ITに託す日本の未来
2019.10.10 14:00
少子高齢化が進む日本。社会・産業の担い手不足、地域におけるインフラの老朽化、医療の地域格差など、解決すべき課題が山積している。 そうした中、ITの活用で、課題を乗り越えようとするさまざまな試みが始まっている。 ITを活用して切り拓く未来を展望する。
公益財団法人NIRA総合研究開発機構(代表理事会長 牛尾治朗)は、学者や研究者、専門家のネットワークを活かして、公正・中立な立場から政策提言を行うシンクタンク。少子高齢化をはじめ、さまざまな課題に直面する日本が、ITを活用することでどのような未来を切り拓けるか、展望する。
企画に当たって
課題解決先進国への道程―硬直した国のあり方をリデザインする
金丸 恭文 NIRA総合研究開発機構 理事長/フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長 グループCEO
人口減の進む日本は、労働力だけでなく、消費者も失われていく。日本の地域に存在する希少価値を付加価値へと変換し、モノだけでなく、サービスや、総合的なバリューチェーンのプロセスも輸出するマーケットメイキングが求められる。しかし、旧態依然の体制やマインドが、それを阻んでいる。
例えば、農業をはじめとする一次産業では、都道府県ごとに区切られた行政単位が壁となっている。「和牛」は各県でブランディングして輸出しており、「和牛」という統一したブランドで付加価値を提供する視点がない。まとまった単位で受注を一元化して付加価値をつけ、テクノロジーやデータを活用し、大きなマーケットを目指してマーケットメイクを行っていく戦略が必要だ。そのためにも、法制度を改革し、地域の自由度を高めねばならない。
地方こそ一次産業や教育のハイテク化を進めるべきだ。地域特性のある農林水産業とデジタル技術を結合させる。地域にIT活用の仕事があれば、地元に残れる若者も増える。海外でも通用するソリューションが出てくれば、「田舎のデジタル化とグローバル化」が進展し、雇用も生まれる。
日本の直面している課題に立ち向かうには、これまでの価値観を転換し、法制度や発想をすべてリデザインしなければならない。
識者に問う
ITの活用で、課題をどう乗り越えられるのか。
実現のために何をすべきか。
「第四次産業革命は日本の地方から始まる」
菅谷俊二 株式会社オプティム 代表取締役社長
ITがあらゆる産業に結び付けば、産業全体の生産性が飛躍的に高まる。
多くの人手を要している産業ほど、生産性を高める機会が潜在する。
人口が減っている地域こそ、第四次産業革命型の産業のプロトタイプをつくり、世界に売り出していくべきだ。
「ネットワーク化で達成する持続可能な農業」
二宮正士 東京大学大学院農学生命科学研究科 特任教授
農業の人手不足を補うため、農作業の自動化やロボット化が進む。高品質農業を支える篤農家の熟練技術も、データ科学で継承できる。農家をネットワーク化し仮想共同的に経営できれば、小規模農地が多い日本でも生産効率を高められる。
今後は地球規模での持続可能な農業の実現が課題だ。
「地域の公共交通を「便乗」で解決するSAVS」
松原 仁 公立はこだて未来大学 副理事長・教授
地域の公共交通は、効率的に走らせ、利便性を高めて利用者を増やすことで存続できる。
われわれは、オンデマンドの乗り合い車両を最適経路で配車するサービスで、公共交通の維持に取り組んでいる。さまざまなサービスと連携し、利用者の満足と効率化の両立を目指す。
「診断・投薬中心の医療から、患者の行動変容を支援する医療へ」
武藤真祐 株式会社インテグリティ・ヘルスケア 代表取締役会長
慢性的な生活習慣病の増加を背景に、オンライン診療システムを開発・提供している。患者の状況を継続的に医師がモニタリングしたり、診察の一部をビデオ通話で行える。
多忙な就業者の治療脱落を防いだり、高齢者の通院負担を軽減できる。
「日本の「アップグレード」を人工知能で実現する」
加藤エルテス聡志 株式会社日本データサイエンス研究所 代表取締役
電力の使用状況のデータから住人の在宅予測を立てて、宅配の再配達の無駄をなくすことができる。
AIの活用では、産業の枠組みを超えて多様なデータが蓄積されるほど予測の精度が高まる。同業社が協力して、業界全体の生産性向上に取り組む視点も重要だ。
データで見る ITに託す日本の未来
世界の産業ロボットの販売台数(2009 年–2017 年)
「テクノロジーへの取り組み自体は日本でも盛んに行われている(金丸 恭文 NIRA総研 理事長)」
注)世界各国の産業ロボットメーカーがIFR Statistical Department に直接提出する数値から算出。詳細は“World Robotics 2018 Industrial Robots” 1 Introduction: Sources and methods を参照。
出所) IFR Statistical Department(2018)“Executive Summary World Robotics 2018 Industrial Robots” をもとに作成。。
世界の業務用サービスロボットの販売台数(2016 年、2018 年)
業務用サービスロボットの販売台数が世界で大きく増加。物流をはじめ、さまざまな業務の自動化が急速に進んでいることが伺える。(編集部)
注)IFR Statistical Department が実施したアンケート結果。対象は、同社が2016 年以降サービスロボットサプライヤーと特定している700 社。ユニット数は百の単位で四捨五入した。そのため、各項目を合算しても、合計の数値とは一致しない。
出所) IFR Statistical Department(2018) “World Robotics 2018 -Service Robots” をもとに作成。
大規模水稲におけるスマート農業技術の実用化・研究開発の状況
「人手不足を補い、生産を効率化するための、農作業の自動化やロボット化の技術は日々発展し、コストも低下している。(二宮氏)」
出所) 農林水産省(2019)「スマート農業の社会実装に向けた具体的な取組について(平成31 年2 月)」をもとに作成。
日本の経済活動別 就業者一人当たりの付加価値額(2017 年)
「日本の労働人口は、今後四〇年で三〇〇〇万人減少する。生産性を上げなければ国として致命的になる。(加藤氏)」
「来る第四次産業革命は、ITがあらゆる産業に結び付くことで、産業全体の生産性を飛躍的に高める可能性を秘める。特に多くの人手を要する産業こそ、第四次産業革命型の産業に「再発明」される機会が潜在している。(菅谷氏)」
注) 各産業の就業者シェアは、不動産業と鉱業を除いた数を100 として計算している。
出所)内閣府「2017 年度国民経済計算」をもとに作成。
識者紹介
菅谷俊二 株式会社オプティム 代表取締役社長
二〇〇〇年佐賀大学在学中に㈱オプティムを創業。同社代表取締役に就任。「ネットを空気に変える」
のコンセプトのもと、IoTプラットフォームサービス等、インターネットの創造性・利便性を享受
できるサービスプロダクツを提供。二〇一五年東証一部上場。二〇一四年「第四〇回経済界大賞」ベ
ンチャー経営者賞を受賞。二〇一七年佐賀県とAI・IoT包括連携協定を締結し、地域課題の解決
にも尽力。
二宮正士 東京大学大学院農学生命科学研究科 特任教授
世界に先駆けて農業技術にITを導入した農業における情報研究分野の第一人者で、近年は持続可能な
農業実現に注力。東京大学農学系研究科博士課程修了。農学博士。同大農学部助手、筑波大学連携大
学院教授、農業食品産業技術研究機構中央農業研究センター研究管理監等を経て、東京大学大学院農
学生命科学研究科教授。二〇一七年より現職。二〇一八年日本農学賞/読売農学賞。東京大学名誉教授。
松原 仁 公立はこだて未来大学 副理事長・教授
電子技術総合研究所(現・産業技術総合研究所)を経て、二〇〇〇年より公立はこだて未来大学教授。
SAVSの研究開発と社会実装に取り組む。二〇一六年より現職。専門は人工知能、ゲーム情報学、
観光情報学。二〇一六年に大学発ベンチャー㈱未来シェアを立ち上げ、代表取締役社長に就任。東京
大学大学院工学系研究科情報工学専攻博士課程修了。工学博士。人工知能学会会長等を歴任。著書に
『スマートモビリティ革命』(共著、近代科学社、二〇一九年)他多数。
武藤真祐 株式会社インテグリティ・ヘルスケア 代表取締役会長
循環器内科、救急医療に従事後、宮内庁侍医。のちマッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、
二〇〇九年株式会社インテグリティ・ヘルスケアを設立。同社は疾患管理システム「YaDoc(ヤード
ック)」を開発、サービス提供するメディカルスタートアップ。二〇一〇年在宅医療を提供する祐ホ
ームクリニック(現・医療法人社団鉄祐会)を設立。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。医
学博士。第二回イノベーター・オブ・ザ・イヤー受賞。厚生労働省情報政策参与等、公職も歴任。
加藤エルテス聡志 株式会社日本データサイエンス研究所 代表取締役
マッキンゼー・アンド・カンパニー、米系製薬会社等を経て、二〇一三年に株式会社日本データサイ
エンス研究所の前身となる法人を設立、二〇一八年に株式会社化。同社は東大発のAI企業。人口減
少の停滞の時代に「日本の産業をアップグレードする」ことを使命に、物流最適化をはじめ、需要予
測、在庫最適化、異常検知、与信評価など、さまざまなAIサービスを提供。東京大学卒業。ビジネ
スブレイクスルー大学「問題解決力トレーニングプログラム」講師。公正取引委員会、TEDxで講
演。
※記事全文(pdf)は下記「広報素材ダウンロード」より、ダウンロードいただけます。
識者の先生方へのインタビューや取材のご依頼など
下記問い合わせ先までお問い合わせください。
公益財団法人NIRA総合研究開発機構 TEL:03-5448-1710 FAX:03-5448-1744 E-mail:info@nira.or.jp |
■NIRA総合研究開発機構(Nippon Institute for Research Advancement)
NIRA 総合研究開発機構(略称:NIRA 総研)は、わが国の経済社会の活性化・発展のために大胆かつタイムリーに政策課題の論点などを提供する民間の独立した研究機関です。学者や研究者、専門家のネットワークを活かして、公正・中立な立場から公益性の高い活動を行い、わが国の政策論議をいっそう活性化し、政策形成過程に貢献していくことを目指しています。研究分野としては、国内の経済社会政策、国際関係、地域に関する課題をとりあげます。
ホームページ:http://www.nira.or.jp/