2020年8月25日 11:00

なぜ今、「TAKIBIcation(タキビケーション)」が必要なのか?「きたもっく」と「スコラ・コンサルト」の業務提携によって新たに生まれる“ミーティング産業”が持つ可能性とは。

年間10万人を集客し、アウトドア情報誌で4回も日本一に選ばれているキャンプ場「北軽井沢スウィートグラス」を運営するきたもっく。これまで1,000社以上を変革してきたスコラ・コンサルトとともに取り組むのが、宿泊型ミーティング施“TAKIVIVA”で展開する研修サービス“TAKIBIcation"です。

5G時代に突入し、ますますデジタル化が進む今、なぜあえて「焚き火」を囲むアナログなビジネスコミュニケーションの場づくりに取り組むのでしょうか。両社のトップが改めてその意義を語り合いました。

有限会社きたもっく 代表取締役 福嶋 誠(写真右)

株式会社スコラ・コンサルト 代表取締役 辰巳 和正(写真左)

組織の「関係性を再生」するミーティング産業を興すために

――両社が手を携えることになったTAKIVIVA事業は、「ミーティング産業」に位置づけられるということですが、聞き慣れないジャンルです。どのようなものなのでしょうか。

 

辰巳:ミーティング産業、私も最初はピンときませんでした。貸し会議室のような場所貸しビジネスをイメージしていたのですが、きたもっくさんのこれまでの取り組みをお聞きして、ようやく腹落ちしたのです。きたもっくさんは、キャンプ場を場所貸しではなく「フィールドビジネス」と位置づけ、地域の自然を活かした空間形成で、人と人のナチュラルな関係を育んできました。それと同じように、自然をベースにして人と人との関係を変えていくための動力を生み出す「ミーティングの場づくり」なのですよね?

 

福嶋:そうです。こういう発想が生まれたのも、実はスコラ・コンサルトさんと出会ったおかげなのですよ。きたもっくが25年間運営してきた「スウィートグラス」というキャンプ場が、社会の中でどのような役割を果たしてきたのか見つめ直したところ、家族の関係性を再生してきたのだと改めて気づいたのです(※)。

 

家族は最小単位の組織であり、社会においてはシェルターの役割も果たしています。社会でダメージを受けたお父さん、お母さん、子どもが帰ってくる場所なのです。でも、シェルターは設備ですから、定期的なメンテナンスが必要です。同じように家族も放置すれば壊れてしまいますから、メンテナンスをしなければなりません。それは、家族という「関係性の再生」を繰り返していく営為なのです。その契機を生み出すミーティング空間として、「スウィートグラス」が機能してきたわけですが、25年という区切りを目の前にして、社会には家族以外にも再生を必要としている組織があるじゃないか、特に企業の再生が社会に求められていると思ったのが、TAKIVIVA事業が動き出すきっかけとなりました。

 

※編注:福嶋さんは「スウィートグラスは家族を再生する」と題した書籍を

執筆中。2020年秋に出版予定。

 

辰巳:企業が「関係性の再生」を必要としているのは、組織風土改革を手がけている私たちにとって、皮膚感覚で理解できることです。では、関係性を再生するためには何が必要かというと、それには安心とゆらぎという2つの力が必要となります。

 

たとえば経営者の場合、どうしても自分の考えやポジションを守ろうとします。社員間でも、評価制度や前例にしばられ、たとえ知恵や思いがあっても話せない関係は珍しくありません。異なる意見を受け入れない組織は、一見安定していますが、そこに進化は起こらないのです。予定調和の会議や、お互いの顔色を常に窺いながら話す関係がまさにそうです。だからこそ、私たちスコラ・コンサルトは、本音を言える「安心感」と「本音をぶつける」ことで生じる「ゆらぎ」を起こす契機として、オフサイトミーティングにこだわってきました。

焚き火が促す「本音の対話」はニューノーマル時代に必須

福嶋:本音というのは、非常に重要な要素ですね。TAKIBIcationも、「ビジネスにおける本音の対話」をコンセプトとした研修サービスです。なぜスコラ・コンサルトさんがそこに着目したのか、改めて聞かせてください。

 

辰巳:今は「ニューノーマル時代」といわれます。予測できない変化が起こり続ける時代であることを表した言葉ですが、少し前ならリーマン・ショック、2020年は新型コロナウイルスと、先行きが見えない不安が続いています。そうなると、事実を多面的にとらえる「見方」や、目的をしっかりと見据える「習慣」、常に本質を見直す「試行」を促すことを基盤として、現状の突破と創発を図ることが重要となります。

 

いわば、古いものを新しいものへと転換することを促す「未来をつくる力」が求められているわけです。個人でその力を養い、モノ・コトを動かしていくには限界があります。では、どのように他とつながればいいのか。その「最初の一歩」を踏み出すのに欠かせないのが「ビジネスでの本音の対話」だと考えています。ただ本音をぶつけるだけではありません。対話として昇華させるのに重要なキーワードが、先ほども申し上げた「安心」と「ゆらぎ」なのです。この2つを同時に起こせるのが、TAKIBIcationだと確信しています。

 

福嶋:確かに、都市での日常生活の中で「安心」と「ゆらぎ」を同時に起こすのは難しいでしょう。感じ取りにくいと表現したほうが適しているかもしれません。多忙でテクノロジーに囲まれた生活は、人間が本来持つ五感を失わせてしまうからです。

 

その点、大自然は五感を取り戻すのに最適ですし、TAKIBIcationの根幹を担う火は、いろいろな力を持っています。「暖を取る」「焼く(変化させる)」「照らす(どこに一歩踏み出せばいいかわかる)」「焼却する(不純物を取り除く)」だけでなく、「エネルギーを与える」という特徴もあります。辰巳さんには、TAKIBIcationのサービスを構築するにあたり、何度もこちらに来て焚き火を囲んだ対話を体験いただきましたが、どう感じましたか?

 

辰巳:火を見ながら話すことには、2つの意味があると感じました。ひとつは、全員が同じ方向の同じものを見るということです。焚き火の薪が爆ぜる音を聞きつつ、みんなで同じものを見て話すという、日常から離れた状況によって、心理的安全性(※)を高めることができます。実際、本当に思っていることや、普段見せない不安・弱音、「実はこういうことがしたかった」など、日常の鎧を外し、役割や立場を越えて素直に正直な思いを話し合える関係性が醸成されていくのを実感しました。

 

※編注:心理的安全性とは、他者からの反応におびえる、羞恥心を感じるといったことがなく自然体の自分をさらけ出せる環境のこと。

人間ではできない、大自然がもたらす究極の対話の場

辰巳:焚き火を囲んだ対話が持つもうひとつの意味は、根本的な部分での内省ができることだと感じました。北軽井沢の大自然の中で焚き火をしていると、自ずと「豊かさ」だけでなく「厳しさ」も感じられます。それに加えて、本音での対話が自らに「ゆらぎ」を起こしてくれるのです。それによって向き合う対象は、人によっていろいろでしょう。葛藤かもしれませんし、良い意味での対立かもしれません。結果的に厳しい取捨選択を迫られる可能性もあります。

 

でもそこで、一人ひとりの個性を認め合う「安心」の場であることが生きてくるのです。相手の話に耳を傾け、それぞれの本音を存分に出し合いながら思いをほぐし、たった1人ではなく連帯して課題に向き合える関係。そうした関係の構築を後押しできるのは、TAKIBIcationが、人間だけではできない大自然がもたらす究極の対話の場だからだと確信しています。

 

福嶋:わざわざ対話のためだけに、大自然まで足を運んでいただく。実は、そこにTAKIBIcationの真髄があります。なぜなら、大自然には無理なく主体的になれる環境があるからです。都会のオフィスではふんぞりかえっている上司でも、ごく自然にメンバーの方々の食事を用意するようになるものです。非日常感の中で、楽しく新鮮な気持ちで主体的に動いていると、自ずと自分に向き合えます。

 

辰巳:しかも、いわゆる“上げ膳据え膳”ではないですからね。焚き付けの枝を探し、火を熾し、燃え続けるように枝をくべて。食事もあえて自分たちで準備できるようにしているなど、主体性を促す仕掛けがあります。

 

福嶋:でも、何のフォローもなく元の居場所に戻ってしまうと、せっかくほぐした気持ちや培った関係が続かない可能性もあると思うのです。だから、TAKIBIcationの前後でスコラ・コンサルトさんに関わっていただくことに大きな意味があるのですよ。対話を継続させ、成長させるプロセスの構築をスコラ・コンサルトさんにサポートしていただくことで、「ニューノーマル時代」に立ち向かう組織としての力を蓄えられるはずです。

物事をフラットに受け止める姿勢が共通していた

――そもそも、きたもっくとスコラ・コンサルトが出会ったきっかけはなんだったのでしょうか。

 

辰巳:私は信州大学を卒業しているのですが、ある日テレビを見ていて母校が「信州100年企業創出プログラム」という地域活性事業に取り組んでいることを知ったのです。面白そうだと思いまして、参画することになりました。そうしたら、このプログラムを担当されている中嶋聞多教授が「辰巳さんに合う人がいるから、ぜひ会ってください」と声をかけてくれました。

 

どんな方なのかお聞きしたら、マイナス20度になる冬場でも多数の集客に成功している「冬キャンプ日本一」のキャンプ場を創業された方だというので、お会いする前は少し構えていたところもありました。でも、対面して開口一番「長野の山猿です」とおっしゃって(笑)。ご一緒に経営されている奥様とのペアリングもすごく魅力的で、一気にファンになりました。

 

福嶋:私も良い意味でのギャップがありましたよ。実は、コンサルタントさんと関わって良い思いをしたことがあまりないので、社名を拝見して「ああ、コンサルか……」と少し嫌な気持ちになっていました(笑)。でも、実際にお会いしたら、今までたくさん接してきたコンサルタントとは全然違う。こんなコンサルタントもいるのか、と思いました。最初にお会いしてからまだ1年くらいですが(編注:対談は2020年2月に実施)、わりと早い段階で辰巳さんに「なにかいっしょにやりましょう」と申し上げました。

 

そうお声がけをしたのは、スコラ・コンサルトさんが私たちきたもっくと同じように「社会における役割」を非常に強く意識しているからです。2020年秋からの開始を予定しているTAKIVIVAも、構想としてはあったのですが、スコラ・コンサルトさんと出会ったおかげで急速に固まりましたので、コンサルティングフィーをお支払いしなければならないくらいです(笑)。

 

辰巳:スコラ・コンサルトにとっても、きたもっくさんとの出会いは必然だったと思っています。というのは、私たちは「オフサイトミーティング」という手法にこだわり、これまで累計15万件以上を実施してきました。会社では本音で話せないという人たちに向けて、「本音で話せる場」を提供してきたわけです。

 

しかし、オフサイトミーティングの場で話し合いのコーディネートはできても、話し合う場所そのものについてはしっくり来ていませんでした。ホテルなどで実施しても、本当の意味でのオフサイトの場にはなかなか近づかなかったのです。貸会議室ビジネスをされている企業様とパートナー提携の話し合いをしたり、自前の施設を作ろうかと考えたりしてきたのですが、なかなか思いを込めたこだわりの場を作れないという課題がありました。福嶋さんからTAKIVIVAの話をいただいたのは、そんなタイミングでした。「日本に新しいミーティング産業を興したい」というお言葉は、深く印象に残っています。

5G時代にあえてアナログな場づくりをする意義

――新型コロナウイルスの感染拡大により、ウェブミーティングが盛んになってきました。5G商用化によって、今後ますます利便性も高まっていくと思われますが、あえてアナログな焚き火の場所を設定する狙いはどこにあるのでしょうか。

 

辰巳:ウェブ会議が普及するのは必然でしょう。スコラ・コンサルトでも、新型コロナウイルス禍以前から推奨しています。それに、今後デジタル化がもっと進んで、VRやARの技術をより身近に使えるようになれば、ウェブ経由であっても直接対面しているような感覚で話せるようになる時代がくるかもしれません。

 

ただ、これは私自身の経験からいえる話ですが、ウェブ会議だと、相当に意識をしておかないと必要な情報しかやりとりしなくなります。メールやチャットでもそうですが、とりわけビジネスコミュニケーションだと、どんどん省力化が進んでしまうのですよ。そうすると、直接対面するミーティングで得られるさまざまな情報、たとえば思いとか熱量といったものが遮断されてしまいます。オフィスの片隅で、福嶋さんがぶつぶつ文句をいっている様子を把握するのも難しくなるわけです(笑)。

 

福嶋:アナログでしか伝わらない情報をどうとらえるかということですよね。技術の進歩は制約を取り払ってくれますが、制約が必要な場面も実はあるわけです。たとえば震災、大型台風といったコントロールできない気象変動が起きたとき、自然という制約を知らなければできない行動がありますから。

 

辰巳:今のお話で思い出すのが、福嶋さんに教えてもらった「ゼロポイント」という言葉です。自然には、豊かさだけでなく厳しさもあって、築き上げていったものを一瞬にしてゼロに戻してしまうことがあるというお話です。

 

福嶋:覚えていてくださってありがたい(笑)。それは、「ルオム」という言葉で理念化している私たちきたもっくの「未来は自然の中にある」(The future is in nature.)という考えにつながっています。これは、どこまでいっても自然に従うという考え方ですが、自然の中でいかに適応していくかが重要となってきます。わかりやすいのが建物です。先ほど、家族はシェルターだと申し上げましたが、建物も、人間が自然に適応するなかで欠かせないシェルターです。つまり、TAKIVIVAは、半野外にある焚き火で過ごす時間と、シェルターである建物に逃げ込む時間を演出する空間となります。

 

辰巳さんが「安全性・安心感」と「揺らぎ」が必要だとおっしゃいましたが、安全なシェルターである建物と、「揺らぎ」が起きる焚き火との間を行き来することで、関係性の再生を促すというわけです。シェルターである建物も、ただ快適性を追求せず、揺らがせるための工夫を施したいと考えています。

 

辰巳:東京で事業に成功し、たくさんお金が儲かっている人も、なにかあったらゼロになるかもしれない。デジタル化が進んで、制約のない世界が当たり前になっていると、ゼロの状態に耐えられないかもしれません。「それでも本当に幸せなんだろうか」という問いすら起きることのないまま生きていていいのですか、と問い直す必要がありますよね。デジタル化が進み、バーチャルなコミュニケーションが普及すればするほど、焚き火を媒介とした対話、TAKIBIcationの存在意義が高まっていくと確信しています。

「相談」の字が示す、焚き火との重要な関係

――TAKIBIcationをどのような人に利用してほしいと考えていますか?興味をお持ちの方にメッセージをお願いします。

 

辰巳:日々いろいろな企業のなかにはいっていて思うのは、現状に対して不安とあきらめを持っている人が多いことです。「なにか変えなければならない、このままじゃダメだ」と思っていても、「話してもムダ、聞いてもらえない」、「結果的に何も変わらない」「じゃあ目の前の仕事をやればいい」という負のループに陥っている人がたくさんいます。そこまで言語化できず、なんとなく不安を抱えている人も珍しくありません。

 

これは、組織が対立軸と評価軸で構成されているからなのです。もちろん評価は大切ですが、それが軸となると、「自分とあの人はどちらが正しいのか」、「どちらが評価されるのか」という思考でしばられてしまいます。評価を軸とするから、対立軸も生まれます。そうなると、評価に関係ない部分ではフラットに話すことができても、肝心な部分で自分自身の思いを正しく表現できません。評価の目線で見られている状態ですから、安心して話すこともできないのです。

 

その点、焚き火というのは面白くて、囲む人がそれぞれ向き合っているようで、火を見つめているため、実は向き合っていません。つまり、対立軸がないのです。

 

福嶋:しかも、とても不思議なことに、たとえネガティブな話からスタートしても、火があるところだと自然に前向きな話になっていくのですよね。同じ方向を見て、同じ目的を確認しあえるからだと思いますが、対立することなく、お互いに肯定しあう関係性が生まれます。さらに、焚き火で食材を炙っていっしょに食べると、実に味わい深いのです。そうした一連の体験をする中で、関係性が変わっていくのを、ぜひ体感いただきたいですね。

 

辰巳:うちのプロセスデザイナーが話していて「うまいこというなあ」と嫉妬したのですが、「相談」という字は「木を見て火に言う」となっているのですよ。周囲に木がある環境で、火を前に話し合うTAKIBIcationは、本当の意味での「相談」ができるサービスだと思っています。いろいろな不安を持っていても、「ああ、ここに仲間がいる」、「みんな不安で、変えたい思いがあったんだ」、「じゃあ変われるのでは」という正のループに乗ることができますので、組織を変えたいと考えている企業の方は、お気軽にお問い合わせいただければ嬉しいですね。