東京理科大学 愛媛大学 全国の河川における深刻なマイクロプラスチック汚染の実態を解明

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2019.2.27 00:00

研究の要旨

東京理科大学理工学部土木工学科・片岡智哉助教,二瓶泰雄教授及び愛媛大学工学部環境建設工学科・日向博文教授の研究グループは,マイクロプラスチック(Microplastics,MP)という微細なプラスチックの汚染状況に関して日本全国の29河川36地点において調査する,という世界でも稀な大規模調査を実施しました.その結果,29河川中26河川(全体の9割)にてMPが発見されました.また,河川流域の人間活動の影響が大きいほど,河川のMP汚染が進行していることを世界で初めて明らかにしました.これにより,海洋のMP汚染問題の解決には,発生源である陸域におけるMP及びプラスチックごみ削減対策の実施がより一層重要であることが示されました.
本研究成果はElsevierの国際学術雑誌「Environmental Pollution」に10月29日付けで掲載されました(https://doi.org/10.1016/j.envpol.2018.10.111).本研究は,日本学術振興会科研費・若手研究A(17H04937)の助成,並びに公益財団法人河川財団の河川基金助成事業によって実施されました.

 

研究の背景

マイクロプラスチック(MP)は,0.3〜5.0mmの微細なプラスチックであり,海洋環境中に低濃度に浮遊し,疎水性をもつ残留性有機汚染物質を高濃度に吸着するという特徴をもちます.有害物質を高濃度に吸着したMPが食物連鎖に取り込まれることで海洋生態系の汚染因子として危惧されています.この懸念の拡大により,2018年6月にカナダ・シャルルボワで開催された先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)では,「海洋プラスチック憲章」が提起されました.

一方,我が国の周辺海域には,世界平均の27倍の濃度でMPが高集積している「MPのホットスポット」であることが報告されています.プラスチックは陸域で消費されることから,陸域で発生したMPが河川を介して海洋に流出していることが想定されますが,現時点で国内河川におけるMP調査は限定的であり,国内河川のMP汚染実態は明らかになっていませんでした.

 

【研究成果の概要】

本研究では,国内河川のMP汚染実態を明らかにするため,国内29河川36調査点(図1)で平常時に橋梁から簡易プランクトンネットを下ろしてMPを採取しました.このような多くの河川,地点数でのMP調査は,世界でも類を見ない大規模な調査です.この調査の結果,26河川31調査点(86%)でMPが見つかりました(図2).本研究の調査点におけるMP濃度【注1】の平均値は1.6個/m3であり,世界平均の27倍に相当する日本周辺海域の平均MP濃度(3.74個/m3)に対して約半分のMP濃度でした.MP濃度は,かつて湖沼水質ワースト1であった千葉県手賀沼に注ぐ大堀川で最も高く,12個/m3でした.

調査地点によってMP濃度がなぜ異なるのかを明らかにするため,調査点より上流の河川流域の情報として人口密度【注2】,市街地率【注3】と比較したところ,MP濃度と両者には有意な正の相関関係がありました.このことから市街化して人口密度が高い河川ほどMP濃度が高いことがわかりました.人口密度や市街地率は人間活動の活発さの指標であるため,人間活動がより活発な河川ほど,MP濃度が高くなっていると言えます.すなわち,本研究により,人間活動と河川のMP汚染の関係性が実証されました.

また,MP調査点近傍で測定された公共用水域水質測定結果の年平均値と比較したところ,生物化学的酸素要求量(BOD)【注4】,溶存酸素量(DO)【注5】,全リン(T-P)【注6】及び全窒素(T-N)【注7】と有意な相関関係があり,人為的影響が大きい河川ほどMP濃度が高いという結果となりました.MP濃度と河川水質は,河川の流れの状態に応じていずれも時間的に変動が大きいと考えられることから,MP観測点近傍の公共用水域水質測定点における環境省が定める「水質汚濁に係る環境基準水域類型」に基づき,平均MP濃度を算定したところ,汚濁レベルの高い類型ほどMP濃度が高い結果となりました. 以上の調査結果から,人口密度が高い市街地を流下する汚濁河川ほどMP濃度が高いことがわかりました(図3).


図1 各観測地点におけるMP濃度


図2 河川から採取したMP


図3 研究成果の概略図

 

今後の展望

本研究により,河川流域の人間活動の影響が大きいほど,河川のMP汚染が進行していることを世界で初めて明らかにしました.これにより,海洋のMP汚染問題の解決には,発生源である陸域におけるMP及びプラスチックごみ削減対策の実施がより一層重要であることが示されました.

本研究ではMP濃度の計測に留まっているため,今後は国内河川から海洋に流出するMP輸送量【注8】を明らかにしたいと考えています.そのため,現在洪水時におけるMP濃度の計測,並びに河川横断面におけるMP濃度の分布の計測を行っております.

 

用語

【注1】MP濃度

単位河川水量当たりのMP数,またはMP質量(単位: 個/m3,mg/m3

 

【注2】人口密度

MP観測点より上流域における単位面積当たりの人口(単位: 人/km2

 

【注3】市街地率

MP観測点より上流域における市街地の面積割合(単位: %)

 

【注4】生物化学的酸素要求量(BOD)

河川に生息する微生物が有機物を分解するときに使用する酸素量であり,代表的な河川汚濁指標です(単位: mg/L).数値が高い程,汚濁が進行していることを意味します.

 

【注5】溶存酸素量(DO)

水中に溶存している酸素量であり(単位: mg/L),汚染度の高い水中では,消費される酸素量が多いのでDOは少なくなります.

 

【注6】全リン(T-P)

水中に溶解している無機態リンと有機態リンの総量であり(単位: mg/L),工場排水,農業排水及び生活排水により,濃度が高くなります.

 

【注7】全窒素(T-N)

水中に溶解している無機態窒素化合物と有機態窒素化合物中の窒素の総量であり(単位: mg/L),工場排水,農業排水,生活排水及びし尿処理水により,濃度が高くなります.

 

【注8】MP輸送量

河川水によって単位時間あたりに運ばれるMP数,またはMP質量(単位: 個/s,mg/s).

 

【本研究内容に関するお問合せ先】

東京理科大学 理工学部 土木工学科
助教 片岡 智哉
〒278-8510 千葉県野田市山崎2641
Tel:04-7124-1501 (4072)
e-mail:tkata@rs.tus.ac.jp

【当プレスリリースの担当事務局】

東京理科大学 研究戦略・産学連携センター(URAセンター)
〒162-8601 東京都新宿区神楽坂1-3
Tel:03-5228-7440
e-mail:ura@admin.tus.ac.jp

*本資料中の図等のデータはご用意しております。上記URAセンターまでご連絡頂ければ幸甚です。