですが、基本的にはType-Cと同様にUSBでの通信が行われています。USB通信という観点ではType-Cを用いるとUSB3.2に準拠すればその転送速度は20Gbpsを実現できます。また、 機器ごとに対応規格は異なりますが、オルタネードモードでThunderbolt 3通信を使えばその最高速は理論値では40Gbpsとなり、USB2.0の480Mbpsや、高速とされるUSB3.0、3.1以降の5Gbps、10Gbpsに比べても数倍以上の速度を得ることができます。

⑤ 充電の所要時間について従来のものと比較してどれくらい早く出来るのか教えてください。
モバイルバッテリーやスマートフォンなどの充電される側と、チャージャーなどの電力を供給する側の両方が対応していれば、PDによる充電時間は充電に使われる電力に比例します。例えばこれまでiPad充電時に使われていたアップル独自の充電方式では5V2.4Aが最速で12Wでしたから、18Wが一般的な組み合わせにおいて、単純計算で1.5倍の電力が使えます。 これまで3時間かかっていた充電が2時間ですむことになりますね。

⑥ USB Type Cの今後について
これからはパソコンやスマートフォン、タブレットなどのスマート機器のみならず、車載向けや比較的小さな電力で稼働する家電機器などにも広く使われるようになるでしょう。ACコンセントと同じように、身の回りの身近なところにUSB Type-Cコンセントを見かけるようになり、いろいろな機器に統一された設備で電力を供給できるようになるでしょう。

 

サイプレスについて
サイプレスは、車載や産業機器、スマート家電、民生機器および医療機器など世界的な革新的製品向けに、最先端の組み込みシステムソリューションを提供するリーディングカンパニーです。サイプレスのマイクロコントローラーや、アナログIC、ワイヤレスおよびUSBベースのコネクティビティソリューション、高い信頼性と高性能を提供するメモリ製品は、各種機器メーカーの差異化製品の開発と早期市場参入を支援します。サイプレスは、ベストクラスのサポートと開発リソースをグローバルに提供し、ユーザー企業が従来市場を破壊する新しい製品カテゴリを歴史的なスピードで市場投入できるよう支援します。詳細はサイプレスのウェブサイト (japan.cypress.com) をご覧ください。

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