東京理科大学 ミントを用いた有機栽培システムの開発 ~植物間コミュニケーションを新しい栽培技術に~
2019.2.27 00:00
【研究の要旨】
東京理科大学基礎工学部生物工学科有村源一郎准教授の研究グループおよび龍谷大学共同研究者は、ミントの香りに曝されたダイズやコマツナでは、エピジェネティクスによる遺伝子制御によって防御能力が高められること、この現象を農業活用することにより無農薬・減農薬の有機栽培を可能にすることを実証しました。
本研究成果はThe Plant Journal誌に8月29日付けでオンラインに掲載されました。
【研究の背景】
植物は、害虫に食害された植物から放出される香りを立ち聞きすることができる。これは「植物間コミュニケーション」と言われ、害虫に食害された植物の周囲の未被害の植物は、香りを立ち聞きすることで害虫の脅威を察し、予め防御力を高めることができるのである。しかし、被食害植物以外の、常に香りを放出する植物(例、ミント)にこの能力が備わるかについては分かっていない。ミントの香りには、害虫忌避効果があることがすでに知られており、ミントに植物間コミュニケーションを生じさせる能力が備わるとすれば、ミントをコンパニオン植物として混栽することで、「害虫忌避」と「栽培植物の防御力を向上させる効果」に相乗効果が生まれ、無農薬・減農薬での有機栽培が実現するものと期待される。
【研究成果の概要】
栽培室内でさまざまなミント種の近傍で生育したダイズにおける防御遺伝子の解析を実施したところ、キャンディミントやペパーミントの香り成分のブレンドにはダイズ葉の防御遺伝子の発現を誘導する能力が備わることが分かった(図1)。これらの効果はミントの香りに曝してから数日間維持され、その分子メカニズムはエピジェネティクスによる遺伝子制御によるものであることが示された。
これらの効果は、野外圃場でキャンディミントの近傍でダイズを生育した場合もしくは温室内でミントの香りを受容させたダイズを野外圃場に移した場合でも認められた(図2)。さらに、ペパーミントの香りに曝されたコマツナにおいても認められた(図3)ことから、特定のミント種は周囲の栽培植物の潜在的な防御力を向上させるコンパニオン植物として機能することが示された。
図1 10ミント種のそれぞれの香気成分に曝されたダイズ葉における防御遺伝子の発現量
図2 キャンディミントの近傍で生育させたダイズの害虫被害率
野外においてキャンディミントの近傍(50 cm、100 cm)で生育されたダイズの被害率。**: P < 0.01
図3 ペパーミントの近傍で生育させたコマツナの害虫被害率
(A)温室内でペパーミントの近傍(50 cm、100 cm)で生育されたコマツナの被害率。
(B)室内でペパーミントの近傍(10 cm、50 cm、100 cm)で生育されたコマツナを温室内に移して栽培した際の被害率。**: P < 0.01; *: P < 0.05
【今後の展望】
ミントの近傍(〜100 cm)にダイズやコマツナを栽培すると、害虫に対する被害率は半分になることが示された。つまり、極低濃度の農薬を用いた減農薬栽培とミントの活用システムを併用すれば、新しい有機栽培技術を生み出すことができる。なお、ミントの香りに曝された栽培種では、さまざまな健康促進代謝物(二次代謝化合物)の生産が向上する可能性があることから、ミントを使った栽培技術により生産物に付加価値が生じる可能性も秘められている。現在、これらの栽培技術を活用した理科大ブランドのダイズやコマツナの開発に取り組んでいる。
用語
※1 エピジェネティクス
DNA配列によらずに、遺伝子の発現を調整する現象。
※2 コンパニオン植物
一緒に栽培することで、病害虫を抑制したり、成長を促進させる効果をもつ植物。
論文情報
Sukegawa S., Shiojiri K., Higami T., Suzuki S., Arimura G. (2018) Pest management using mint volatiles to elicit resistance in soy: mechanism and application potential. The Plant Journal in press
DOI番号:10.1111/tpj.14077
【本研究内容に関するお問合せ先】 東京理科大学 基礎工学部生物工学科 准教授 有村源一郎 【当プレスリリースの担当事務局】 東京理科大学 研究戦略・産学連携センター(URAセンター) *本資料中の図等のデータはご用意しております。上記URAセンターまでご連絡頂ければ幸甚です。 |