2025年4月、神戸市で、市内2基目のリン回収施設・玉津処理場が稼働 全国最大のリン回収能力を実現
~「こうべ再生リン」を活用した肥料で育てた農産物が市民の食卓・学校給食へ~
2025.6.2 15:00
神戸市では、平成23年(2011年)から10年以上にわたり、下水汚泥から取り出したリンを肥料の原料として回収する資源循環の取組み(「こうべ再生リン」プロジェクト)を推進し、食料安全保障の課題に取り組んでいます。
「こうべ再生リン」から肥料が作られ、その肥料を使って育てた農産物が、市民の食卓や教育に活用されるまでに成功しているのは、国内でも珍しく、神戸市の強みになっています。
1 リンを取り巻く世界情勢
・リンは、窒素・カリウムとともに、肥料の3大要素の一つと言われており、食糧生産に不可欠な資源ですが、現在、日本ではほぼ全量を輸入に頼っています。
・リン鉱石は世界的に遍在しており、日本も特定の国からの輸入が大半を占めています。
・リン鉱石は有限であるため、将来的な枯渇が懸念されています(推定可採年数:約310年)。
2 国内の動き
・近年では、令和3年(2021年)に最大のリン輸出国である中国が輸出制限をかけたことやロシアのウクライナへの侵攻に伴う経済制裁など国際情勢の変化により、輸入価格の高騰が起こり、現在は収まりつつあるものの高止まりの状況が続いています。
・このことから、国は、令和12年(2030年)までに、下水汚泥資源・堆肥の肥料利用量を倍増し、肥料の使用量(リンベース) に占める国内資源の利用割合を40%まで拡大する目標を示しています。
・国内資源としては、家畜糞肥料や下水汚泥のコンポスト化や「リン回収」があります。
3 下水に眠るリンの活用
・実は、下水には肥料の原料となるリンが多く含まれています。
・リンは食物に含まれており、その食物を人が食べ、そして排泄されるためです。
・全国の下水には約5万トンのリンが含まれており、これは国内農業のリン需要の約1/6に相当します。
・多くは人口が集中する都市部に分布しており、都市部の下水は、まさに「リンの鉱山」と言えます。
・ところが、リンは、下水道にとって厄介者です。下水に含まれるリンが自然に結晶化して、下水処理場内の配管の閉塞(目詰まり)の原因にもなっているからです。
・そのため、配管の目詰まりの原因となるリンを取りだし、肥料として利用することを目指して、神戸市では、平成23年(2011年)から下水汚泥からリンを回収する研究を開始しました。
4 資源循環「こうべ再生リン」プロジェクト
・神戸市では、「下水処理場の配管閉塞抑制」、「資源の有効活用」を図ることを目的に、生活排水に含まれるし尿からリンを効率的に回収し、「こうべ再生リン」と名付けて、農作物の生育に適した肥料に加工して市内の農業生産者や市民に供給する「資源循環」の取組み有効利用を行っています。
5 リンの回収方法
(1)通常の下水処理場での下水処理工程
①汚水に含まれる固形物を沈めて取り除き、水に溶けている有機物に関しては微生物が分解します。
②やがて微生物も固形物として沈むため、それらを取り除くきれいな水になります。
③その後、沈殿し取り除かれたこれらの固形物(汚泥)を消化タンクと呼ばれる容器に入れ、空気と光を遮断すると、メタン菌の働きにより有機物が分解されます。
④メタンガスと二酸化炭素を含んだガスが発生します。※下水特有のニオイなどもこの時点で改善されます。
⑤更に汚泥を脱水して焼却することで下水処理としての工程は完了です。
(2)リンの回収方法
・神戸市では、上記の通常の下水処理の工程の途中で取り出した汚泥に水酸化マグネシウムを加えることで「リン」とアンモニウム、マグネシウムを結合させ結晶化させています。
そして、そこから不純物を除去し、乾燥させ、粉末状にしたものを「こうべ再生リン」として回収しています。
※なお、発生したバイオガスからメタンガスを精製し、発電や自動車の燃料などに使い年間6,200トンのCO2削減効果となっています。
6 リン回収施設の稼働状況
・これまで東灘処理場で下水からのリン回収を行ってきましたが、令和7年(2025年)4月には、玉津処理場(西区)にもリン回収設備を新設し、市内計2基体制でのリン回収を開始しました。
・玉津処理場は、東灘処理場のリン回収施設より処理効率が向上しており、約1.5倍の処理能力を有します。
・2基合計で年間200tの回収能力となり、全国最大の回収能力が実現します。
〇東灘処理場 〇玉津処理場

7 肥料の地産地消
・こうべ再生リンは、窒素、リン、マグネシウムが豊富に含まれており、そのままでも肥料として使用可能なものであり、平成30年(2018年)より、神戸ワイン用ブドウに試験栽培を行っています。
・広く普及するには作物ごとに適した配合が必要になることから、JA等の農業関係者と協力して開発した、野菜用、水稲用、山田錦用の地域循環型肥料「こうべハーベスト」が、平成27年(2015年)より、販売開始されており、市内農家で野菜や米の栽培に利用されています。
・一般市民の方が利用しやすいように1㎏に小分けした「こうべSDGs肥料」も、令和4年(2022年)12月より、販売開始しています。
・コープこうべとの協働で、工場で発生する食品廃棄物を原料とした「食品リサイクル堆肥」に「こうべ再生リン」を配合した家庭園芸用土「兵庫県産の食品リサイクル堆肥使用 花と野菜の培養土」も、令和7年(2025年)4月より、販売開始しています。
〇こうべワイン用ブドウ 〇こうべハーベスト

○こうべSDGs肥料 〇コープ肥料

8 市民の食卓への提供、教育への活用
(1)市民の食卓への提供
・こうべ再生リンを使用した肥料で育った作物は、BE KOBE農産物というブランド野菜や学校給食用のお米、酒米からできた日本酒として、市民に届けられています。
〇BE KOBE農産物


〇学校給食

・神戸は酒どころであり、神戸市の取組みに協賛いただいた灘の酒蔵「酒心館」では、こうべハーベストで栽培された酒米「山田錦」を100%使用して醸造された日本酒が販売されています。
「福寿・環和」純米吟醸:令和3年(2021年)6月、純米大吟醸:令和7年(2025年)4月販売開始。
~持続可能な社会の実現を目指すSDGsの取り組みの中から生まれた、環境にもやさしい一本~
〇純米吟醸 〇純米大吟醸

(2)教育への活用
・小学4年生向けの「神戸っ子SDGsプログラム」では、こうべ再生リンを環境教育・食育・広報手段として活用しています。
「出前授業」
・下水担当職員が先生となり、下水処理の仕組みと資源循環の授業を実施。
「スイートコーン」の収穫体験
・こうべハーベスト肥料で栽培したスイートコーンを収穫体験。
・下水道資源循環と食育を肌で感じてもらうプログラム。
9 今後の展開
・地元のJAと協力して、肥料の開発から試験栽培、一般販売までの地産地消モデルを国内で初めて確立しており、全国的にも成功事例として注目されています。
・今回の玉津処理場でのリン回収開始により、市内供給量が200tとなりますが、将来的には供給施設の増設により、「こうべ再生リン」の供給量をさらに増やし、市内だけでなく、全国で活用いただくことを目指します。
・神戸市は、SDGs貢献都市として、引き続き、「こうべ再生リン」プロジェクトがひとつのモデルケースとして全国に普及することで、食料安全保障につながることを目指していきます。