『次なる成長に向けた日本製造業の課題 日本企業の経営課題 -製造業編-』 調査結果発表
製造業企業の約7割が新規事業開発に注力 しかし、事業目標の達成度は 「目標以上」が2%、「目標通り」が24%にとどまる
2024.6.7 14:00
一般社団法人日本能率協会(会長:中村正己、JMA)は、企業が抱える経営課題を明らかにし、これからの経営指針となるテーマや施策の方向性を探ることを目的に、1979年から「当面する企業経営課題に関する調査」を実施しています。今回は「製造業」にフォーカスを当て、経営資源や組織風土、新規事業への取り組み状況等を調査することで、今後の日本製造業の事業発展に向けた課題を探ることを目的としています。本稿では、新規事業開発に関する調査結果を取り上げます。
1.製造業企業の約7割が新規事業開発に力を入れている しかし、事業目標の達成度は「目標以上」が2%、「目標通り」が24%にとどまる
2.新規事業を成長させるために取り入れている仕組みは、「新たなことに積極的な企業文化」 最も多く、特に売上が伸びている企業に顕著
3.新規事業が成長していない要因は、「収益を立てられるビジネスモデルが構築できない」が最も多い
4.新規事業に力を入れていない理由は、「人材不足」「新規事業のコアになる製品・製造の技術がない」の順に多い |
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「次なる成長に向けた日本製造業の課題 日本企業の経営課題 -製造業編-」概要
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調査時期 2023年8月18日~9月13日 調査対象 JMAの法人会員ならびにサンプル抽出した全国の製造業主要計7,560社の代表者または製造部門の責任者様
調査方法 郵送調査法(質問票を郵送配布し、インターネットにより回答)
回答数・回答率 回答数740社・回答率9.8% (回答企業の概要は7ページに記載)
【本調査の分析について】
本調査では、売上状況と期間に基づき下記の区分を作成し、分析に用いています。なお、当該設問が未回答であったため、どの区分にも該当しないサンプルが7件存在します。また、集計結果は百分率(単位:%)で表示し、小数点第1位を四捨五入しているため、合計値が一部合わない箇所があります。
■売上伸長区分
①伸長 :コロナ以前の3年・コロナ後の3年どちらも売上が伸びていると回答した企業
②コロナ後伸長:売上がコロナ以前の3年は停滞もしくは低下していたが、コロナ後の3年は伸びていると回答した企業
- ③コロナ後停滞:売上がコロナ以前の3年は伸長していたが、コロナ後の3年は停滞もしくは低下していると回答した企業
- ④停滞 :コロナ以前の3年・コロナ後の直近3年どちらも売上が停滞もしくは低下していると回答した企業
1.製造業の約7割が新規事業開発に力を入れている しかし、事業目標達成度は「目標以上」が2%、「目標通り」が24%にとどまる
○はじめに、新規事業開発の取り組み状況を尋ねたところ、【図1-1】のとおり、「力を入れている」が67%、「力を入れていない」が32%と、製造業企業の約7割が新規事業開発に力を入れていました。売上伸長区分別でみると、「伸長」では「力を入れている」が71%と全体と比較して高い割合となりました。
【図1-1】 新規事業開発への注力度
- ○次に、新規事業開発に力を入れていると回答した企業に対して、目標に対する達成状況を尋ねたところ、「目標以上」が2%、「目標通り」が24%、「目標に満たない」が74%でした。目標を上回る達成状況の企業はごくわずかであり、多くの企業が目標を達成できていないことがわかりました。【図1-2】
- ○売上伸長区分別でみると、「伸長」や「コロナ後伸長」では、「目標以上」「目標通り」が3割前後であるのに対し、「コロナ後停滞」ではその割合は24%、「停滞」では12%にとどまりました。
【図1-2】 新規事業目標に対する達成度合い
2.新規事業を成長させるために取り入れている仕組みは、「新たなことに積極的な企業文化」が最も多く、特に売上が伸びている企業に顕著
○また、新規事業開発に力を入れていると回答した企業に対して、新規事業を成長させるために取り入れている仕組みについて尋ねました。全体では「新たなことに積極的な企業文化」の割合が48%と最も高く、次いで「社長直轄組織」「投資採算性(短期的成果)だけの評価をしない」(同率36%)、「改革リーダーの配置」(35%)の順となりました。一方で、「スタートアップを後押し(社外ネットワーク活用など)」「オープンイノベーション」は2割未満と、取り入れている企業は一部にとどまることがわかります。【図2】
- ○売上伸長区分別でみると、「伸長」は、「新たなことに積極的な企業文化」の割合が6割以上と、全体と比較して10ポイント以上高い結果となりました。
【図2】 新規事業を成長させるために取り入れている仕組み
3.新規事業が成長していない要因は、「収益を立てられるビジネスモデルが構築できない」が最も多い
○過去10年間で取り組んだ新規事業の状況を尋ねたところ、「成長している事業がある」が49%、「成長している事業はない」が30%、「新規事業に取り組んでいない」が20%と、全体の約半数の企業で成長している新規事業があるという結果になりました。【図3-1】
- ○売上伸長区分別でみると、「新規事業に取り組んでいない」の割合はどの区分でも2割前後であるのに対して、「成長している事業がある」は「伸長」で60%、「停滞」で39%と20ポイント以上の差となりました。
【図3-1】 過去10年間で取り組んだ新規事業のうち、成長している事業の有無
- ○次に、成長している事業があると回答した企業に対して、最も成長している新規事業の概要について尋ねたところ、「既存事業の多角化」の割合が42%と最も高く、次いで「既存の技術・製品に代わる新たな価値創造」(38%)、「新技術で新市場へ参入」(16%)の順となりました。【図3-2】
- ○売上伸長区分別でみると、「伸長」「コロナ後伸長」は「新技術で新市場へ参入」の割合が全体と比較して低く、対して「コロナ後停滞」「停滞」は高いことがわかります。
【図3-2】 最も成長している新規事業の概要
- ○また、成長している事業がないと回答した企業に対して、事業が成長していない要因について尋ねたところ、「収益を立てられるビジネスモデルが構築できない」の割合が36%と最も高く、次いで「新市場を形成できない」(16%)、「営業力・プロモーション力がない」(15%)、「技術開発できない」(14%)の順となりました。【図3-3】
【図3-3】 新規事業が成長していない要因
4.新規事業に力を入れていない理由は、「人材不足」「新規事業のコアになる製品・製造の技術がない」の順に多い
○新規事業開発の取り組み状況の質問で、新規事業に力を入れていないと回答した企業に対し、力を入れていない最大の理由を尋ねたところ、「人材不足」の割合が最も高く、次いで「新規事業のコアになる製品・製造の技術がない」という結果となりました。【図4】
【図4】 新規事業に力を入れていない最大の理由
調査結果を受けてのコメント ○今回は、製造業企業を対象に実施した「次なる成長に向けた日本製造業の課題 日本企業の経営課題 -製造業編-」の中から、新規事業への取り組み状況に関する調査結果をご紹介しています。
○新規事業を成長させるために取り入れている仕組みについては、「新たなことに積極的な企業文化」が最も多く挙がり、特に売上が伸長している企業において顕著でした。この結果は、新規事業開発において、変化に柔軟に対応し、革新を続けられる企業文化の重要性を示唆しています。併せて、取り組みが内部にとどまり、外部との協業が十分には進んでいない現状も浮き彫りになりました。企業が今後の成長戦略を考える上では、外部のリソースとの連携により、新たなアイデアやビジネスモデルの探索を積極的に行う必要性があると考えられます。 ○新規事業が成長していない要因として「収益を立てられるビジネスモデルが構築できない」が最も多く挙げられています。これは、新規事業の企画段階での市場分析やビジネスモデルの検討が不十分である可能性を示しています。企業は、新規事業を立ち上げる際に、市場ニーズを的確に捉え、持続可能なビジネスモデルを構築するための戦略的アプローチが求められます。そのためには、計画初期段階での市場調査や競合分析が不可欠です。 ○新規事業に力を入れていない理由として「人材不足」が最も多く挙げられています。この結果から、製造業において人材育成や確保が大きな課題であることが示唆されています。技術革新やDXの進展に伴い、必要とされるスキルが変化していることが考えられ、企業はリスキリングや人材育成プログラムの充実を図り、新たなスキルを持つ人材を育成する必要があるといえます。 ○総じて、日本の製造業が次なる成長を遂げるためには戦略的な新規事業開発が重要であり、その実現に向けては、新たなことに積極的な企業文化、持続可能なビジネスモデルの構築、人材開発・育成が鍵となります。これらの課題に対して、企業は内部リソースの活用だけでなく、オープンイノベーションの取り組みやスタートアップとの協業、また外部の専門家やコンサルタントの協力を得ることで、より効果的な取り組みを進めることが求められています。 |
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