2019年11月28日 12:00

【NEWS LETTER】水と二酸化炭素に分解されるプラスチック『BioPBS(TM)』

ニュースレターでは、人々の暮らしを支える身近な製品・サービスや、経営戦略、ダイバーシティの取組みなど様々なトピックスを取り上げ、ニュースリリースだけではお伝えしきれない情報を幅広くご紹介します。

プラスチックごみによる海の汚染が世界的な注目を集めています。
環境保全団体であるWWFによると、既に世界の海には、約1億5,000万トンのプラスチックごみが存在し、少なくとも毎年800万トンが新たに流入していると報告しています。

一般的なプラスチックは軽くて耐久性が高い反面、自然分解されにくいという物性を持ちます。
廃棄されて川や海に流れ込んだプラスチックは、長期間、波や紫外線に晒されて劣化し、やがてマイクロプラスチックと呼ばれる5mm以下の小さな粒子となります。この微細なプラスチック片を、魚などがエサと一緒に食べ、食物連鎖を通じて多くの生物に取り込まれます。マイクロプラスチックによる生物への長期的な影響については、未だ明らかでない部分も多いですが、海洋生物をはじめ多くの生物に悪影響を及ぼす可能性があることが各方面の識者から指摘されています。

こうした事態を受けて、世界的にプラスチックの使用制限への取組みが進んでいます。EU理事会では、本年5月、2021年までに10種の使い捨てプラスチック製品の流通を禁止する法案を採択。米国では州や市が独自にプラスチック規制を進め、シアトルでは飲食店や食料品店などでプラスチック製のストローやフォーク・ナイフなどの提供を禁じる条例が施行されています。
国内においても、本年3月、環境省の中央環境審議会にて、「プラスチック資源循環戦略」が取りまとめられ、レジ袋有料化の義務付けや途上国への対策支援等が掲げられました。また、6月に大阪で開催された「G20サミット」では、海洋プラスチック問題が主要テーマの一つに挙げられ、会議後の首脳宣言において、2050年までに海洋プラスチックによる新たな汚染をゼロにすることを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を発表。国際社会による包括的なアプローチによって海洋プラスチック問題を解決することを確認しました。

海洋プラスチック問題を機に国際的な脱使い捨てプラスチックの流れが加速し、また、“海洋と海洋資源の保全”が国連の定める持続可能な開発目標(SDGs)のひとつに掲げられている中、今回のニュースレターでは、海洋プラスチックごみ問題の解決の糸口として昨年来、高い注目を集める三菱ケミカル株式会社(以下、三菱ケミカル社)の生分解性プラスチック『BioPBSTM』をご紹介します。

■「バイオプラスチック」と「バイオマスプラスチック」と「生分解性プラスチック」

「バイオプラスチック」と「生分解性プラスチック」と「バイオマスプラスチック」。
いずれも”環境に優しい”というイメージが先行し、しばしば混同して用いられています。
整理すると、「バイオプラスチック」には「バイオマスプラスチック」と「生分解性プラスチック」の双方の要素が含まれています。そして「バイオマスプラスチック」は、植物などの再生可能な原料を用いて作られるプラスチックの総称であり、生分解性とは限りません。 
一方、「生分解性プラスチック」は、土壌中などで完全に分解されるプラスチックのことで、必ずしも再生可能原料(非枯渇資源)であるとは限りません。
下図は、横軸を「生分解性」、縦軸を「原料のバイオ(植物由来)度」としてマトリクス化したもので、左にいくほど生分解性が高く、上に行くほど再生可能原料の比率が高いことを示しています。

《バイオプラスチックの種類について》

■石油資源の『PBS』から植物由来の『BioPBSTM』へ

上記の図の通り、かつて三菱ケミカル社では石油由来のPBS(ポリブチレンサクシネート)を事業化していましたが、二酸化炭素の排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルを目指して研究開発を続け、サトウキビやトウモロコシなど、植物由来のコハク酸による生成に成功しました。
『BioPBSTM』は、三菱ケミカル社が基本特許を有し、三菱ケミカル社の関連会社であるPTT MCC Biochem Company Limited※1(本社:タイ・バンコク、以下「PTT MCCバイオケム社」)にて生産。現在、年間2万トンの生産能力を持っています。

※1 PTT MCCバイオケム社/URL:http://www.pttmcc.com/new/

■『BioPBSTM』の特長①  - 通常の土壌環境でも分解可能なプラスチック -

代表的な生分解性プラスチックであるポリ乳酸(PLA)はコンポストなど高温な堆肥化施設では分解が進みますが、微生物の働きが抑えられる通常の土中では分解されにくくなります。一方『BioPBSTM』は、生分解性を有するプラスチックの中でも、特に常温での生分解性に優れ、通常の土壌環境でも、最終的に水と二酸化炭素に分解します。

《土中における『BioPBSTM』の生分解の様子》

■『BioPBSTM』の特長②  - 優れた耐熱性と食品衛生に関する法規制に対応 -

『BioPBSTM』は、一般的な生分解性プラスチックと比較すると高い耐熱性を持ち、他素材との相溶性も高いほか、低温ヒートシール性※2、柔軟性などで優れた性能を有します。これらの特長を活かしつつ、単体では発揮できない性能を、他の生分解性プラスチックとの複合材として実現することも可能です。 
加えて、アメリカ食品医薬品局(FDA)による「食品接触物質の届出」(FCN)をはじめ、各国の各種食品衛生に関する法律に準拠しているため、使い捨て食器や紙コップ、食品包装材用途にも利用することができます。

※2 ヒートシール性:袋を閉じる際に、熱をかけて接着剤を使用せずに貼り合わせる性能

■『BioPBSTM』の歩み

『BioPBSTM』は、1980年代後半から開発を進めており、2013年頃から海外を中心に試験的に商品を開発。タイ国内のコーヒーショップの紙コップや米国のレストランチェーンの食器類などを提供していました。その後、試験販売から得たデータをもとに改良を重ね、2017年5月に本格的に商業生産を開始しました。

■採用が進む『BioPBSTM』製品

2018年10月、『BioPBSTM』を用いた紙コップが、日本紙パルプ商事株式会社より発売されました。同社では、『BioPBSTM』の優れた生分解性に加えて、耐熱性・柔軟性・シール強度に注目し、紙コップの内面ラミネートをポリエチレンから『BioPBSTM』に変更しました。

また、翌年3月には、京浜急行電鉄株式会社と同社グループ会社が国内で初となる『BioPBSTM』製のストローを採用。ワシントンホテル株式会社も本年5月、同社の全てのホテルや飲食店などの施設のストローを『BioPBSTM』製に切り替えました。加えて、本年8月には、世界的なアパレルブランドである株式会社コム デ ギャルソンが世界19か国の直営店のショッピングバッグとラッピング袋を『BioPBSTM』に変更しています。

■社会が直面する課題の解決に向け、さらに評価が高まる『BioPBSTM

企業による採用事例の増加とともに、各方面からの『BioPBSTM』に対する評価も高まっています。本年4月、「ネクストジェン コンソーシアム」が主催した次世代のカップを表彰するコンテスト「ネクストジェン カップ チャレンジ」において、『BioPBSTM』を用いた紙コップが“最も革新的なカップ”のひとつに選定されました。同コンソーシアムは、世界的な食品包装廃棄物の問題解決を目的に米スターバックスとマクドナルドなどが設立。今回の「ネクストジェン カップ チャレンジ」は、循環可能な次世代の紙コップの事業化を目的に行われ、50カ国以上の国から480点の応募があり、『BioPBSTM』を用いた紙コップは、12点の入賞のひとつに選出されました。
また、2018年11月には世界中と連携してプラスチック問題の解決を目指す日本の取り組みを海外に紹介するため、外務省と環境省が作成したショートムービー『Japan’s Worldwide Projects for the Future of our Oceans』においても、『BioPBSTM』が紹介されました。

直近では、『BioPBSTM』を用いた農業用フィルム等の開発、及び実用化事業が、環境省が推進する『令和元年度脱炭素社会を支えるプラスチック等資源循環システム構築実証事業』の委託事業に採択されました。 
農業用マルチフィルムは農業生産に不可欠ですが、現状ではリサイクルが難しいため、使用後の回収・処分に大きな環境・労働・経済的な負荷が生じています。そのため、『BioPBSTM』の生分解を制御する方法を確立し、廃棄処理不要な農業用マルチフィルムをより多くの作物や地域に適用させることを目指しています。
海洋プラスチック問題により、世界規模での取組みが加速しています。SDGsにも“海洋と海洋資源の保全”が含まれており、消費者や投資家にとってはESGが企業を判断する指標になっています。
株式会社三菱ケミカルホールディングスでは、2011年度から、独自の経営管理指標として「KAITEKI」を掲げ、“人、社会、そして地球の心地よさがずっと続いていくこと”を目指し、環境への配慮を重要視してきました。『BioPBSTM』は、三菱ケミカル社の「KAITEKI」を実現した製品と言えます。
三菱ケミカル社では現在、海洋生分解性が高い製品の開発にも取組んでいます。今後は、原料のひとつである1,4-ブタンジオールを植物由来のものに変える予定で、既に量産化に向けたテストを行っています。100%植物由来の『BioPBSTM』が登場するのは間もなくのことです。

<本件に関するメディアからのお問い合わせ先>
株式会社三菱ケミカルホールディングス 
広報・IR室 TEL 03-6748-7140