【特集】松戸の「しごとクリエイター」

松戸市内には、既存の商品や仕事に、そのひとならではのエッセンスを加えて、それまでになかった“しごと”を生み出している人たちがたくさんいます。

わたしたちは、その方々を「しごとクリエイター」と名づけました。

「オンリーワンのまち」特集でも紹介したように、宿場町の歴史のあるまち・松戸には「本気の人にとことんエールを送る気質」 が根づいています。本号に掲載している“しごとクリエイター”5者は、本気のかたまりです。その周りには、エールを送る人たちがたくさん集まり、それによって“しごとクリエイター”はさらに刺激を受け、しごとに磨きがかかる。それが何度も繰り返し起こっているように感じました。本気で何かにチャレンジする人にとって、松戸は「チャンスのまち」かもしれません。

※掲載情報は2020年8月13日時点のものです。

 

つまみかんざし彩野

 “つまみ細工”の技法を受け継ぎ、伝統と革新の作品を生み続ける女性職人チーム

つまみ細工を用いてつくられたアロマディフューザー『kaminokaー紙ノ香ー』は、松戸市のふるさと納税の返礼品に採用されています。

 

”つまみ細工”は、正方形に細かく裁断したシルクの生地をピンセットでつまんで花びらなどをつくる伝統技法です。その技法で作られたつまみかんざしは江戸時代から続いており、町人文化が花開いた文化・文政年間(1804年~1830年)に最盛期を迎え、明治以降も盛衰を繰り返しながら現代に受け継がれています。

つまみかんざし彩野は、「つまみ細工を日常に」をコンセプトに、千葉県指定の伝統的工芸品「江戸つまみかんざし」から、現代の生活様式にフィットする小物やアクセサリーまで、松戸を拠点に制作している女性職人チームです。

幼少の頃から松戸で育った代表の藤井彩野さんは、かつては海外志向だったそう。しかし、学生時代の語学留学先で、日本文化について無知であることを痛感。あらためて学び直そうと決意した頃、松戸駅近くの美容院でつまみ細工でつくられたかんざしに偶然出会います。

つまみ細工に興味をもち、体験教室に参加して以来、つまみ細工にのめり込んだ藤井さんは、かんざしを作るために役立つ知識を得ようと、大学卒業後は着物の基礎を学ぶために呉服店の販売員を、花の組合わせを習得するためにフラワーアレンジメント教室のアシスタントをしながら、並行してほぼ独学でつまみ細工の技術を習得。2016年の事業化以降、藤井さんの活動を知る人たちが作品づくりに参加し始め、“チーム彩野”が誕生。「私の鬼のような厳しい検品」(藤井さん)を経ながらスタッフの技術は向上し、やがて普段使いの小物やアクセサリーの制作を担うまでに成長。分業体制によって完成した作品は現在、有名百貨店を始めとする10以上の店舗で販売されるまでになりました。

「松戸で育ち、住み続けていなかったらつまみ細工とも、仲間とも出会わなかったと思います」と語る藤井さんは、2018年に千葉県から“伝統的工芸品製作者”に認定。現在は、若手の育成と女性が活躍できる場の創造に励みつつ、現代に息づく伝統工芸品を弟子たちと共に生み出し続けています。

京友禅の振袖の端切れで制作された成人式用のつまみかんざし

「松戸の都会過ぎず、田舎過ぎないところが、私にはちょうどよいのかもしれません」と語る藤井彩野さん。松戸市在住。

【Information】
Webサイト:http://kanzashi-ayano.com
オンラインショップ: https://shop.kanzashi-ayano.com/
Instagram :https://www.instagram.com/tsumami_kanzashi_ayano/ 
Facebook:https://www.facebook.com/つまみかんざし彩野-354224657922016/
お問い合わせ:inquiry@kanzashi-ayano.com

 

Shoe shine labo. CREO

持ち主とのストーリーが永遠に続くよう、靴にいのちを吹き込み、輝かせる職人技

数々の工程を経て見事に磨き上げられた靴。トゥー部分には鏡面仕上げが施されている。 

ブタ、馬など複数のブラシを靴に小気味よく入れると、魔法のように輝いていく。その様子は圧巻。

 

シューシャイナー・安井幸治さんが2018年8月に創業し、今年で3年目を迎えた『CREO』。たしかな技術と気さくな人柄をもつ安井さんは、松戸市民のみならず、各地の靴愛好家からも一目置かれた存在です。修理品を北海道釧路市から郵送する人、Instagramにアップしている修復前後の画像に感動して店舗に持参する人など、依頼は絶えません。

同地には、元々『DICOOL』という靴磨き専門店がありました。安井さんは別のオーナーのもと同店で活躍していましたが、閉店に伴い、他店で新たな一歩を踏み出す予定でした。しかし、店がそのまま空き物件になることを知り、同じ場所での独立を決意。居ぬきでCREOをオープンしました。カウンタータイプの店内はまるでバーのよう。安井さんとの会話を楽しみながら、磨きや補修の様子を間近で堪能できます。

シューシャインと聞いて、「靴をピカピカに磨くだけでよいのでしょう」と思う方がいらっしゃるかもしれません。しかし、靴が輝くまでには、汚れを落とし、革から元の染料を抜き、革に何度も栄養を与え、再度染色し、ブタや馬など毛質や密度の異なる数種類のブラシで磨くなど、気が遠くなるほどの工程が待ち受けています。安井さんは依頼を受けると、まず完成図を頭の中に描いた後、そのゴールに辿りつくまでの工程を設計するそう。それができるのは、幼少期から絵を描くことが好きで、デザインの専門学校への在学経験があるからだそう。

「靴をキャンバスに見立てて、絵を描くように設計する。プラン通りにいくとやはりうれしいですね。」 絵画の経験は、靴の染色工程でも発揮されます。革質によって染料の入り方が異なるため、発色の加減は微妙に変わってしまうそう。しかし、安井さんはそれを想定して染料を調合し、思い通りの色を出せるのです。これが独学というから驚きです。

安井さんほどの技術をもつシューシャイナーは、ファッションの最先端である東京でも十分ニーズがあるはず。しかし、都内に進出しようと思ったことは一度もないとのこと。「松戸は、お客様との距離感がほどよく、心地いいんです。ありのままの自分で接客できている感触があります。」それを実現できているのは、安井さんが一つひとつの依頼に真剣に向き合い、愛情を込めて靴に再びいのちを吹き込み、たくさんの依頼者を喜ばせているからではないでしょうか。

Shoe shine labo. CREO オーナー・安井幸治さん

【Information】
住所:松戸市根本452ー105
営業時間:12時~20時
定休日:木曜
アクセス:JR常磐線(快速・各駅)、新京成線「松戸駅」東口から徒歩約5分
Instagram:https://www.instagram.com/shoeshiner_yasu/

 

omusubi 不動産

松戸・八柱エリアをホームタウンに、ひととひと、ひとと場所の関係性を紡ぐ不動産屋

「せんぱく工舎」の1階には店舗、2階はアトリエが入居。
住所:松戸市河原塚408-1
Webサイト:https://senpaku-kousya.com/
写真撮影:加藤甫、川島彩水

広大な敷地をもつシェアアトリエ「8lab(ハチラボ)」(松戸市八ケ崎)

 

一度耳にしたら忘れられない屋号にふさわしく、自社が取り扱っている物件の入居者やまちの人々と一緒に、田植えや稲刈りなどの米づくりのイベントを開催する、一風変わった不動産屋です。

「昔から、ひととひと、ひとと場所の間に入ってつなげることが好きでした」と語るomusubi不動産代表・殿塚建吾さんは、DIYや改装が可能な古民家や団地などの物件とそれをしたい入居希望者をつなげています。松戸市内を中心とした豊富な取扱数と種類は、DIY可能賃貸管理戸数で日本一(全宅連・不動産総合研究所研究員談)です。また、住居向けだけでなく、店舗向けにも同様の取り組みを実施。神戸船舶装備株式会社が所有する約400㎡もの元社宅をリノベーションした「せんぱく工舎」には、カフェやスコーン専門店、書店のほか、若手クリエイターのアトリエが入居しています。

松戸育ちの殿塚さんは、社会人として数社を経たのち、地域活性をデザインする会社「まちづクリエイティブ」(松戸市。詳細は5頁を参照)に入社。不動産事業の立ち上げに尽力したのちに、地元・八柱へ戻り、2014年にomusubi不動産を設立しました。集える場を設けるために地域の人々とともにカフェをつくったり、シェアアトリエの運営をしたり、物件の入居者と交流会を開催したり、顔の見えるひと同士で暮らしをつくる取り組みを多数手がけてきました。

それらの丁寧な仕事と活躍は評判を集め、活動の場は県外にまで拡大。最近では東京・下北線路街の注目スポット『BONUS TRACK』(2020年4月開業)の施設全体の管理とコワーキングスペースの運営にも携わり、同地にはomusubi不動産の支店もオープンしました。

「それでも、松戸が私たちのホームであることには変わりはありません。ホームがあるからこそ、東京でチャレンジできるんです。また、ホームだからこそ、チャレンジングな企画に挑戦できることもあるでしょう」と、ホームがあることの心強さについて述べていました。2018年より実施している、メディアアートの研究機関「アルスエレクトロニカ」とコラボレーションした、松戸市主催の国際的フェスティバル「科学と芸術の丘」の運営もその一例といえるでしょう。

また、“地方だからできること”と“東京だからできること”がそれぞれ補完し合えれば、まちづくりはもっと面白くなるはずだと殿塚さんは考えています。さらに、これを地方と東京の関係性だけでなく、まちなかでのひと同士の関係性にも活かしたいそう。「生活している人それぞれが、自分のできることや得意なことで互いを助け合う。そんな“おたがいさま”の関係のある暮らしを実現したいです」と、今後のビジョンについて力強く語っていました。

omusubi不動産 代表  殿塚建吾さん

【Information】
■八柱本店
住所:松戸市稔台1-21-1 あかぎハイツ112
営業時間:10時~18時
定休日:水曜、日曜
アクセス:新京成線「みのり台駅」から徒歩約15分
Webサイト:https://www.omusubi-estate.com/

■下北沢BONUS TRACK店
住所:世田谷区代田2-36-12
営業時間:10時~18時
定休日:水曜

 

山田屋の家庭用品

お気に入りのアイテムが必ず見つかる、ワクワクすること間違いなしの家庭用品店

デザインと利便性を兼ね備えたハイセンスな家庭用品を取り揃えています

 

『山田屋の家庭用品』は、松戸駅西口から徒歩3分ほど。店頭のモダンなフォルムのじょうろやバケツなどの陳列が目を引きます。ちらりと見える店内には大小さまざまなやかんやレトロな魔法瓶などの家庭用品がところ狭しと並んでおり、なんだか掘り出し物が見つかりそうな雰囲気です。それもそのはず。現在、店を経営する栗原渉さんのアイテムのセレクト基準は、「買ってワクワクするもの」だからです。

店のはじまりは、江戸末期に創立した寺子屋で、小売業を開始したのは明治7年。当時の取り扱い商品は米や油、ほうきなどでした。 9代目が約70年前に有限会社として『山田屋の家庭用品』を登記し、現在は30代の若き経営者で11代目の栗原さんが継いでいます。

「山田屋」は、もともと栗原さんの母方の家族が代々営んできたお店です。栗原さん自身は米屋を営んでいた父親のもとで育ちました。栗原さんの兄が米屋を継いだため、漠然と山田屋を継ぐことを考えるようになったそう。店を継ぐかどうかまだわからなかった頃、自ら立ち上げた家具のオンラインショップで、山田屋で取り扱っていた商品を販売したところ売り上げを大幅に伸ばした実績から、9代目から正式に跡継ぎに指名されました。

代替わりによって経営の若返りを図ったものの、商品のラインアップは大幅には刷新しませんでした。現代風にアップデートされた定番の家庭用品を中心に据えつつ、ひと世代前に販売されていた昭和感のあるレトロな商品も取り揃えるようにしたそうです。その戦略はみごと的中。お年寄りが中心だった客層も、今では20代にまで拡大し、幅広い年代に愛されるお店になったのです。

最近、栗原さんは松戸の若い経営者たちとの交流が増えたとのこと。「つながりが増え、松戸が楽しくなってきた。このお店を起点に、松戸をもっと楽しい街にしたい」と意気込んでいました。

『山田屋の家庭用品』 11代目の栗原渉さん

【Information】
住所:松戸市本町12-8
営業時間:10時30分~18時30分
定休日:月曜、火曜
アクセス:JR常磐線(快速・各駅)、新京成線「松戸駅」西口から徒歩約3分
Webサイト:https://yamadaya.shop/
Instagram:https://www.instagram.com/yamadaya_matsudo

 

まちづクリエイティブ

地域活性のデザインに必要な「ローカルに仕事を生み出す」プロジェクトを実践

まちづクリエイティブは、自律的な地域活性をデザインするまちづくりの会社です。2011年から、松戸駅前エリアの半径500mを主な範囲としたまちづくりプロジェクト「MAD City」に着手。不動産賃貸のほか、レンタルスペース、イベントや施策の企画・運営など、多種多様なプロジェクトに取り組んでいます。

そのなかには、MAD Cityエリアの資源を生かしながら、ローカルでの新たな仕事をつくるプロジェクトがあります。そのひとつが、「ネクストダイクプロジェクト」です。MAD Cityエリアのリノベーションや建築に携わっている千葉市の住宅メーカー・木村建造株式会社の⽊村光⾏さんとの共同の取り組みで、“大工の伝統技術”と創意工夫や発想を建築物に落とし込める“クリエイティブ思考”を兼ね備えた人材の育成に励んでいます。

ことし7月のプロジェクトでは、逐55年の築古アパート2室を1室にするリノベーションに、ICSカレッジオブアーツに在学中の中国とモンゴルからの留学生2名が挑戦。2室の間にあった壁を撤去したり、残した壁をこてで塗ったり、ボロボロになった天井を張り替えるなどの作業をしました。

建築を学ぶために来日する外国人留学生は増加傾向にあるものの、技術の習得には高いハードルがあります。そのうちのひとつが、現場での実践経験です。就業体験のほとんどは材料の運搬や足場の施工、塗装などで、大工としての技術を学べる機会は乏しいのが現状です。

一方で、松戸を含む日本国内でも空き家が増加し、リノベーションのニーズは高まり、ネクストダイクの需要は高まると予想されています。海外からの留学生に適切な機会を提供し、ネクストダイクを生み出す一歩をつくり、増やすことが、今後のまちづくりにとって重要になりそうです。まちづクリエイティブ代表の寺井さんは、「ネクストダイクプロジェクトをさらに推進し、“松戸にいけばおもしろいリノベーションプロジェクトに関われる” といわれるまちにしたい」と展望を語っていました。

リノベーション前の、かなり年季の入った室内(8/20施工完了予定)

隙間のないよう床材を入れるため、お互いに確認し合いながら作業をする留学生たち

まちづクリエイティブ代表・寺井元一さん

【Information】
住所:松戸市本町6-8
営業時間:11時~18時
定休日:火曜、水曜
アクセス:JR常磐線(快速・各駅)、新京成線「松戸駅」西口から徒歩約4分
Webサイト:http://www.machizu-creative.com/