2021年8月2日 10:00

アジア初の国連イノベーション拠点である神戸で、 SDGs課題解決スタートアップが活動

ルワンダ出身、日本育ちCOOと20代日本人事業開発責任者が アフリカの「ポストハーベスト・ロス」に挑むなど、多様に活動

2020年11月、アジアで初めて国連プロジェクトサービス機関UNOPS(United Nations Office for Project Services)のイノベーション拠点が神戸市に開設。「Global Innovation Challenge」に採択された3社の取り組みを紹介します。

2020年11月、アジアで初めて国連プロジェクトサービス機関UNOPS(United Nations Office for Project Services)のイノベーション拠点が神戸市に開設した。UNOPSは、途上国におけるインフラ事業やヘルスケア事業、復興・人道支援、人材育成等を実施する国連機関で、SDGs達成に向けた民間との連携強化とイノベーション創出を目的として世界各地で事業を行っている。スタートアップ施策を推進してきた神戸市は国連の評価を受け、世界3か所目のUNOPS S3iイノベーションセンターの設置場所として選ばれた。現在、様々なバックグラウンドを持つ起業家が神戸に集まり、世界に向けてイノベーションを発信している。2020年に「Global Innovation Challenge」に採択された3社の取り組みを紹介する。

1.世界に羽ばたくSDGs課題解決スタートアップが神戸に集結

キブコールドグループCOO 
サムエル・イマニシムエさん

「ルワンダと日本の力を結集して、アフリカのポストハーベスト・ロス問題を解決します」

サグリ株式会社
代表取締役社長 坪井 俊輔さん

「AIと衛星データを活用して、世界の農業課題解決とCO2削減を目指します」

GSアライアンス株式会社
代表取締役社長 森 良平さん

「100%石油フリーなサステナブルな世界を、最先端の素材開発で実現します」

 

●アフリカ未電化地域でのフードロス解決を目指す!神戸市とルワンダの経済交流が生んだスタートアップが挑む。ルワンダ出身COOと20代日本人事業開発責任者の挑戦

 キヴコールドグループはソーラー発電と効率的な蓄電池、冷却エンジンを活用して、アフリカで課題となっている「ポストハーベスト・ロス」に挑む。アフリカでは、作物のおよそ30~50%が収穫後廃棄されると言われており、農家の収入減少や食糧供給不足の原因になっている。同社は電源網に依存しないコールドチェーン(冷蔵物流)の実現によりこの課題に挑む。9月からルワンダ・キガリ市コミュニティセンターに冷蔵施設を設置し、実証事業を開始する。また、ルワンダ政府が、庶民の足であるバイクタクシーの電化政策を掲げる中、同社発電・蓄電技術を生かした充電ステーションの展開事業も構想中で秋以降市場調査を開始する。
 キヴコールドグループは、神戸市とルワンダの経済交流がきっかけで生まれたスタートアップ。ルワンダ企業4社、日本企業2社で構成されるジョイントベンチャーで、ルワンダ商工会議所トップがCEOを務め、ルワンダ出身で日本育ちのサムエル氏と25歳の若き日本人事業開発責任者の橋本氏の3名が経営メンバーとなって新規事業に取り組む。
 サムエル氏は現在33歳。ルワンダで生まれ、ルワンダ虐殺を機に小学生の時家族で渡日し、日本で育った。工学院大学、ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジ卒業後、駐日ルワンダ共和国大使館広報担当官就任。2018年春から、フリーランスコンサルタント兼レックスバート・コミュニケーションズ株式会社コンサルティング事業部部長就任。キャリアを通じて、ルワンダの日本のビジネスの橋渡しを担ってきた。そして今、キヴコールドグループCOOとして、ルワンダと日本のスタートアップの力を結集し、食糧問題解決に挑んでいる。
 橋本氏は現在25歳。大阪大学在学中に株式会社サイバーエージェントでのインターン、米国留学を経験し、卒業後は同大学大学院情報科学研究科の技術シーズの事業化プロジェクトに従事。その後、キブコールドグループの参画企業であるスタートアップ企業ロケットバッテリー社に入社した。将来的に自身で起業することを目指し、キヴコールドグループの創業メンバーに加わった。グループの事業開発とシステム開発の両方を担当する。

●アジアやアフリカで農業課題解決とCO2削減を目指す!20代社長の挑戦

 衛星データを活用し、農業の課題解決を目指すサグリ株式会社(兵庫県丹波市)は「500startups KOBE Accelerator」の第3期に参加。UNOPSのプログラムに12ヶ月参加し、UNOPSアフリカ地域事務所や現地パートナーと同社技術の実証的導入に向けた検討を進めている。
 同社は人工衛星から取得した農地データを活用し、農作物の収穫予測や土壌状況のデータ化、耕作放棄地の発見等を行う事業を展開しており、神戸市では人工衛星画像を使った遊休農地の調査で実証事業を進めている。代表取締役社長の坪井氏は現在26歳。海外展開にも積極的で、2019年にはインドに進出。インドの人口約8億人のうち2.6億人が農業に従事していると言われ、大きな市場が見込める。タイでも実証事業を展開中。衛星データ×AI×農業分野で高い専門性を有し、農業業界を革新する可能性を秘めたスタートアップであると評価され、神戸市、兵庫県、民間企業等が連携し、2021年3月に組成した「ひょうご神戸スタートアップファンド」の第1号投資先として選定された。他の投資も含め、1億5,500万円の資金調達を達成し、さらなる成長が期待されている。
 坪井氏は大学入学後、民間初の宇宙教育の会社、「株式会社うちゅう」を学生起業。その中で、ルワンダにて、様々な夢を持っていながら農業に従事せざるを得ない子供たちを見て衝撃を受け、衛星データ等の先端技術を通じて、農林水畜産業や、街づくりインフラ、環境における課題解決を行うサグリ株式会社を2018年に設立。

●米国進出!生分解プラスチックで100%石油フリーな世界を目指すスタートアップ

 GSアライアンスは生分解性プラスチックの開発でSDGs課題解決に挑む。同社は、植物から抽出した繊維などを原料に、100%石油フリーの素材を開発した。仮にプラスチックごみとして廃棄されても最短2年で生物により分解され土や海に還る素材で、スプーンやフォークの他、サステナブルなネイルチップが欧米の女性に人気だ。国内特許7件、国際特許1件を取得しており、20ヵ国に販売実績がある。
 森氏は京都大学大学院卒業 博士(工学)取得。日系メーカー企業の欧州駐在員として勤務した後、冨士色素株式会社の代表取締役社長として新規事業立ち上げ、海外営業などを手掛けた。2010年に主に環境、エネルギー分野向けの最先端材料の研究開発、製造販売を行うGSアライアンス株式会社を社内ベンチャーの形で起業した。「環境に貢献したい」とライフワークとして立ち上げ、現在、8人の研究体制で取り組む。同氏は国連機関とともに地球環境に貢献できるとプログラムに応募。国連の支援を受けたことで、グローバル展開を見越した事業戦略策定や、海外投資家へのプレゼンスキルが向上し、大手企業からの問い合わせも増加した。サステナブルに関心の高い欧米市場を見据え、8月にはボストンに米国支社を開設予定。また、S3iイノベーションセンターのあるアンティグア・バーブーダのスタートアップとの連携で、カリブ海全域で海水温上昇により異常繁殖し、観光・漁業・生態系に甚大な被害をもたらしている海藻(サーガスム)を素材としたバイオマス素材の製品開発の取り組みを開始した。

2.背景―神戸はアジア初の国連イノベーション拠点

 先端テクノロジーを活用したビジネスで急成長を目指す起業家「スタートアップ」に神戸市が着目したのは2015年。スタートアップが挑戦でき、成長できる街にしていこうと、大きく舵を切った。
 同年、米国西海岸を訪れた久元喜造神戸市長は、世界的に知られているシリコンバレーの投資ファンド「500 Startups」のオフィスをたまたま訪問した。そのとき、同ファンドの幹部から「世界各地にシリコンバレーの起業家育成のノウハウを輸出し、その地域でのエコシステム(新たなビジネスが生まれやすい環境)の構築をサポートする準備がある」と唐突に提案があったことが、翌年から神戸市との育成事業を始めるきっかけだった。
 シリコンバレーの投資ファンドと組んだ起業家育成は、民間を含めても国内で初めて。500 Startupsとしても米国外で初めて行う育成事業であったので、世界的にも大きな注目を集めた。2016年からの5年間で1000社以上(うち約半分が海外から)の参加申込の中から88社が参加する。この事業の成果は、参加したスタートアップによる資金調達で評価するが、参加88社の調達額は現時点で130億円を超える。

 

 FinTech(金融)やEdTech(教育)といった「x Tech」という言葉の一つに、政府(Government)と技術(Technology)を組み合わせた、「GovTech(ガブテック)」がある。ほかの「x Tech」と同じく、テクノロジーを使って業務効率を高めたり、新しい市民サービスを生み出したりする。それゆえ、民間企業のオープンイノベーションがそうであるように、斬新なアイデアと機動力を持つスタートアップとの相性が良い。そこで2017年に、市職員とスタートアップが共同開発を進める「Urban Innovation KOBE」を始めた。これまでに、子育てイベントを検索できるアプリでイベント参加者が増加したり、窓口にあった紙のマニュアルをタブレットアプリに置き換えて短時間で正確な案内できるようになるなど、成功事例が生まれ続けている。
 このような自治体らしからぬ取組みが注目を受けて、2020年にアジアで初めてとなるUNOPS S3iイノベーションセンターが開設。国連は、神戸を選んだ理由として「米国シリコンバレーの投資ファンドと組んだ起業家育成、スタートアップと市職員の共同開発などイノベーション施策への熱意と本気度を強く感じた」と説明している。

3.神戸発のイノベーションを加速!SDGsチャレンジプログラムスタート

 神戸市では兵庫県とともに、S3iイノベーションセンターと連携したプログラムを開始している。同センターが把握するSDGsに関するビジネスニーズに対し、兵庫県内を中心としたスタートアップ・中小企業が持つ技術・ノウハウ・ネットワークを活用し、SDGsの課題解決となるビジネスモデルの構築や事業の海外展開を支援し、更なるイノベーション創出を目指す。

取材について

500 Startupsとの連携を実現し、UNOPS S3iイノベーションセンターの開設を成功させた神戸市の体験談と今後の展開を職員がお話しますので、ぜひ取材してください。実際に支援を受けたスタートアップや、支援を行う職員への取材も可能です。

〇神戸市新産業課長 武田 卓
〇キヴコールドグループ COO サムエル・イマニシムエ 様
General Manager 橋本 琢朗 様
〇サグリ株式会社 代表取締役社長 坪井 俊輔 様
〇GSアライアンス株式会社 代表取締役社長 森 良平 様
〇UNOPS S3i Innovation Centre Japan (Kobe) 
UNOPS Innovation Specialist 杉迫 直子

【参考】

●UNOPS S3i Innovation Centre Japan(Kobe)
国連プロジェクトサービス機関UNOPS(United Nations Office for Project Services)のSDGsの課題解決型ソリューションを創出するイノベーション拠点
https://web.pref.hyogo.lg.jp/sr10/unops_about_us.html

●「Global Innovation Challenge」プログラム
2020年に実施したS3iイノベーションセンターに、スタートアップが入居し、メンターからの助言や海外展開の支援を行うプログラム。「テクノロジーを用いた強靭なインフラを作り、気候変動への対処を強化する」をテーマに、98か国624社より6社選定(日本3社/フィリピン1社/中国1社/ルワンダ1社)。

●「SDGs CHALLENGE」プログラム
兵庫県・神戸市とUNOPSが連携し、世界のSDGsの課題解決を目指すスタートアップ・中小企業等に対し、メンタリング・ネットワークの提供等を通じて、事業成長や海外進出をサポートするプログラム
https://www.city.kobe.lg.jp/a14333/business/sangyoshinko/shokogyo/venture/newindustry/press/879205760621.html