少子高齢化が進む日本。社会・産業の担い手不足、地域におけるインフラの老朽化、医療の地域格差など、解決すべき課題が山積している。 そうした中、ITの活用で、課題を乗り越えようとするさまざまな試みが始まっている。 ITを活用して切り拓く未来を展望する。

 

公益財団法人NIRA総合研究開発機構(代表理事会長 牛尾治朗)は、学者や研究者、専門家のネットワークを活かして、公正・中立な立場から政策提言を行うシンクタンク。少子高齢化をはじめ、さまざまな課題に直面する日本が、ITを活用することでどのような未来を切り拓けるか、展望する。

 

企画に当たって

課題解決先進国への道程―硬直した国のあり方をリデザインする

金丸 恭文  NIRA総合研究開発機構 理事長/フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長 グループCEO

人口減の進む日本は、労働力だけでなく、消費者も失われていく。日本の地域に存在する希少価値を付加価値へと変換し、モノだけでなく、サービスや、総合的なバリューチェーンのプロセスも輸出するマーケットメイキングが求められる。しかし、旧態依然の体制やマインドが、それを阻んでいる。

例えば、農業をはじめとする一次産業では、都道府県ごとに区切られた行政単位が壁となっている。「和牛」は各県でブランディングして輸出しており、「和牛」という統一したブランドで付加価値を提供する視点がない。まとまった単位で受注を一元化して付加価値をつけ、テクノロジーやデータを活用し、大きなマーケットを目指してマーケットメイクを行っていく戦略が必要だ。そのためにも、法制度を改革し、地域の自由度を高めねばならない。

地方こそ一次産業や教育のハイテク化を進めるべきだ。地域特性のある農林水産業とデジタル技術を結合させる。地域にIT活用の仕事があれば、地元に残れる若者も増える。海外でも通用するソリューションが出てくれば、「田舎のデジタル化とグローバル化」が進展し、雇用も生まれる。

日本の直面している課題に立ち向かうには、これまでの価値観を転換し、法制度や発想をすべてリデザインしなければならない。

金丸恭文 NIRA総合研究開発機構 理事長/フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長 グループCEO 「課題解決先進国への道程―硬直した国のあり方をリデザインする」NIRAわたしの構想No.44

識者に問う

ITの活用で、課題をどう乗り越えられるのか。
実現のために何をすべきか。

 

「第四次産業革命は日本の地方から始まる」

菅谷俊二 株式会社オプティム 代表取締役社長

ITがあらゆる産業に結び付けば、産業全体の生産性が飛躍的に高まる。
多くの人手を要している産業ほど、生産性を高める機会が潜在する。
人口が減っている地域こそ、第四次産業革命型の産業のプロトタイプをつくり、世界に売り出していくべきだ。

菅谷俊二 株式会社オプティム 代表取締役社長 「第四次産業革命は日本の地方から始まる」NIRAわたしの構想No.44

 

 

「ネットワーク化で達成する持続可能な農業」

二宮正士 東京大学大学院農学生命科学研究科 特任教授

農業の人手不足を補うため、農作業の自動化やロボット化が進む。高品質農業を支える篤農家の熟練技術も、データ科学で継承できる。農家をネットワーク化し仮想共同的に経営できれば、小規模農地が多い日本でも生産効率を高められる。
今後は地球規模での持続可能な農業の実現が課題だ。

二宮正士 東京大学大学院農学生命科学研究科 特任教授 「ネットワーク化で達成する持続可能な農業」NIRAわたしの構想No.44

 

「地域の公共交通を「便乗」で解決するSAVS」

松原 仁 公立はこだて未来大学 副理事長・教授

地域の公共交通は、効率的に走らせ、利便性を高めて利用者を増やすことで存続できる。
われわれは、オンデマンドの乗り合い車両を最適経路で配車するサービスで、公共交通の維持に取り組んでいる。さまざまなサービスと連携し、利用者の満足と効率化の両立を目指す。

松原 仁 公立はこだて未来大学 副理事長・教授「地域の公共交通を「便乗」で解決するSAVS」NIRAわたしの構想No.44

 

「診断・投薬中心の医療から、患者の行動変容を支援する医療へ」

武藤真祐 株式会社インテグリティ・ヘルスケア 代表取締役会長

慢性的な生活習慣病の増加を背景に、オンライン診療システムを開発・提供している。患者の状況を継続的に医師がモニタリングしたり、診察の一部をビデオ通話で行える。
多忙な就業者の治療脱落を防いだり、高齢者の通院負担を軽減できる。

武藤真祐 株式会社インテグリティ・ヘルスケア 代表取締役会長「診断・投薬中心の医療から、患者の行動変容を支援する医療へ」NIRAわたしの構想No.44

 

 

「日本の「アップグレード」を人工知能で実現する」

加藤エルテス聡志 株式会社日本データサイエンス研究所 代表取締役

電力の使用状況のデータから住人の在宅予測を立てて、宅配の再配達の無駄をなくすことができる。
AIの活用では、産業の枠組みを超えて多様なデータが蓄積されるほど予測の精度が高まる。同業社が協力して、業界全体の生産性向上に取り組む視点も重要だ。

加藤エルテス聡志 株式会社日本データサイエンス研究所 代表取締役「日本の「アップグレード」を人工知能で実現する」NIRAわたしの構想No.44

 

NIRAわたしの構想No.44 ―5人の識者の意見― 少子高齢化、労働人口減少に対処すべく、生産性向上に迫られる日本。 テクノロジーの活用で何ができるのか。担い手不足 除草ロボット 最適経路の探索 宅配の在宅予想 匠の技の伝授 篤農家の行動分析 ベテラン医師の知見 経営効率化 現場の作業進捗「見える化」 農地の仮想共同的経営 レントゲン画像診断 ニーズの変化 慢性病患者のモニタリング オンライン診察

 

データで見る ITに託す日本の未来

世界の産業ロボットの販売台数(2009 年–2017 年)

 

テクノロジーへの取り組み自体は日本でも盛んに行われている(金丸 恭文 NIRA総研 理事長)」

NIRAわたしの構想No.44「世界の産業ロボットの販売台数(2009 年–2017 年)」 381000ユニット/2017年 上位5か国 中国:138000、日本:46000、韓国:40000、アメリカ:33000、ドイツ:21000
注)世界各国の産業ロボットメーカーがIFR Statistical Department に直接提出する数値から算出。詳細は“World Robotics 2018 Industrial Robots” 1 Introduction: Sources and methods を参照。
出所) IFR Statistical Department(2018)“Executive Summary World Robotics 2018 Industrial Robots” をもとに作成。。

 

世界の業務用サービスロボットの販売台数(2016 年、2018 年)

 

業務用サービスロボットの販売台数が世界で大きく増加。物流をはじめ、さまざまな業務の自動化が急速に進んでいることが伺える。(編集部)

NIRAわたしの構想No.44「世界の業務用サービスロボットの販売台数(2016 年、2018 年)」59,300/2016年、165,300/2018年

注)IFR Statistical Department が実施したアンケート結果。対象は、同社が2016 年以降サービスロボットサプライヤーと特定している700 社。ユニット数は百の単位で四捨五入した。そのため、各項目を合算しても、合計の数値とは一致しない。
出所) IFR Statistical Department(2018) “World Robotics 2018 -Service Robots” をもとに作成。

 

大規模水稲におけるスマート農業技術の実用化・研究開発の状況

 

「人手不足を補い、生産を効率化するための、農作業の自動化やロボット化の技術は日々発展し、コストも低下している。(二宮氏)」

NIRAわたしの構想No.44「大規模水稲におけるスマート農業技術の実用化・研究開発の状況」
出所) 農林水産省(2019)「スマート農業の社会実装に向けた具体的な取組について(平成31 年2 月)」をもとに作成。

 

日本の経済活動別 就業者一人当たりの付加価値額(2017 年)

 

「日本の労働人口は、今後四〇年で三〇〇〇万人減少する。生産性を上げなければ国として致命的になる。(加藤氏)」
「来る第四次産業革命は、ITがあらゆる産業に結び付くことで、産業全体の生産性を飛躍的に高める可能性を秘める。特に多くの人手を要する産業こそ、第四次産業革命型の産業に「再発明」される機会が潜在している。(菅谷氏)」

NIRAわたしの構想No.44「日本の経済活動別 就業者一人当たりの付加価値額(2017 年)」
注) 各産業の就業者シェアは、不動産業と鉱業を除いた数を100 として計算している。
出所)内閣府「2017 年度国民経済計算」をもとに作成。

 

識者紹介

菅谷俊二 株式会社オプティム 代表取締役社長

二〇〇〇年佐賀大学在学中に㈱オプティムを創業。同社代表取締役に就任。「ネットを空気に変える」
のコンセプトのもと、IoTプラットフォームサービス等、インターネットの創造性・利便性を享受
できるサービスプロダクツを提供。二〇一五年東証一部上場。二〇一四年「第四〇回経済界大賞」ベ
ンチャー経営者賞を受賞。二〇一七年佐賀県とAI・IoT包括連携協定を締結し、地域課題の解決
にも尽力。

 

二宮正士 東京大学大学院農学生命科学研究科 特任教授 

世界に先駆けて農業技術にITを導入した農業における情報研究分野の第一人者で、近年は持続可能な
農業実現に注力。東京大学農学系研究科博士課程修了。農学博士。同大農学部助手、筑波大学連携大
学院教授、農業食品産業技術研究機構中央農業研究センター研究管理監等を経て、東京大学大学院農
学生命科学研究科教授。二〇一七年より現職。二〇一八年日本農学賞/読売農学賞。東京大学名誉教授。

 

松原 仁 公立はこだて未来大学 副理事長・教授

電子技術総合研究所(現・産業技術総合研究所)を経て、二〇〇〇年より公立はこだて未来大学教授。
SAVSの研究開発と社会実装に取り組む。二〇一六年より現職。専門は人工知能、ゲーム情報学、
観光情報学。二〇一六年に大学発ベンチャー㈱未来シェアを立ち上げ、代表取締役社長に就任。東京
大学大学院工学系研究科情報工学専攻博士課程修了。工学博士。人工知能学会会長等を歴任。著書に
『スマートモビリティ革命』(共著、近代科学社、二〇一九年)他多数。

 

武藤真祐 株式会社インテグリティ・ヘルスケア 代表取締役会長

循環器内科、救急医療に従事後、宮内庁侍医。のちマッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、
二〇〇九年株式会社インテグリティ・ヘルスケアを設立。同社は疾患管理システム「YaDoc(ヤード
ック)」を開発、サービス提供するメディカルスタートアップ。二〇一〇年在宅医療を提供する祐ホ
ームクリニック(現・医療法人社団鉄祐会)を設立。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。医
学博士。第二回イノベーター・オブ・ザ・イヤー受賞。厚生労働省情報政策参与等、公職も歴任。

 

加藤エルテス聡志 株式会社日本データサイエンス研究所 代表取締役

マッキンゼー・アンド・カンパニー、米系製薬会社等を経て、二〇一三年に株式会社日本データサイ
エンス研究所の前身となる法人を設立、二〇一八年に株式会社化。同社は東大発のAI企業。人口減
少の停滞の時代に「日本の産業をアップグレードする」ことを使命に、物流最適化をはじめ、需要予
測、在庫最適化、異常検知、与信評価など、さまざまなAIサービスを提供。東京大学卒業。ビジネ
スブレイクスルー大学「問題解決力トレーニングプログラム」講師。公正取引委員会、TEDxで講
演。

 

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■NIRA総合研究開発機構(Nippon Institute for Research Advancement)

NIRA 総合研究開発機構(略称:NIRA 総研)は、わが国の経済社会の活性化・発展のために大胆かつタイムリーに政策課題の論点などを提供する民間の独立した研究機関です。学者や研究者、専門家のネットワークを活かして、公正・中立な立場から公益性の高い活動を行い、わが国の政策論議をいっそう活性化し、政策形成過程に貢献していくことを目指しています。研究分野としては、国内の経済社会政策、国際関係、地域に関する課題をとりあげます。

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