令和改革
2019.6.10 14:00
令和の時代が始まった。 新時代を考えると、不安定化する国際情勢、少子高齢社会の一層の進展、衰退する地方都市など、これからの日本を取り巻く状況は厳しいといわざるを得ない。 令和の日本が直面する重要課題に、どう行動していくべきなのかを考える。
公益財団法人NIRA総合研究開発機構(代表理事会長 牛尾治朗)は、学者や研究者、専門家のネットワークを活かして、公正・中立な立場から政策提言を行うシンクタンク。令和の日本が直面する重要課題に、どう行動していくべきなのかを考える。
企画に当たって
政治こそが平成最大の積み残し―政党政治を立て直し、真の課題「解決」先進国へー
谷口 将紀 NIRA総合研究開発機構 理事/東京大学大学院法学政治学研究科 教授
新時代、われわれには、多くの難関が立ちはだかる。世界共通の課題は、国際政治・経済の構造変化、そして第四次産業革命への対応だ。
一方、日本特有の課題は、人口減少と少子高齢化の進展である。特に地方は人口減少が現在進行形で深刻化しつつある。また高齢化による社会保障支出の増大がもたらす財政問題は最たる難題だ。
こうした問題意識は、これまでも広く社会に共有されてきたにもかかわらず、結果を出す政策を遂行できなかった。そのような政治こそが、平成最大の積み残しではないだろうか。
令和の時代には、与野党が価値観の差を残しつつも、大きな方向性を分かち合いながら結果を出せるように、政党政治の立て直しを追求すべきである。
課題先進国・日本を、課題「解決」先進国にして次の時代に引き渡すために、私たちの覚悟が問われている。
識者に問う
向こう20年を見据えた重要課題は何か。わが国はどう取り組むべきなのか。
「「ゼロサム的な競争」の時代」
田中 明彦 政策研究大学院大学 学長
世界の競争の軸は「新・冷戦」の米中関係に移行。令和は「ゼロサム的な競争の時代」になる。
日本は日米同盟を軸に安全保障を確保すると同時に、自由主義的な国際秩序が通用する領域をできる限り広くすることが重要だ。
「AIとの協働で得られた知見を生かせ」
辻井 潤一 産業技術総合研究所 人工知能研究センター 研究センター長
AIとの協働で得られた知見を次の技術開発に生かす。それがAI技術開発の日本モデルだ。
日本は「個人の尊厳」や「現場の意見」を重視する。利潤偏重でも、監視するためでもなく、人びとを助け見守るためのAI活用に向かうだろう。
「"Governance as a Service"で共生社会を成熟させる」
増田 寛也 東京大学公共政策大学院 客員教授
(元総務大臣・前岩手県知事)
令和の時代、地域社会の担い手不足が顕著になる。
地域の公共サービスも「公的性格の、でも自治体ではなく、法人のような組織」で維持し、独占企業体も認めるしかない。
住民の積極的な経営への関与が重要。支え合って地域を良くする共生社会が一層重視される。
「医療版マクロ経済スライドで高齢化を乗り切る」
小黒 一正 法政大学経済学部 教授
財政健全化の改革議論では、妥当性のある財政の長期推計が前提にされねばならない。政治から一定の距離をおく独立財政機関の創設が求められる。
また、社会保障給付費の伸びを抑制するために、「医療版マクロ経済スライド」の導入を提案する。高齢化による医療費の自然増を抑制できる。
「労使共同で「イノベーティブ福祉国家」の構築を」
菅沼 隆 立教大学経済学部 教授
北欧の「イノベーティブ福祉国家」を参考に、日本も社会変動に対応し、技術革新に貢献できる社会保障制度を構築するべきだ。
そのためには、労使で自主的に労働条件を決めたり、共同して職業訓練プログラムを開発して戦略的に新しい仕事を創出できるような、労使が共同する枠組みの形成が必要だ。
データで見る 令和改革
世界経済のシェア(1980 年-2024 年)
「令和は「ゼロサム的な競争」の時代となる可能性が高い。
新しい冷戦ともいえる米中関係が、世界経済全体を減速させ、経済の縮小を通じて、ゼロサム的な競争の要素を強める。(田中先生)」
注) 2024 年は推計値。2018 年値には、2018 年以外の直近データも含まれる。
出所) IMF World Economic Outlook database をもとに作成。
人口規模別にみた日本の自治体の人口減少(2020 年と2040 年の比較)
「令和の時代には、地方の生産年齢人口の減少は加速し、地域社会の担い手不足が顕著となる。(増田先生)」
注) 減少人口の計数は、自治体規模別に集計したもの。推計対象地域は1682 市町村と1 県(福島県)。福島県は2011 年東日本大震災
の影響で市町村別の推計が困難なことから、2020 年時点の同県の平均人口規模である「1~5 万人(規模自治体)」で集計。
出所) 国立社会保障・人口問題研究所(2018)『日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)』をもとに作成。
日本の一人当たり医療・介護費用(2015 年)
「一人当たり医療費は高齢になるにつれて増加するにもかかわらず、高齢者の窓口での負担割合は現役世代より低いので、医療給付費の大幅な増加が想定される。(小黒先生)」
出所) 医療費は厚生労働省(2017)『医療保険に関する基礎資料~平成27 年度の医療費等の状況~』(平成29 年12 月)、介護費用は
財務省(2018)「社会保障について」(財政制度分科会平成30 年4 月11 日配付資料)をもとに作成。
『イノベーティブ福祉国家』デンマークと日本
「デンマークは、高度福祉国家を維持しつつ、イノベーションを通じた持続的な経済成長を実現しており、豊かで社会的格差も小さく、国民の幸福度も高い。(菅沼先生)」
注1) 就労率・労働人口におけるデジタルスキルは2018 年。時間当たりの実質GDP・大学進学率・管理職に占める女性の割合・企業
コストは2017 年。労働市場政策に投入している公費は2016 年。
注2) 労働人口におけるデジタルスキルは、コンピュータースキル、基本的なコーディング、デジタル読解力などの程度について、世界
経済フォーラムがアンケート調査をもとに作成した指標。
起業コスト(対GNI 比)は、世界銀行が各国の法律や制度、料金体系、政府や関連団体の推計をもとに算出した、登記関連費用
など設立時に関わるすべての費用の対GNI 比。
出所)OECD、WHO、グローバルノート(出典:UNESCO)、World Economic Forum、ILO の資料をもとに作成。
識者紹介
田中 明彦 政策研究大学院大学 学長
国際政治学者。世界のあり様を、客観的な知見に基づき、独自の視点で大局的に分析する。マサチューセッツ工科大学政治学部大学院卒業(Ph.D.、政治学)。東京大学東洋文化研究所長・教授、東京大学理事・副学長、国際協力機構理事長等を歴任、二〇一七年より現職。国連UNHCR協会理事長等を兼務。『新しい「中世」』(日本経済新聞社、一九九六年)でサントリー学芸賞、『ワード・ポリティクス』(筑摩書房、二〇〇〇年)で読売・吉野作造賞。二〇一二年、紫綬褒章を受章。
辻井 潤一 産業技術総合研究所 人工知能研究センター 研究センター長
知能情報学、特に自然言語処理の研究で先駆的な業績を上げ、テキストマイニングの新たな手法開発などで国際的にも高い評価を得ている。専門分野は、AI、テキストマイニング、計算言語学、機械翻訳、言語処理学。京都大学大学院修了。工学博士。京都大学助教授、マンチェスター大学教授、東京大学大学院教授、マイクロソフト研究所アジア(北京)首席研究員等を経て、二〇一五年より現職。マンチェスター大学教授兼任。国際計算言語委員会会長。紫綬褒章受章。受賞多数。
増田 寛也 東京大学公共政策大学院 客員教授(元総務大臣・前岩手県知事)
公共政策、現代行政を専門分野とする。岩手県知事や総務大臣として政策現場で地方の現実課題に尽力。地方活性化に向けた現実的で具体的な提言は、政策形成に影響を与えている。東京大学法学部卒業後、建設省(現 国土交通省)入省。岩手県知事、総務大臣、内閣府特命担当大臣などを経て、現職。野村総合研究所顧問兼任。日本創成会議座長。まち・ひと・しごと創生会議メンバー。著書『地方消滅―東京一極集中が招く人口急減』(中公新書、二〇一四年)で第八回新書大賞を受賞。
小黒 一正 法政大学経済学部 教授
人口動態と財政・社会保障や、世代間公平性を巡る問題が主な研究領域。専門分野は公共経済学。経済学博士。一橋大学大学院博士課程修了。大蔵省(現 財務省)入省後、大臣官房文書課法令審査官補、関税局監視課総括補佐、財務総合政策研究所主任研究官等を歴任。一橋大学准教授等を経て、二〇一五年より現職。厚生労働省「保健医療二〇三五」など、政府委員も多く務める。著書に『預金封鎖に備えよ―マイナス金利の先にある危機』(朝日新聞出版、二〇一六年)他。
菅沼 隆 立教大学経済学部 教授
グローバル化と人口高齢化の中で、福祉国家の持続可能性を研究。社会保障制度の再構築や、福祉国家を支える経済政策・財政のあるべき姿について考察を進める。専門分野は経済政策、デンマーク社会政策。経済学博士。東京大学大学院修了。信州大学助教授、立教大学助教授等を経て、二〇〇五年より現職。二〇一七年~二〇一九年三月まで立教大学経済学部長を務めた。著書に『戦後社会保障の証言―厚生官僚120時間オーラルヒストリー』(共編著、有斐閣、二〇一八年)他。
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■NIRA総合研究開発機構(Nippon Institute for Research Advancement)
NIRA 総合研究開発機構(略称:NIRA 総研)は、わが国の経済社会の活性化・発展のために大胆かつタイムリーに政策課題の論点などを提供する民間の独立した研究機関です。学者や研究者、専門家のネットワークを活かして、公正・中立な立場から公益性の高い活動を行い、わが国の政策論議をいっそう活性化し、政策形成過程に貢献していくことを目指しています。研究分野としては、国内の経済社会政策、国際関係、地域に関する課題をとりあげます。
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