「フリーワーカー」に対する法政策はどうあるべきか

デジタライゼーションが進む産業社会で求められるのは、AIやロボットに代替されない、イノベーションを生みだす創造性をもつ人材だ。

こうした人材は、雇用労働者のように時間や場所に拘束され、指揮監督を受けた就業環境ではなく、特定の企業に帰属せず、ICT(情報通信技術)を活用して自由に場所や時間を選択して能力をフルに発揮できる就業環境を求める。

ここでは、企業に雇われずに個人で働く人材を「フリーワーカー」と呼ぶ。フリーワーカーは、これまでは特段の政策的サポートの対象とされてこなかった。そうした人々は、雇用労働者とは異なりまだ少数派であり、自由な働き方ゆえ自己責任に委ねてよく、政府による保護の必要はないと考えられてきたからだ。しかし、デジタル社会の到来により、多くの人がネットを活用してフリーワーカーとして働くようになると、この働き方のもつ経済リスクを自己責任として放置するのではなく、むしろそれをできるだけ取り除くことが、産業政策的な観点からも、また国民の職業選択の自由の保障という観点からも望ましい。

フリーワーカーをめぐる政策課題は、労働法、競争法、社会保障法、税法等の多くの分野にまたがるので、分野横断的に知見を結集して取り組んでいくことが必要だ。

大内 伸哉
Shinya Ouchi
神戸大学大学院法学研究科教授

神戸大学大学院法学研究科教授 大内伸哉

 

フリーワーカーには、労働法が適用されない

 

ここでは、雇われずに(独立して)個人で働く者で、従業員を雇用していない、すなわち労働法上の使用者ではない者を「フリーワーカー」と呼ぶ。一般には、こうした人たちの呼び方は、個人事業主、個人自営業者、フリーランス、インディペンデント・コントラクター(independent contractor)、個人請負業者、自営的就労者など多様だ。

フリーワーカーには、「誰からも指揮命令を受けないで働く」という理由で労働法は適用されない。フリーになると、労働法で保障されていた時間外労働に対する割増賃金、年次有給休暇、最低賃金などは適用されない。

しかし、フリーワーカーが、指揮命令を受けていないというだけで、法による保護を受けないとする現行法の取り扱いには、今後は再検討の余地が十分にある。たとえ指揮命令を受けて働いていないとしても、低収入のクラウドワーカーなどロースキルのフリーワーカーへに対する保護の必要性は決して低いとはいえないだろう。

 

フリーワーカーは、今後増加する

 

現在の就業者の大多数は、雇用労働者であり、フリーワーカーは、就業者の8%程度しかいない。この数字をみると、これまでの法制度が、雇用労働者を中心に構築されてきたことにはやむを得ない面がある。ただ、現在進行中の技術革新の影響を考慮に入れると、労働需要の面でも、労働供給の面でも、雇用労働者からフリーワーカーへのシフトは進んでいくと予想できる。

その理由として、第四次産業革命による創造性の高い人材へのニーズが高まること、そうした人々はフリーワーカーとして働くことを希望すること、そして、プラットフォーマーを介した仕事の受発注のマッチングが容易となっていることがある。それに加えて、シェアリングエコノミーの広がりもフリーワーカーの増加を後押しする。

 

どのような政策対応が必要か

 

フリーワーカーと雇用労働者とでは、労働法の適用の有無の他にも、租税や社会保障における位置づけの違いがある。この違いがフリーワーカーとしての働き方を選択する上で影響を及ぼしている可能性がある。また、現在の制度のなかに、雇用労働者としての働き方へと過剰に誘導する仕組みがある可能性もある。もしそうだとすれば、それを働き方により中立的な制度に再編する必要がないかを検討する必要があるだろう。

以上の問題意識に基づき、NIRA総研の本研究会(「個人自営業者の就労をめぐる政策課題に関する研究」プロジェクト) では、関連する法分野(租税法、 社会保障法、経済法、労働法など)の専門家により、多角的なアプローチで解決策の提案を試みる。各分野の専門家である研究会メンバーの意見は、随時、NIRAオピニオンペーパーで紹介する予定である。

 

主要データ

 

総務省統計局が発表する「労働力調査」によると、2018 年(平均)の「就業者」の総数6664万人のうち、「自営業主」は535万人、「雇用者」は5936万人(役員を除くと5605万人)であり、割合でいうと前者が8.0%、後者が89.1%となる。

■就業者について
就業者の構成 労働力調査 2018 自営業主の割合は8%
*「雇用者」とは・・・会社、団体、官公庁又は自営業主や個人家庭に雇われて給料・賃金を得ている者及び会社、団体の役員
*「自営業主」とは・・・個人経営の事業を営んでいる者
*「労働力調査2018」を参照。

 

■多様なクラウドワーカー

クラウドソーシングの大手であるランサーズの「フリーランス実態調査2018年版」によれば、副業で働く人も含めた広義のフリーランスは1119万人いるとされ、その内訳は「副業系すきまワーカー」(常時雇用されているが副業としてフリーランスの仕事をこなすワーカー)が454万人と最も多く、次いで「自営業系独立オーナー」(個人事業主・法人経営者で、1人で経営をしている)が322万人、「複業系パラレルワーカー」(雇用形態に関係なく2社以上の企業と契約ベースで仕事をこなすワーカー)が290万人、「自由業系フリーワーカー」(特定の勤務先はないが独立したプロフェッショナル)が53万人となっている。そして、前年度に比較すると、「複業系パラレルワーカー」の伸びが大きいとされている。

フリーランスの種類
* 「【ランサーズ】フリーランス実態調査2018年版」を参照。

 

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