【三菱ケミカル Newsletter】未来社会を支える素材「GaN(窒化ガリウム)」

高効率・高耐久性の「パワー半導体」を実現し、EVの性能、5Gの通信品質などを高め、カーボンニュートラルにつながる

三菱ケミカルでは、半導体材料の製造や製造装置の精密洗浄サービス、次世代型の半導体材料の開発等を行なっています。その中でも、高効率・高耐久な半導体を実現する注目の素材「GaN(窒化ガリウム、ガリウムナイトライド)」をご紹介します。

【1】未来社会を支える素材「GaN」とは?

「GaN」は、金属の一種である「ガリウム」と「窒素」の化合物で、結晶構造をもつ半導体材料です。2014年にノーベル物理学賞の受賞理由になった青色LEDの材料として知られています。ブルーレイディスクプレイヤーやプロジェクターの光源であるレーザーデバイスにも使用されています。その物性から高速動作が可能で、かつ抵抗が小さく電力ロスが少ないパワー半導体の実現を可能とします。従来のシリコン製の半導体は電力消費量、電力のロスが大きく、これを「GaN」製に置き換えると約10%の消費電力の削減につながるとされています。
 一方で、従来は、高品質な「GaN」基板は製造するのが難しく、製造コストの面などからも量産が困難とされていました。

 

【2】「GaN」の働きと関連のあるトレンドワード

『パワー半導体』

 
未来の生活は、パワー半導体によって大きく変化するといわれています。
パワー半導体とは、高い電圧や大きな電流を扱うことができる半導体で、主に電圧、周波数を変えたり、直流を交流、交流を直流に変えるなど電力変換に使われます。 モーターを低速から高速まで精度良く回す、太陽電池で発電した電気を無駄なく送電網に送るなど、様々な家電製品、電気器具に安定した電源を供給する場面でパワー半導体は欠かすことができません。
適用領域は太陽光発電、鉄道、風力発電など産業向けから、EV、家電まで、多岐にわたります。

パワー半導体は、高い電圧、大きな電流に対しても壊れないよう通常の半導体とは違った構造を持っています。また大きな電力を扱うことから、熱を発して高温となりやすく、それが故障の原因につながってしまうため、発熱の要因であるパワー半導体自身の電力損失を少なくし、さらに発生した熱を効率よく外に逃がす工夫が必要とされています。近年、省エネ化・省電力化への意識の高まりからも、無駄な電力使用を極力少なくできるパワー半導体の需要がより高まっています。

現在はシリコン系基板が主流ですが、それよりもさらに大電流での動作が可能で電力損失が少なく、加えて小さなサイズで大きな電力を扱うことができるパワー半導体が求められています。

「GaN」は、幅広い電圧で高速動作し電力損失が少ないという特長があります。サイズが小さくても大電流動作が可能で、機器や装置を小型化できるため需要が増加しています。今後、基板の大型化の実現でデバイスコストが下がり、より多くの用途で使用されることが期待されます。

『次世代EV技術』

政府による「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」内の実行計画・「自動車・蓄電池産業」の中心は自動車のEV化推進です。政府は「2030年半ばまでに乗用車新車販売で電動車100%を実現」を目標にかかげています。

こうした流れを受けて、今、車のEV化が急速に進み、技術が日進月歩で開発されています。特に、今後は「走行するEVを非接触充電する」など、さらなる機能向上に向けた研究開発が見込まれています。こうした次世代EV技術の実現を支えるため、電子機器などの効率化、大電流での動作の実現が求められています。

「GaN」は、大容量の電力変換に対応することができるため、電力コンバータに使用することで排熱を抑えたより高効率な電力変換が可能となります。EVの非接触充電やインホイールモーター、走行可能距離の延長や再生エネルギー発電の効率改善などへの貢献が期待されています。

『5G』


「5G」とは、現在携帯電話やインターネット通信で主に使用されている「4G(LTE-Advanced)」の次世代となる第5世代移動通信システムです。2020年に日本でもサービスが開始された「5G」は、「4G」からの世代交代によって暮らしやビジネスを大きく変えると考えられています。

「5G」の大きな特長は超高速大容量・超低遅延・多数同時接続です。スピードは毎秒20ギガビットとなり、2時間の映画のダウンロードが3秒で済む速さとされています。さらに、スマートフォンなど個別の機器と基地局の間の通信は「4G」の10分の1の、0.001秒しかかからず、タイムラグも大幅に改善されます。これにより、遠隔地のロボット操作なども遅延なく可能となり、医療分野などでのロボットの活用も期待されています。
日本政府が目指す超スマート社会の実現に向けて、「5G」は重要なポジションとなる未来の通信システムです。

「GaN」は、電子を高速で動かすことができるため広い帯域の高周波動作が可能となり、「5G」の高周波デバイスとして期待されています。「5G」をはじめとする次世代通信の無線基地局への採用などが拡大すると見込まれています。

『カーボンニュートラル』


2020年10月、菅義偉内閣総理大臣は、「2050年までに温室効果ガス(GHG)の排出を全体としてゼロにする。すなわちカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言しました。GHGとは、CO2のほか、メタン、N2O(一酸化二窒素)、フロンガスをいいます。完全な排出ゼロは不可能なため、排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにすることで実現するとしています。つまり、排出せざるをえなかった分については、植林を進めることで光合成に使われる大気中のCO2の吸収量を増やす、CO2を回収して貯蓄する「CCS」技術を利用する、CO2を原料とする人工光合成などで、差し引きゼロにするという意味合いです。そのため、ニュートラル=中立という用語が用いられています。

現在、日本を含む世界124か国1地域が2050年までのカーボンニュートラル実現を掲げており、2060年までのカーボンニュートラル実現を表明した中国を含めると、全世界の約3分の2を占めています。
カーボンニュートラルの実現に重要なカギはGHGの大部分を占めるエネルギー源からのCO2排出量を減らすことです。その多くは、石炭、石油、天然ガスといった化石燃料を燃やし、エネルギーを生み出す過程で発生しており、エネルギー消費量自体を減らすことがCO2排出量の削減に効果的とされています。その手段として、デジタル化による節電、省エネ、IoTによるエネルギー利用の最適化などが考えられます。

「GaN」は、高輝度・高出力レーザー、高効率照明、新世代ディスプレイへの応用により省エネを実現。
また、デジタル化やエネルギーの効率利用に関連する「パワー半導体」、「EV」、「5G」の重要素材として、私たちの日常生活におけるエネルギー消費量を減らすことで、カーボンニュートラルへ大きく貢献すると考えられます。

 

【3】三菱ケミカルの「GaN」について


三菱ケミカルの「GaN」基板は、永年培ってきたHVPEと呼ばれる結晶を成長させるエピタキシャル技術と、化合物半導体の加工技術を用いた高品質な単結晶基板です。均一かつ高品位な結晶性と表面品質が特長で、高輝度LED用基板、プロジェクター光源、高輝度ヘッドライトに使用される青色レーザーダイオード(LD)用基板として、幅広い用途で使用されてきました。
またパワーデバイスや高周波デバイスなどのパワー半導体用基板としての用途も開発を進めています。より高品質・高生産性を実現すべく、アンモニアの超臨界状態を活用した新しい量産技術の実証実験を、日本製鋼所と共同で行っています。

【4】「GaN」市場の未来と三菱ケミカルの取り組み

 

三菱ケミカルの今後の取り組み

《未来に向け、「GaN」基板の量産実証実験》
今回、導入する大型設備では、「SCAATTM -LP」を用いて4インチの「GaN」基板の量産に向けた実証実験を行います。この実証実験を踏まえ、「GaN」基板の安定供給体制を構築するとともに、近年需要が増加するパワーデバイス用途に適用可能な6インチ基板の開発にも取り組んでいきます。
2022年にサンプル出荷、2023年度以降に量産することを目指しています。データセンター向けや高速通信規格「5G」の需要拡大を見込み、2030年度には数十億円規模のビジネスとする計画です。

「GaN」基板は、光デバイスやパワーデバイス、高周波デバイス等のパワー半導体として様々な用途への応用が期待されます。
未来の社会を支える材料として重要な位置づけを持つ高品質な 「GaN」基板の供給を通じ、燃費・発電効率向上といったエネルギーミニマム社会への貢献を目指しています。

 

【ご参考】「GaN」の歴史

《LEDの研究》
「GaN」は、もともとは、青色LED、次世代DVD向け半導体レーザー用の材料として研究されていました。「GaN」を用いた高輝度の青色LEDや緑色LED、Blu-rayディスク用の半導体レーザーが開発され製品化されています。
「GaN」の単結晶は育成が難しく、方法も確立されていませんでした。1986年に単結晶化の技術が開発され、2014年には、赤碕勇氏、天野浩氏、中村修二氏が「GaN」単結晶化技術を用いた青色LEDの開発でノーベル物理学賞を受賞したことで、「GaN」は注目を集めました。

《電波素子の研究》
発光素子に次いで、「GaN」のもつ物性から研究がはじまったのが、電波用の半導体素子の研究開発です。携帯電話基地局や人工衛星、レーダーなどに用いる高周波トランジスタの開発が進みました。これらの研究は2000年頃からはじまり、2005年頃に競争が活発になりました。

《パワーデバイスへの活用・量産の時代へ》
「GaN」を電力変換のパワーデバイスに用いるためには、LED用の「GaN」単結晶よりも、欠陥が少なく大型の「GaN」単結晶が不可欠です。この高品質の「GaN」単結晶をつくる技術は非常に難しく、かつコストがかかることから、なかなか実用化に結びつきませんでした。
三菱ケミカルでは、日本製鋼所との共同開発で高品質な「GaN」基板の量産に向けた実験に成功。2022年度からの市場供給開始を目指しています。

※本資料に掲示の画像はイメージを含みます

<本件に関するメディアからのお問い合わせ先>
三菱ケミカルホールディングス 広報事務局(共同ピーアール内)
担当:阿蘇品、平山
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