米中対立をどうみるか
2019.5.13 11:00
米中の対立は、戦後の世界の秩序を大きく変える可能性をはらむ。米中の対立の本質をどうみるべきか。戦後の平和と自由貿易を前提に繁栄を享受してきた日本は、今後どのように対応すべきか。経済面のみならず、安全保障上のスタンスを含めて議論を深めることが求められている。
公益財団法人NIRA総合研究開発機構(代表理事会長 牛尾治朗)は、学者や研究者、専門家のネットワークを活かして、公正・中立な立場から政策提言を行うシンクタンク。米中対立の本質を探り、日本がどのように対応すべきかを考える。
企画に当たって
米中対立の本質は何かー日本は新しい国際秩序に対応する覚悟をー
翁 百合 NIRA総合研究開発機構 理事/日本総合研究所 理事長
二〇一九年春に予定されているという米中首脳会談で、米中関係の悪化は解決できるのだろうか。
この答えを探るために、トランプ大統領が着任して以降次第に明らかになってきた米国と中国の対立の背景をひもとき、両国関係の今後を考えねばならない。
本号でインタビューした識者は、共通して、米中の対立が今後も長く続く根深いものであると見ている。「中国製造2025」で掲げられた5G、人工知能といった中国のテクノロジーが国防レベルの脅威となっていることは、この問題の根深さを考えさせる。
日本は複眼的な視点で米中対立の背景を見極めながら、緊張感をもって新しい国際秩序に対応していく覚悟が必要だ。
識者に問う
米中対立の本質をどうみるべきか。日本はどう対応すべきか。
「米中対立は国内事情の帰結」
待鳥 聡史 京都大学大学院法学研究科 教授
対立は、両国の国内事情の帰結である。国際協調のためのコストは負担できず、対立は長引く。
「西側諸国はリベラル・デモクラシーの魅力を高めよ」
中西 寛 京都大学大学院法学研究科 教授
西欧のリベラル・デモクラシーと中国の皇帝独裁制という二つの体制が、テクノロジーを用いて競争する構図だ。
「新しい国際秩序を目指す中国・米中対立、日本は「アジアの国」として認識を深めよう」
川島 真 東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻 教授
今は時代の転換点であり、アジアに位置する日本は「非民主主義国家」中国とどう関係を築くか危機感をもって考えるべき。
「これからは安全保障の視点からの経営判断の時代」
細川 昌彦 中部大学 特任教授
ファーウェイは禁輸対象となる可能性がある。今後は安全保障の視点からの「保険」のかけ方が、経営者に問われる。
「二つの体制が存在する世界」
マーティン・ウルフ 英フィナンシャル・タイムズ チーフ・エコノミクス・コメンテーター
強大になる中国との競争と協調の組み合わせが必要で、対立に持ち込むべきではない。
データで見る 米中対立をどうみるか
主要国間の貿易額(2017年)
「新たな「冷戦」が始まったと考えるべきか?世界経済に組み込まれているという意味ではNoだ。(ウルフ先生)」
出所)IMF, “Direction of Trade Statistics (DOTS)”.
世界のモバイル通信インフラの市場シェア(2017年)
「ファーウェイが狙っている5G、あるいは人工知能のような基幹テクノロジーの分野で、中国は支配的な立場を築きつつある。(中西先生)」
注)モバイル通信インフラは、ハードウェア(2G/3G/LTE)の市場シェア。
出所) IHS Markit (2018) “Market Insight Global mobile infrastructure market down 14 percent from a year ago”.
https://technology.ihs.com/600864/global-mobile-infrastructure-market-down-14-percent-from-a-year-ago.
ペンス米副大統領演説
「ペンス米副大統領の演説が示すように、今回の米中対立は、貿易や技術にとどまらない問題だ。(中西先生)」
「中国への警戒心は、かなり前からワシントン全体で共有されており、「通奏低音」として響き続けている。(細川先生)」
出所)“Remarks by Vice President Pence on the Administration’s Policy Toward China”
https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/remarks-vice-president-pence-administrations-policy-toward-china/
中国企業の直接投資(対GDP比)
「中国は、一帯一路で西方に進み、先進国が存在しないユーラシアからアフリカに至る地域で道路、鉄道などのインフラ投資や、衛星・通信技術など国際公共財の提供を進め、一つの経済圏を形成しつつある。そこで中国は、民主主義に基づかない国際秩序の空間をつくろうとしている。(川島先生)」
注)中国企業の直接投資(2014–18 年の平均、建設目的を含む)を GDP(2017 年)比で除したもの。企業には、国有企業も含まれる。地図上の国名は上位8か国(ただし、南米のアンチグア・バーブーダ(13.2%)を除く)。
出所)AIE, China Global Investment Tracker. The World Bank, World Development Indicators.
識者紹介
待鳥 聡史 京都大学大学院法学研究科 教授
政治学者。専門は比較政治。研究テーマは、制度比較、また時系列比較を通じた、政党間関係や執政部・議会関係の分析。現代の日本政治と米国政治を主な研究対象としており、著書・寄稿も多数。博士(法学)(京都大学)。近著に、『民主主義にとって政党とは何か―対立軸なき時代を考える』(ミネルヴァ書房、二〇一八年)、『アメリカ大統領制の現在―権限の弱さをどう乗り越えるか』(NHKブックス、二〇一六年)他。
中西 寛 京都大学大学院法学研究科 教授
国際政治学者。主要研究テーマは、二〇世紀国際政治および国際政治学の歴史的研究、戦後アジア・太平洋地域の国際関係史、日本外交および安全保障政策。第二次安倍内閣「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」委員、「新日中友好二一世紀委員会」委員等の公職も歴任。京都大学法学修士。近著に、『提言日米同盟を組み直す―東アジアリスクと安全保障改革』(共著、日本経済新聞出版社、二〇一七年)他。
川島 真 東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻 教授
政治学者・歴史学者。専門は東アジア政治、政治外交史。世界平和研究所上席研究員等も兼務。内閣府国家安全保障局顧問など、国際政治や外交に関わる公職を歴任。日本現代中国学会理事。北京日本学研究センター他、中国での在外研究も多い。博士(文学)(東京大学)。著書『中国近代外交の形成』(名古屋大学出版会、二〇〇四年)でサントリー学芸賞を受賞。『21世紀の「中華」―習近平中国と東アジア』(中央公論新社、二〇一六年)他、著書多数。
細川 昌彦 中部大学 特任教授
元経済産業省(旧通商産業省)。現在は大学で経済学の教鞭をとるかたわら、テレビ出演、講演活動や自治体・グローバル企業の顧問、役員も務める。経済産業省では、通商政策局米州課長、貿易経済協力局貿易管理部長等、日米通商交渉の最前線を担当。東京大学法学部卒。経済産業省在職中に、スタンフォード大学客員研究員、ハーバード・ビジネス・スクールAMP修了。著書に、『暴走トランプと独裁の習近平に、どう立ち向かうか?』(光文社新書、二〇一八年)他。
マーティン・ウルフ 英フィナンシャル・タイムズ チーフ・エコノミクス・コメンテーター
ジャーナリスト。FT紙のコラムは、幅広い見識と、洞察力に富む鋭い分析力で、金融の専門家のみならず、多くの読者を惹きつけている。二〇〇〇年、金融のジャーナリズムに対する業績で、大英帝国勲章(CBE)叙勲。著書多数。オックスフォード大学経済学MPhil取得後、世界銀行シニアエコノミスト等を経て、一九八七年にフィナンシャル・タイムズ紙へ、一九九六年より現職。
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