国内投資の拡大は 本格化するのか

民間企業の国内設備投資は、長期にわたり伸び悩んできたが、ここにきて基調に変化がみられる。 企業の姿勢は変わったのか。国内投資の拡大は本格化するのか。

企画に当たって

国内投資の拡大は本格化するのか
―設備投資の動向から、日本の課題をつかむ

柳川範之 NIRA総合研究開発機構 理事/東京大学大学院経済学研究科 教授

柳川範之 NIRA総合研究開発機構 理事/東京大学大学院経済学研究科 教授

 投資の動向がその国の経済を大きく左右する。デジタル・トランスフォーメ―ション(DX)やグリーン・トランスフォーメーション(GX)、そして「人への投資」の重要性が叫ばれている今の日本においては、国内投資の動きが、今後の総需要、そして生産性や潜在成長率に大きな影響を持つことはいうまでもない。

 それでは、実態として国内の設備投資の動きは、どのようなものになっているのか、そこから見えてくる日本経済の課題はどのようなものなのか。このような問題意識から、多方面の専門家の方々に、日本における設備投資の現状とそこから見える課題について、主に語っていただいた。

 各専門家の方々の意見からは、「人への投資」や制度整備の環境など、企業を取り巻く、広い意味での無形資産、および無形資産への投資の動向が、一つの側面として浮かび上がってくる。なかなか会計情報からは見えてこないものであるが、これらの把握も今後は重要になってくるだろう。

 (一部抜粋)

 

識者に問う

拡大傾向とされる国内投資、その実態をどうみるか。
国内投資を妨げる要因は何か。

 

産業や社会全体でリスクを取れる枠組みを構築する

宮永 径 株式会社日本政策投資銀行 執行役員産業調査部長

宮永 径 株式会社日本政策投資銀行 執行役員産業調査部長

2023年度国内設備投資は、コロナ禍前の実績を超えると見込まれるが、拡大基調に転じたとまではいえない。日本企業は「デフレ経営」的な値下げ競争意識からは脱しつつあり、インフレや金利上昇も企業のリスクテイクを促す。今後、本格的に拡大局面に入るかは、企業が強い投資意欲を持てるかにかかる。

 

 

設備投資を起点に生産性を向上、中小企業の動向がカギ

滝澤美帆 学習院大学経済学部 教授

滝澤美帆 学習院大学経済学部 教授

日銀短観によれば、2023年度計画の国内投資額は前年度比13.0%のプラスとかなりのインパクトのある数字だ。特に、非製造業で設備投資が拡大しており、これにより日本全体の生産性向上と経済成長につながることを期待したい。懸念は、中小企業、中でも製造業の設備投資が伸びていないことだ。

 

 

政権のトップダウンで、生産性の高い分野に投資を進めよう

窪田朋一郎 松井証券 シニアマーケットアナリスト

窪田朋一郎 松井証券 シニアマーケットアナリスト

国内投資が長く阻害されてきたのは、日本は投資に対するリターンを期待できない国だったからだ。行うべきは、生産性の高い分野に投資を集中させて、高い競争力を保持することだ。政権がトップダウンで集中的に傾斜配分するやり方に変えていかないと、多くの労働者が「レッドオーシャン」であえぐことになる。

 

 

クリーンエネルギー投資の市場を政府支援で活性化せよ

貞森恵祐 国際エネルギー機関(IEA)エネルギー市場・安全保障局長

貞森恵祐 国際エネルギー機関(IEA)エネルギー市場・安全保障局長

「脱炭素」に向けた投資は世界で大きく増加しているが、ネットゼロの目標達成には、さらに3倍の投資が必要だ。日本の投資規模は、GDP比でみて他の先進国に見劣りしないが、2024年2月に始まる「GX債」などは、早く具体的な制度設計や支援措置を明確にしないと、民間は投資計画を立てづらい。

 

 

 

 

日本の半導体製造能力に世界が期待、官民投資で国力を高めよ

黒田忠広 東京大学大学院工学系研究科附属システムデザイン研究センター 教授

黒田忠広 東京大学大学院工学系研究科附属システムデザイン研究センター 教授

半導体分野はこの40年間、10%近い高成長が続く。日本でも現在、年間数兆円規模の投資が行われている。公的支援も積極的に行われ、また世界からの対日投資も過熱し、日本での半導体製造に改めて注目が集まっている。懸念は、政策の継続性の欠如だ。官民で投資を維持し、日本の国力を高めていくべきだ。

 

 

 5人の識者の意見

「拡大傾向とされる国内投資、 その実態をどうみるか」NIRAわたしの構想No.69

 

データで見る 国内投資の拡大は本格化するのか

日本の民間企業の国内設備投資額の推移(1980年 -2022 年)

「国内の設備投資は長らく伸び悩(んできたが)、ここにきて変化の兆しが見られる。(滝澤美帆氏)」

「日本国内の設備投資は現在回復傾向にある。(窪田朋一郎氏)」

「日本の民間企業の国内設備投資額の推移(1980年 -2022 年)」NIRAわたしの構想No.69

注)物価の上昇・下落分を取り除いた実質ベース(2015 年基準) の日本国内企業の設備投資額
出所)内閣府「国民経済計算」
※ 1980 年度から1994 年度までは「2015 年(平成27 年)基準支出側GDP 系列簡易遡及」、1995 年度以降は「2023 年7-9 月期四半期別GDP 速報(2 次速報値)」に基づく。

 

大企業(全産業)の投資水準の推移(2005 年-2023 年度)

「日本政策投資銀行の調査によれば、大企業の二〇二二年度の国内設備投資は、前年度比一〇・七%増と三年ぶりに増加に転じた。(宮永 径氏)」

「二〇二三年度も一九八〇年代以降三番目に高い伸びが計画されており、コロナ禍前の水準を超えると見込まれる。(宮永 径氏)」

「大企業(全産業)の投資水準の推移(2005 年-2023 年度)」NIRAわたしの構想No.69

注)実績見込みはコロナ禍前後の6 年間(2017 ~ 2022 年度)の実現率の平均を採用
出所)株式会社日本政策投資銀行「2023 年度設備投資計画調査」

 

2022年度の業種別投資実績の前年度比

「日本政策投資銀行の調査によれば、大企業の二〇二二年度の国内設備投資は、前年度比一〇・七%増と三年ぶりに増加に転じた。(宮永 径氏)」

「2022年度の業種別投資実績の前年度比」NIRAわたしの構想No.69

注1)2019 年度を100 とした場合、2022 年度の各業種の投資実績は以下の通り
【製 造 業】 食品:103、石油:96、化学:110、鉄鋼:83、非鉄金属:113、一般機械:103、電気機械:140、精密機械:98、輸送用機械:94、製造業平均:102
【非製造業】卸売・小売り:92、不動産:117、運輸:76、通信・情報:101、サービス:79、電力:86、非製造業平均:93
注2)面積が大きいほど、全体への寄与が大きい
出所)株式会社日本政策投資銀行「2023 年度設備投資計画調査」

 

世界のエネルギー投資(クリーンエネルギーと化石燃料)の推移(2015 年-2023 年)

「世界におけるクリーンエネルギーと化石燃料に対する投資額は、五年前は両者が一兆ドル規模でほぼ同額だったが、二〇二三年はクリーンエネルギーへの投資が一・七兆ドルの水準に増える見込みだ。(貞森恵祐氏)」

「世界のエネルギー投資(クリーンエネルギーと化石燃料)の推移(2015 年-2023 年)」NIRAわたしの構想No.69

出所)International Energy Agency( 2023) “World Energy Investment 2023”.

 

識者紹介

宮永 径 株式会社日本政策投資銀行執行役員産業調査部長

日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行後、関西支店、環境省出向などを挟み、二〇年近く調査業務に従事。経済調査室長を経て二〇二一年産業調査部長、二〇二三年同執行役員。東京大学経済学部卒、米ブラウン大経済学修士。産業調査部では、景気動向とともに構造的・長期的な視点から経済・産業の調査を行い、このうち大企業を対象にした設備投資計画調査は一九五七年に開始し、近年は調査を踏まえた企業トップとの対話から日本企業・経済の課題についての発信を行っている。

滝澤美帆 学習院大学経済学部教授

専門はマクロ経済学、企業行動の実証分析、生産性分析。主として、マクロ・産業・ミクロ(企業や事業所)の各レベルで構築したデータを用いて、生産性計測及び生産性の決定要因に関する実証分析を行っている。日本学術振興会特別研究員(PD)、東洋大学教授、ハーバード大学国際問題研究所日米関係プログラム研究員などを経て、二〇一九年学習院大学准教授、二〇二〇年より現職。中小企業政策審議会、財政制度等審議会など中央省庁の委員を歴任。主著に『グラフィック マクロ経済学 第二版』(宮川努氏と共著、新世社、二〇一一年)など。一橋大学博士(経済学)。

窪田朋一郎 松井証券シニアマーケットアナリスト

証券界の第一線で活躍し、相場の鋭い考察と読みに定評がある。特に日本株式市場を中心に、日々のマーケットの解説に加えて、独自の投資指標を開発。日本経済新聞をはじめ、動画やSNSなど多様な媒体でコメントやリポートを発信している。高校生時代から株式投資を始め、大学卒業後に松井証券に入社。自己売買担当、顧客対応マーケティング業務などを経て現職。ネット証券草創期から株式を中心に相場をウォッチし続け、個人投資家の売買動向にも詳しい。

貞森恵祐 国際エネルギー機関(IEA)エネルギー市場・安全保障局長

二〇一二年一〇月より現職。石油、ガス、石炭、再生可能エネルギー、省エネルギー等、エネルギー市場の動向分析およびエネルギーセキュリティーを担当している。通商産業省(現経済産業省)に入省後、在米日本大使館での勤務や内閣官房内閣参事官を経て、国際エネルギー問題担当参事官を務める。その後、通商交渉官として自由貿易協定の交渉を担当。東日本大震災の際には内閣総理大臣秘書官となり、福島第一原発事故に対応する。東京大学法学部卒業。

黒田忠広 東京大学大学院工学系研究科附属システムデザイン研究センター 教授

東京大学のシステムデザイン研究センターd.lab と技術研究組合RaaS を率いる。d.lab は、産学連携で取り組む半導体技術の開発拠点。黒田氏は日本の半導体技術再生のキーパーソンとされる。東京大学卒業後、㈱東芝入社。慶應義塾大学に移り、二〇〇二年教授、二〇二〇年より名誉教授。二〇〇七年、カリフォルニア大学バークレイ校MacKayProfessor。二〇一九年より現職。米国電気電子学会と電子情報通信学会のフェロー。半導体のオリンピックと称される国際会議ISSCC で六〇年間に最も多くの論文を発表した世界の研究者一〇人に選ばれる。

記事全文

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