DAOの世界をけん引する 先駆者の期待と懸念

ブロックチェーン技術を活用することで、これまでの組織のあり方や意見の合意方法が大きく変わろうとしている。 新しい組織形態であるDAO が社会にもたらす意義とは。

企画に当たって

DAOの意義は何か
―社会的課題の解決に新しい可能性

宇野重規  NIRA総合研究開発機構理事/東京大学社会科学研究所教授

宇野重規  NIRA総合研究開発機構理事/東京大学社会科学研究所教授

 

 

 DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)への注目が集まっている。DAOとは、株式会社とも、ボランティア組織とも区別される、Web3・0の分散型インターネット時代にふさわしい、新たな組織のあり方を指す。特定の所有者や管理者がいなくても、ブロックチェーン上でメンバーが主体的にプロジェクトを推進し、管理することができる点に特徴があり、新たな社会的課題解決のツールとしても活用が期待されている。

 今回、お話を伺ったいずれの識者も、DAOの仕組みが完成されたものとは言い難く、今後さらなる法制度の充実が求められるとする点では一致している。先日、暗号資産の大手取引業者のFTXが経営破綻したように、個人資産の保全も大きな課題である。にもかかわらず、「個人化」を前提に、人と人との新たな協働のツールであるDAOは、個人の自律性・自発性と質の高い経済活動を結合する可能性を秘めている。社会的課題解決の手段としても有望だろう。

(一部抜粋)

 

識者に問う

DAOの意義や可能性は何か。
予想される課題は何か。

 

個人がつながり、社会課題解決にスキルを発揮

高木聡一郎 東京大学大学院情報学環教授

高木聡一郎 東京大学大学院情報学環教授

ビットコインは、DAOの第一世代だ。ブロックチェーンによるアルゴリズムの信頼性を担保に、個人と個人が業務分担や取引をする。いわば「個人化」の仕組みが基礎にある。当初はプロトコルの厳密な運用が重視されたが、近年は参加者間で議論して投票を行い、意思決定のプロセスを重視するDAOが主流だ。

 

 

DAO という選択肢が増え、経済活動の幅が広がる

吉川絵美 米リップル社 戦略担当バイスプレジデント

吉川絵美 米リップル社 戦略担当バイスプレジデント

人々が共通の目的で活動するには、会社組織のような正式な法人か、ボランティアのような有志の集まりしかなかった。オンライン・分散型で人々が協業するDAOの効率的な仕組みで、これまで経済圏として機能できなかった領域にも経済活動を促進でき、全体的な経済のパイが拡大する。

 

 

DAO は公共的・社会的領域で真価、参加の仕組みに課題

赤澤直樹 Fracton Ventures株式会社 Co-Founder/CTO

赤澤直樹 Fracton Ventures株式会社 Co-Founder/CTO

株式会社は株主が組織を所有し、経営者と従業員が組織を構成するのに対し、DAOでは「経営」と「所有」がより一体化する。この特徴は、通常のビジネスや資本主義の仕組みでは対応しにくい公共的・社会的活動に可能性を広げる。今はまだ課題も多く、一般の人が安全に参加できる必要がある。

 

 

自分ができることを持ち寄り参加する、新たなガバナンス

若林 恵 黒鳥社主宰

若林 恵 黒鳥社主宰

BTSのファンダムの事例は、「分散型自律組織(DAO)」のあり方を考えるヒントになる。分散・自律といっても、共感すべき対象を中心に人が集まって初めて活動は自律分散的に動き出す。また、DAOは本質的にインクルーシブであり、集まった人たちの「できること」を紡ぎ合わせるガバナンスに重きが置かれる。

 

 

 

 

限界集落に「デジタル村民」、DAO で地域を活性化する

竹内春華 山古志住民会議代表

竹内春華 山古志住民会議代表

山古志地域では2021年末に「Nishikigoi NFT」を販売した。購入者は「デジタル村民」と呼ばれ、公的な住民票はないが、地域住民とともに「山古志DAO」のメンバーとなる。DAOでは山古志を活性化する議論やプロジェクトを行う。国の制度整備には時間がかかるので、まずはDAO特区があるとよい。

 

 

 5人の識者の意見

 

データで見る DAOの世界をけん引する先駆者の期待と懸念

DAOの組織のあり方

「DAOへ参加するには、一般的にDAOが指定するトークンの購入が必要だ。トークンとは株式会社でいう株式のようなもの。株式会社は株主が組織を所有し、経営者と従業員が組織を構成するのに対し、DAOでは「経営」と「所有」がより一体化する。(赤澤直樹氏)」

「DAOの組織のあり方」NIRAわたしの構想No.64

出所)亀井聡彦・鈴木雄大・赤澤直樹(2022)『Web3 とDAO―誰もが主役になれる「新しい経済」』かんき出版

DAO の変遷

「一〇年以上前、ビットコインが誕生した頃のDAOは、完全にコード化されたルール(規則)に基づいた厳密性の高いものだった。取引所などのブロックチェーンの世界では、プロトコル(規約)に沿った自律分散的な運用がされていた。しかし、近年は、参加者間で議論して決定するプロセスを重視する、緩やかな仕組みが主流となった。(高木聡一郎氏)」

「DAOの変遷」NIRAわたしの構想No.64

出所)高木聡一郎(2022)「良いDAO、悪いDAO、どんなだお?」日経COMEMO

 

DAOの種類

「DAOは、これまで経済圏としてはうまく機能してこなかった領域で経済活動を促進する。例えば、「投資のDAO」や「寄付のDAO」は、どこに投資や寄付をするのかを参加するメンバーの投票で決める。(吉川絵美氏)」

「DAOの種類」NIRAわたしの構想No.64

注)2023 年1 月27 日時点の状況。
出所)Deep DAO(2023 年1 月27 日アクセス)、DAO LANDSCAPE(2021)よりNIRA 作成。

 

地域活性化をめざす山古志DAO

「地域おこしに取り組む中で、二〇二一年末に実施した事業が山古志発祥の錦鯉を題材にしたデジタルアート「Nishikigoi NFT」の販売だ。ブロックチェーンと呼ばれる改ざん不能な技術を用いて所有者を特定し、唯一性を保障することでデジタル資産として価値を生んでいる。山古志地域では、このNFTを「電子住民票」と称し、購入者を「デジタル村民」と呼ぶ。…デジタル村民は、地域住民とともに「山古志DAO」のメンバーとなり、プロジェクトの選択や運営の意思決定に参加することができる。竹内春華氏)」

「地域活性化をめざす山古志DAO」NIRAわたしの構想No.64

出所)山古志住民会議「デジタル村民のススメ/限界集落とNFT とDAO」、「デジタル村民とはじめる『集落存亡』をかけた挑戦」を参考に、NIRA 作成。

 

識者紹介

高木聡一郎 東京大学大学院情報学環教授

情報技術の普及・発展に伴う社会への影響を、主に経済学の観点から分析し、企業の経営戦略や政策の方向性を研究する。専門は情報経済学、デジタル経済論。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。国際大学GLOCOM教授、東京大学大学院情報学環准教授等を経て、二〇二二年より現職。東京大学情報学環ブロックチェーン研究イニシアティブ代表も務める。著書に『ブロックチェーン・エコノミクス―分散と自動化による新しい経済のかたち』(翔泳社、二〇一七年)など。

吉川絵美 米リップル社戦略担当バイスプレジデント

米国リップル社のサンフランシスコ本社にて戦略やビジネスオペレーションなどを統括。京都大学のブロックチェーン研究センターの創設に参画し、特任准教授として産学連携を推進。日本最大の海外送金企業であるSBI Remit の社外取締役も兼任。金融テクノロジー分野に加えて、サステナビリティテック等の経験も有する。二〇二一年にSan Francisco Business Times により、サンフランシスコ・ベイエリアのビジネス界で最も影響力のある女性一〇〇人にも選出された。ハーバード・ビジネススクールのMBA、CFA協会認定証券アナリスト資格(CFA)を保有。

赤澤直樹 Fracton Ventures 株式会社Co-Founder/CTO

Fracton Ventures 株式会社の共同創業者。同社を二〇二一年設立し、DAOを前提としたトークン設計など、Web3・0社会の実現に向けた事業創出を国内外で手掛ける。以前よりフリーランスのエンジニアとしてデータ解析・機械学習分野を中心に活動してきており、ブロックチェーン及びスマートコントラクトを利用した複数の実証実験に企画設計から開発まで担う。『Python で動かして学ぶ! あたらしいブロックチェーンの教科書』(翔泳社、二〇一九年)の執筆をはじめ、トークンエンジニアリング普及に向けた啓蒙活動や人材育成も行っている。

若林恵 黒鳥社主宰

コンテンツレーベル「黒鳥社」を主宰し、分野・メディアを問わずコンテンツをプロダクションする。いまの当たり前を疑い、あらゆる物事について、「別のありようを再想像する」ことをミッションとする。早稲田大学第一文学部卒。平凡社『月刊太陽』編集部を経て、フリー編集者として独立。雑誌、書籍、展覧会の図録などの編集を数多く手がける。『WIRED』日本版編集長を経て、黒鳥社設立。著書に『NEXT GENERATION GOVERNMENT―次世代ガバメント小さくて大きい政府のつくり方』(責任編集、日本経済新聞出版、二〇一九年)、『ファンダムエコノミー入門』(共著、プレジデント社、二〇二二年)など。

竹内春華 山古志住民会議代表

地域づくり団体「山古志住民会議」の代表。同団体は、中越地震の被災を契機に、地域の未来を考え、その実現に向けて行動するため、二〇〇七年に発足。竹内氏は、全村避難していた住民の帰還時に、共に山古志入りし、復興支援に従事。二〇〇八年に地域復興支援員として山古志住民会議の事務局を務め、二〇二一年四月より現職。限界集落(アナログ)の価値を最大限に広げるのがデジタルであると考え、その最適化ツールとしてNFTやDAOを用いた新たな関係性のデザインに挑戦する。地方創生にDAOやNFTを活用した先進事例として、各種講演に登壇。

 

記事全文

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公益財団法人NIRA総合研究開発機構
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■NIRA総合研究開発機構(Nippon Institute for Research Advancement)

NIRA 総合研究開発機構(略称:NIRA 総研)は、わが国の経済社会の活性化・発展のために大胆かつタイムリーに政策課題の論点などを提供する民間の独立した研究機関です。学者や研究者、専門家のネットワークを活かして、公正・中立な立場から公益性の高い活動を行い、わが国の政策論議をいっそう活性化し、政策形成過程に貢献していくことを目指しています。研究分野としては、国内の経済社会政策、国際関係、地域に関する課題をとりあげます。

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