アフリカ経済の今
2019.8.13 14:00
「リープフロッグ」とも呼ばれる経済の活況に沸くアフリカ。 持続的成長の維持が期待される中、二〇一九年八月末には、横浜市で第七回アフリカ開発会議(TICAD7)が開催される。 この機会にアフリカの今を知り、日本との新たな関係構築についての考察を深めたい。
公益財団法人NIRA総合研究開発機構(代表理事会長 牛尾治朗)は、学者や研究者、専門家のネットワークを活かして、公正・中立な立場から政策提言を行うシンクタンク。勃興するアフリカ経済に対し、日本はどう行動していくべきか考える。
企画に当たって
アフリカ経済の飛躍―日本に求められる三つの課題への貢献ー
東 和浩 NIRA総合研究開発機構 理事/株式会社りそなホールディングス取締役兼代表執行役社長
2000年代初頭以降のドラスティックなアフリカの発展は、「リープフロッグ」と呼ばれている。リープフロッグとは、技術進歩を背景に、人びとの暮らしや産業の水準が段階を踏まずに一足飛びで進歩する現象を示す言葉だ。中でも、ICT技術を用いたイノベーティブなサービスが、アフリカで次々と登場している状況には、目を見張るものがある。
アフリカのICT産業に対する日本の関心は低調だが、日本企業が関与し、アフリカのさらなる発展に貢献できることは多い。
8月には横浜市で「第七回アフリカ開発会議(TICAD7)」が開催される。アフリカの持続的な成長を支えることは、国連の主要な財政貢献国である日本の責務でもある。
同時に、快走する「アフリカ経済の『リープフロッグ』型成長」を学ぶことは、日本にとっても大いなる刺激を受けることになるだろう。
識者に問う
デジタル技術に沸くアフリカ経済の今をどうみるか。さらなる発展のために必要なことは何か。
「リープフロッグで、SDGs 達成をねらう」
ソロモン・K・マイナ,M. B. S. 駐日ケニア共和国 特命全権大使
アフリカでは、金融、政府、小売りの3分野で、ICTによる発展が著しい。
日本は従来分野への投資にとどまっており、ICT産業への関心が低い。米国・中国・韓国等はICTでアフリカ社会に変化をもたらしている。日本が出遅れていることは、非常に残念だ。
「新機軸となるインフラ・シェアリング」
ジャーマン・カフル 国際金融公社(IFC) アフリカ・ラテンアメリカ テレコム・メディア・テクノロジー投資 地域リーダー
アフリカ全土で携帯電話が普及し、モバイルエコノミーが急成長している。
今後はインターネット普及率の引き上げが急務だ。複数事業者が共同で基地局等を使用する「インフラ・シェアリング」などを活用し、デジタル・インフラへの投資が求められる。
「自国での技術蓄積がアフリカにさらなるイノベーションを生む」
田中秀和 レックスバート・コミュニケーションズ株式会社 代表取締役
モバイル送金サービスやドローンによる輸送事業など、先進国との協力のもと、革新的なサービスが数多く誕生している。
今後アフリカ自身の手でイノベーションを生むためには、実務経験を積んだ技術者を増やす必要がある。
「製造業の生産性向上がカギを握る」
アシュラフ・パテル インスティテュート・フォー・グローバル・ダイアログ(IGD) シニアリサーチアソシエイト
ICTの進展は、製造業の発展段階をスキップして一気に産業化に進むという異質さを、アフリカ経済にもたらした。
グローバルな供給体制に組み込まれるためには、製造業の発達を後押しする必要がある。製造業の確立なしには、IT大国化もない。
「日本はICT でアフリカとのウィンウィン関係を飛躍させよ」
横山 正 アフリカ開発銀行 アジア代表事務所所長(2019年7月原稿執筆当時)
基礎インフラの不足など、開発上の課題を広範に抱えるアフリカでこそ、ICTが大きな役割を果たす。アフリカにはデジタル技術への大きな需要が潜在する。
日本にはICTを活用したビジネス展開が期待される。アフリカ発のビジネスモデルを日本で活用することも考えられる。
データで見る アフリカ経済の今
海外からアフリカへの直接投資額の推移(フロー、1990 年–2018 年)
「ここ一〇~二〇年で、アフリカはリープフロッグ(一足飛び)の発展を遂げている。
日本にはICTの直接投資に積極的に関わり、アフリカ経済に「プラグイン」していただきたい。(駐日ケニア大使)」
出所)「直接投資残高上位5か国と日本」における日本の計数(2018 年)は、財務省「本邦対外資産負債残高(地域別)」、及び為替レート(2018 年末110.40 円/米ドル)をもとに作成。それ以外の計数は、UNCTAD,“World Investment Report 2019” をもとに作成。
アフリカのテックハブ(2018 年)
「アフリカの多くの国で、ICT関連のイノベーションハブが始動しつつある。(パテル氏)」
注)「テックハブ」とは、インキュベーター、アクセラレーター、ファブラボ、ハッカースペース等、技術系のスタートアップ企業をサポート、育成するための物理的な場所(NIRA 記)。
出所) Maxime Bayen. “Africa: a look at the 442 active tech hubs of the continent” GSMA, 22 Mar, 2018.
https://www.gsma.com/mobilefordevelopment/blog-2/africa-a-look-at-the-442-active-tech-hubs-of-the-continent/
(2019 年7 月16 日アクセス)
世界地域別にみた人口1人当たりの製造業付加価値額(名目、2017 年)
「アフリカの製造業の一人当たりの付加価値は、アジア地域やラテンアメリカよりも低く、素朴な財の生産にとどまっており、これでは、グローバルなサプライチェーンの仲間入りをすることはできない。(パテル氏)」
注1) 各地域の製造業付加価値額の総計を、各地域の人口計で割った数値。国によっては2017 年以外の直近データも含む。
注2) 中国(アジア太平洋に含まれる)の1 人当たりの製造業付加価値額は2,567 ドル。米国(北アメリカに含まれる)は6,684 ドル。
出所) G. Ibrahim, W. Simbanegavi, A. Prakash, W. Davis, W. Wasike, A. Patel (2019) “Industrial Development and ICT in
Africa: Opportunities, Challenges and Way Forward” https://t20japan.org/wp-content/uploads/2019/03/t20-japantf5-
3-industrial-developmentict-africa.pdf を参考に、World Bank, “World Development Indicators” をもとに作成。
サブサハラ・アフリカの国民総所得(GNI)の推移(1960 年–2018 年)
「ここ一〇~二〇年で、アフリカはリープフロッグ(一足飛び)の発展を遂げている。(駐日ケニア大使)」
「アフリカが発展を遂げているとしても、その一人当たりの所得は世界平均の二割に満たず、かつ、国によってその特徴は一様ではない。(東和浩NIRA理事)」
注) マーカー付き折れ線は、サブサハラ・アフリカ、世界の国民総所得(名目総計、米ドル表示)を、1960 年を基準に指数化したもの。
出所)World Bank, “World Development Indicators” をもとに作成。
識者紹介
ソロモン・K・マイナ,M. B. S. 駐日ケニア共和国 特命全権大使
外交官として三二年以上のキャリアを持つ。米オハイオ大学修士(国際関係学)。ケニア外務省入省後、イギリス、ウガンダ、パキスタン、イタリア各国の大使館にて参事官等を務める。その間、英オックスフォード大学にて外交について研修を受ける。国際問題局長、儀典長等を経て、二〇一四年より現職。東アフリカ最大の経済規模を持つケニアは、ICTの発展においてもアフリカをけん引する。
ジャーマン・カフル 国際金融公社(IFC) アフリカ・ラテンアメリカ テレコム・メディア・テクノロジー投資
地域リーダー
IFCのアフリカ・ラテンアメリカの通信・メディア・テクノロジー投資部門を率いる。現在八五カ国におけるブロードバンドや通信事業者等の通信インフラに関する株式や負債の監視責任者。IFCは世銀グループの一つで、途上国の民間セクター開発に特化した世界最大の国際開発機関(本部ワシントン)。サン・アンドレス大学学士、ケロッグ経営大学院MBA。シカゴ、サンパウロ、ブエノスアイレスでのコンサルタント等を経て、二〇〇六年に加わる。二〇〇八年通信インフラ投資チームに配属。
田中秀和 レックスバート・コミュニケーションズ株式会社 代表取締役
レックスバート・コミュニケーションズ株式会社は、ソフトウエア開発事業および日本企業のアフリカ進出支援を行う。田中氏が、ソフトバンクグループ開発会社、米国ベンチャー企業の日本国内CTOを経て、起業した。二〇一四年には、同社のグループ企業として、ソフトウエア開発事業を行うアフリカ企業「WiredIn LTD」をルワンダで立ち上げ、日本やアフリカ、欧米向けにソフトウエア開発サービスを提供。事業活動を通して、アフリカのICT業界の育成支援に尽力している。
アシュラフ・パテル インスティテュート・フォー・グローバル・ダイアログ(IGD) シニアリサーチアソシエイト
南アフリカ・プレトリアに拠点を置く独立系シンクタンクで、デジタルおよびICTに関する規制政策やイノベーション政策について研究、政策提言を行う。南アフリカやサブサハラ地域における、公共政策やICT政策、電気通信規制、ICT4D(ICT for Development)構想などの分野に、一五年以上にわたり携わっている。ITU Telecom World やT20などの国際会議にて、アフリカ地域のICT活用に関する提言を発表している。
横山 正 アフリカ開発銀行 アジア代表事務所所長
二〇一五年より二〇一九年七月まで、アフリカ開発銀行アジア代表事務所所長を務めた。現在、財務省大臣官房企画調整主幹。一九八八年に大蔵省(当時)入省後、金融庁八年間、外務省五年間勤務。二〇〇九年より財務省にて国際租税制度担当参事官、二〇一一年より外務省にて東南アジア等と太平洋島嶼部のODA政策担当課長、二〇一三年より財務省でASEAN+3や国際開発金融機関の担当課長を歴任。東京大学経済学部卒業、豪シドニー大学経営管理学修士取得。
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公益財団法人NIRA総合研究開発機構 TEL:03-5448-1710 FAX:03-5448-1744 E-mail:info@nira.or.jp |
■NIRA総合研究開発機構(Nippon Institute for Research Advancement)
NIRA 総合研究開発機構(略称:NIRA 総研)は、わが国の経済社会の活性化・発展のために大胆かつタイムリーに政策課題の論点などを提供する民間の独立した研究機関です。学者や研究者、専門家のネットワークを活かして、公正・中立な立場から公益性の高い活動を行い、わが国の政策論議をいっそう活性化し、政策形成過程に貢献していくことを目指しています。研究分野としては、国内の経済社会政策、国際関係、地域に関する課題をとりあげます。
ホームページ:http://www.nira.or.jp/
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