2022年11月15日 10:00

神戸市による、「肥料の地産地消」 市内の下水からリンを抽出・肥料化、 肥料輸入価格高騰を受け、売上ペースが前年度の2倍に

~12月中旬から、一般家庭菜園に向けて1㎏1,000円程度で販売開始~

 神戸市は、10年前から市内の下水処理の過程でリンを回収し肥料化する事業に着手、回収されたリンを「こうべ再生リン」と名付け、肥料メーカーに販売しています。平成27年には、「こうべ再生リン」を活用した肥料「こうべハーベスト」が兵庫六甲農業協同組合(JA兵庫六甲)で販売が開始されました。

この「こうべハーベスト」が、昨今の肥料の輸入価格高騰を受け、本年度10月時点で売り上げペースがすでに昨年度の2倍、肥料メーカーからの問い合わせは約5倍、その他研究機関や他自治体などからの問い合わせも増えており、大きな反響を得ています。来たる12月中旬からは、一般家庭菜園などの用途に向けて、「こうべSDGs肥料」としてJA直売所や市内ホームセンターで、1kg1,000円程度で販売も開始予定、さらに活用の幅を広げます。担当者のご取材も承りますので、ぜひ企画の一助としていただけましたら幸いです。

1.肥料の輸入価格の高騰

 農作物の成長に欠かせない栄養素は「窒素」、「リン」、「カリウム」の3種類で、日本では、ほぼ全てを輸入に頼っており、中でも「リン」は、90%を中国からの輸入に頼っている。昨年秋、中国政府が輸出規制を強化したことで、「リン」の日本への輸出はほぼ停止した。そのため、日本の国内の肥料メーカーは、中国に代わる輸入先の選定に奔走しているが、リン鉱石の産出国は限られていることから、状況は改善していない。更にウクライナ危機も重なり肥料価格が急騰し、「リン」の輸入価格は大幅に跳ね上がっている。化成肥料の大半を輸入に頼っている日本では、いかに海外依存を減らし、食の安全を確保するかが喫緊の課題となっている。
 このような状況下で、神戸市が取り組む下水から「リン」を抽出し、肥料として販売する取り組みが、国や他の自治体、肥料メーカーから注目されている。

2.全国に先駆けて実施

 神戸市では、この事業に10年前から着手している。下水が通る配管に「リン」が付着して目詰まりを起こす事象が発生していたことが取り組みを始めたきっかけである。

 下水から「リン」を回収し、肥料として有効かつ循環利用することを目的とした実証事業を東水環境センターで実施した。なお、東水環境センターは、神戸市民151万人のうち、約37万人分の生活排水を処理する大規模な下水処理場である。生活排水である人間のし尿に「リン」が含まれているため、下水から「リン」を取り出すことができる仕組みだ。

3.下水から肥料の元「こうべ再生リン」を抽出

 汚水を海や川に放流する通常の流れは、汚水に含まれる固形物を沈めて取り除き、水に溶けている有機物を微生物が分解する。やがて、微生物は固形物として沈むので、これらを取り除くと自然の水と変わらない状態となる。沈殿し取り除かれたこれらの固形物(汚泥)を消化タンクと呼ばれる容器に入れ、空気と光を遮断するとメタン菌の働きにより有機物が分解される。するとメタンガスと二酸化炭素を含んだガスが発生する。更に汚泥を脱水して焼却することで下水処理としての工程は完了する。なお、同センターでは、発生したメタンガスからバイオガスを精製し、発電や自動車の燃料などに使い年間6200トンのCO2削減効果となっている。
神戸市では工程の途中で取り出した汚泥に水酸化マグネシウムを加えることで「リン」とアンモニウム、マグネシウムを結合させ結晶化させる。そこから不純物を除去し、乾燥させ、粉末状にしたものを「こうべ再生リン」として肥料の原料として販売する取り組みを行っている。
 神戸市で作られる「こうべ再生リン」は年間130トンもの生産能力があるが、製造コストが輸入価格の3倍もかかっていたため、実際の使用は25トンにとどまっていた。ところが「リン」の入手が困難になり、輸入価格が高騰しているため肥料メーカーからの注目を集めている。また、農林水産省が食料の生産力向上と維持の両立のため、昨年5月に「みどりの食料システム戦略」を策定し、輸入を減らして資源の循環利用を促進する動きもあり、神戸市の取り組みと合致している。

4.事業者・市民向けに販売し、循環型社会へ

 下水から回収された「こうべ再生リン」を活用した肥料「こうべハーベスト」はこれまでJA兵庫六甲を通じて農家に販売され、神戸市内の農家でつくられるキャベツやスイートコーンなどの神戸ブランド野菜「こうべ旬菜」や、市立小・中学校の給食で出される米「きぬむすめ」の栽培に使われてきた。
神戸市では、「こうべハーベスト」を一般の方が家庭菜園や園芸で使いやすいように、「こうべSDGs肥料」として12月中旬から小分け販売を開始する。1㎏1,000円程度で販売する。市民の方にもSDGsの取組やその意義を知っていただき、自らSDGsに取り組むきっかけとなることを願っている。

【参考】

  • こうべSDGs肥料の一般販売開始について

https://www.city.kobe.lg.jp/a99375/press/512294131477.html

  • 「こうべハーベスト」の利用促進について

https://www.city.kobe.lg.jp/a67688/press/20220823kobeharvestsien.html

  • みどりの食料システム戦略の策定について

https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/kankyo/210512.html