全国で課題「ヤングケアラー」神戸市が支援プロジェクト始動

~相談する先がわからない、身近に同じ境遇の友人がいない、などの課題を持つ子どもたちを支援~

神戸市は、家族の世話や介護を行う18歳未満の子ども、通称「ヤングケアラー」の支援に向けたプロジェクトチームを2020年11月に発足。具体的な施策検討と取り組みを紹介します。

「ヤングケアラー」は、親や兄弟姉妹、高齢家族の世話·介護が生活の中心となっている子供や若者を指し、本人の就学や進路に影響することから、社会課題のひとつになっている。厚生労働省と文部科学省が立ち上げたプロジェクトチームが「ヤングケアラー」の実態調査の結果を4月12日発表、公立中学・高校生の2年生、約1万2000人を調査したところ「ヤングケアラーは中学生で5.7%、高校生で4.1%存在する」ことが判明している。

神戸市でも、2019年10月、市内の当時21歳の女性が、同居していた90歳の祖母の介護と、自身の仕事の両立に疲れ果て、祖母を殺害してしまうという痛ましい事件があり、2020年9月の裁判では「強く非難できない」として懲役3年、執行猶予5年の判決が下されたことが報道された。社会経験の少ないがゆえに相談先が分からないなど、地域社会の中で、あるいは家庭の中でも孤立しているという状況が起きていたのではないか……。神戸市では、若い世代による痛ましい事件が市内で起きたことについて重く受け止め、2020年11月にヤングケアラーの支援に向けたプロジェクトチームを発足させ、具体的な施策検討を進めた。以下、神戸市の取り組みを紹介する。

今、市内で起きている状況

後述する市内関係者へのヒアリングにおいて、こども・若者ケアラーだと思われた70件を超える具体的事例の聞き取りを行った。なお、以下の事例は個人を特定できないよう一部加工している。

事例 1 小学校高学年の児童が、弟妹を養育しているケース
母・子ども3人の母子・多子世帯。母の養育能力に課題があり、長女が小学校低学年の弟と1歳の妹の面倒をみている。弟、長女本人とも不登校気味。
事例 2 外国籍世帯の子が、日本語を話せない親の生活を援助しているケース
日本語を読めない・話せない親のために、子が通訳のために日常生活に付き添いをしている。各種手続きや学校から親への日々の連絡について、子が付き添い、通訳を行う必要がある。また、親子間の言語能力の差から、悩み等を家庭内で共有することが困難。
事例 3 高齢父と中学生長女の父子家庭で、長女が家事を担っているケース
高齢父は就労中で食事以外の家事に頓着がなく、長女が家事全般を担っている。父子の関係は良好であるが、父の体調不良時に看護のため長女を休ませるなど、学校を休むことがしばしばある。
事例 4 障害を持つ両親を高校生の長男が介護・看護を行っているケース
脳疾患による重度後遺症を持つ父と、精神障害を持つ母のために、世帯の金銭管理も含め長男が行っている。父の介護や母の深夜の通院介助等のため、小学校高学年以降、通学できない時期もあった。
事例 5 10代の無職男性が、精神疾患のある両親の看護と4人の弟妹を養育しているケース
中学卒業後、精神疾患のために食事など日常生活がままならない両親の看護をしながら、小学生と未就学の弟妹の世話をしている。小学生の弟妹は生活リズムが乱れ、不登校の傾向がある。
事例 6 20代の若年夫婦が、未就学児2人を養育しながら、母の介護を行っているケース
妻は未就学児2人を養育しながら就学中であったが、同居の母が中等度認知症のために介護が必要となり、介護と乳幼児の養育が同時に発生し、身体的にも精神的にもストレスが大きくなった。
事例 7 知的障害のある20代の男性が、父を在宅で介護しているケース
父は在宅で介護サービス(訪問介護)を利用中であるが、知的障害のある次男が日常的な介護を行っており、本人が十分な療育を受けられない状況となっている。

ヤングケアラーとは

(定義)家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポート等を行っている18歳未満の子ども。ケアが必要な人は主に障がいや病気のある親や高齢の祖父母であるが、きょうだいや他の親族の場合もある。(出典:一般社団法人日本ケアラー連盟ホームページ)

国の動向

少子超高齢化や核家族化の進展、地域でのつながりの希薄化など、社会を取り巻く状況が変化し、福祉課題も複雑・多様化しており、なかでも「家庭介護」が抱える課題については表面化しにくい側面がある。これまでに老々介護・8050問題などの福祉課題が注目され、以前にくらべ認識されつつあるが、一方で、「ヤングケアラー」については、より若い層を巻き込んだ課題として、学習の機会に影響を与えるなど負のサイクルを生みやすいという弊害があると考えられるにもかかわらず、残念ながら、一般的な認知としては低いものであった。

厚生労働省の令和2年度子ども・子育て支援推進調査研究事業として、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社がヤングケアラーの調査を実施。世話が必要な家族がいるかなどについてアンケートを行ったもの。対象は、全国の公立の中学校・高校から1割程度に当たる中学校1,000校と高校350校の学校を無作為抽出し、その学校に通う中学2年生(約11万人)および高校2年生(約8万人)を対象とする。なお、神戸市内では、中学校12校(約1,300人)、高等学校1校(約200人)が対象になった。同時に、学校や全市区町村の要保護児童対策地域協議会に対しても調査を行った上で、2021年4月12日に結果が公表された。国においては、今後、ヤングケアラーに関する施策をまとめるとしている。

国の動向を注視しつつ、神戸市としては、これに先んじて、「認知症にやさしいまちづくり」「ひきこもり支援」など、これまでも地域の福祉課題に率先して取り組んできた経験を踏まえ、ヤングケアラーに関しても、2020年11月にプロジェクトチームを立ち上げ、施策の検討に動いた。

神戸市プロジェクトチーム

○ チームリーダー 福祉局副局長 / 副リーダー 福祉局高齢者支援担当課長
○ 主要メンバー 高齢福祉・介護保険・障害者支援・こども家庭支援・教育など、各分野の職員 計14名
○ 検討経緯 (2020年11月13日プロジェクトチーム発足) ※下記会議以外もコアメンバーで随時検討

第1回 全体会議(11月17日) ・ケアラーと被介護者の関係整理、その関係性と主な課題
・課題毎の対応策検討について、関係所属の役割分担
第2回 全体会議(11月27日) ・関係者からの情報提供ルートをどうするか(情報の受け手)
・児童虐待(ネグレクト等)の判断をどの段階で行うか
第3回 全体会議(12月15日) ・関係機関の連携スキームの確認、施策(案)について
・具体的事例を使った検討
第4回 全体会議(1月12日) ・施策名称について
・令和2年度中の各所管の役割分担とスケジュール
第5回 全体会議(2月16日) ・研修の準備、マニュアル等について

「こども・若者ケアラー」

上述のとおり、一般的に 「ヤングケアラー」とは18歳未満の子どもを指すが、検討を重ねて課題を抱えるケアラーの年齢層や境遇の幅広さが見えた中で、神戸市として支援施策を策定するにあたって、18歳未満の児童だけでなく20代の方も含めて対象とする必要を認識した。このことを市民にも分かりやすく伝えるため、支援施策としては、対象者の名称を「こども・若者ケアラー」と呼ぶこととした。

プロジェクトチームでの実態把握

プロジェクトチームでは、まず、市内76か所と全国でもトップクラスの設置数を持つ地域包括支援センター(あんしんすこやかセンター)をはじめとした市内の関係者に対し、こども・若者ケアラーについて把握している実態や、関係者として行政に求める取り組み、支援の際に課題となると想定される事項などのヒアリングを行った。

あわせて、こども・若者ケアラーに関して知見のある有識者、他府県の支援団体、紹介いただいた元当事者の方にヒアリングを行い、抱える悩み・課題の把握に努めた。

○市内関係者ヒアリング先

区役所のこども家庭支援課(要保護児童対策地域協議会事務局)および健康福祉課、こども家庭センター、スクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラー、障害者支援センター、その他障害者関係機関、あんしんすこやかセンター、ケアマネジャー連絡会、こどもの居場所づくり(こども食堂等)運営団体、子育てコーディネーター など

○有識者・支援団体ヒアリング先

大阪歯科大学 濱島淑惠准教授、ふうせんの会(支援&当事者団体、枚方市)、Yancle(ヤンクル)株式会社(支援企業、東京都)、京都市ユースサービス協会(支援団体、京都市)、こどもぴあ大阪(支援&当事者団体、大阪府)、団体等からご紹介いただいた元当事者の方

具体的事例(本資料冒頭)の聞き取りを行い見えてきた課題

○こども・若者ケアラーの身近に接する人々や関係者であっても、その存在に気づいていなかったり、彼らが抱える問題について知らないことが多く、まずは、理解の促進を図ることが必要。こども・若者ケアラーに関する知識があるだけで、関係者による対応も大きく変わってくる。

○こども・若者ケアラー自身も、どこに相談すればよいのかわからない。また、関係者にとっても、他機関と連携したり支援につなげていくためには、何かあったときに相談ができる場所があった方が良い。関係機関・関係者の連携のためには、ネットワークの構築も必要になる。

○身近には同じ境遇の友人などが少なく、誰にも相談できないことが当事者を苦しめる。「同じ状況の人と知り合って話せて良かった」という声も多く、言葉に出すことで、自身の状況を整理できたり、リフレッシュになる。

2021年度の神戸市の取り組み 「こども・若者ケアラーへの支援」

プロジェクトチームでの検討を経て、2021年度から新たに「こども・若者ケアラー支援担当課長」の配置に加え、専任の相談員を配した相談・支援の窓口を設置することを決めた。さらに、学校・福祉・児童の関係者に対する研修などこども・若者ケアラーへの理解促進を図る取り組みや、当事者同士の交流・情報交換の場づくりを目指す。

(1)相談・支援窓口の設置
こども・若者ケアラー当事者および関係者からの相談を受け、関係機関を集めてケース検討を行い、対応指示や情報共有といった支援の調整を担う窓口を設置する。
当事者からは電話・メール・面談等により相談を受け付ける。年齢の制限はないが高校生~20代が主となる想定。相談員(社会福祉士等の非常勤職員)の研修等、準備を整えた上で、2021年6月に窓口を開設予定。

(2)身近な方々への理解の促進
学校・福祉・児童の関係者に対し、研修や事例検討等を通じて、こども・若者ケアラーへの理解の促進を図る。
行政職員(特に福祉・児童の担当部署)の職員、市立学校の教員・養護教諭・スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカー(※県立・私立学校等にも周知を依頼予定)、民生児童委員、こどもの居場所づくり(こども食堂等)運営団体、障害福祉および介護保険サービスの関係機関(ケアマネージャー等を含む)・事業所 など。
なお、これに先だって、2021年3月に神戸市市民福祉大学(神戸市社会福祉協議会)がオンラインセミナーを実施し、濱島准教授をはじめ支援&当事者団体等が登壇してこども・若者ケアラーへの理解の促進を図った。同セミナーは、市内の関係者をはじめ全国から多くの参加者を集め、新年度に向けたキックオフセミナーとなった。

(3)交流と情報交換の場
主に高校生以上のこども・若者ケアラーを想定して、当事者同士で交流・情報交換ができる場づくりについて、市内のNPO団体等と連携し実施する(2021年秋~)。
小学生・中学生には、子どもらしく過ごせる場として、市内団体が実施する 「こどもの居場所(「食事の提供」や「学習支援」等を実施)」へと紹介していく予定である。

これからの取り組み

神戸市では、2021年度に新設した「こども未来担当局長」の所管事務に、「孤独」を位置付け、子育て、福祉・健康、教育等の施策を進める際、孤独や孤立という切り口からも検証して、必要な支援策を検討できる仕組みづくりを進めている。
地域社会や家族の在り方の変容、コロナ禍における人との接触機会の減少などにより顕在化してきている「孤独」や「孤立」という社会課題を直視することで、こども・若者ケアラーへの支援をはじめ、様々な困難を抱える子どもへの支援など、すべての子どもたちの未来を応援する施策を推進する。 

●オンライン上での報道資料公開●
PRTIMES(リリース):https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/78202
PRTODAY(リリース・ニュースレターなど):https://www.pr-today.net/a00424