八代海沿いを走る「肥薩おれんじ鉄道」で行く“リトリート旅” まるで絵画のような車窓を眺めながら旅する沿線の魅力をご紹介

夏休みシーズンにおすすめの知る人ぞ知るスポットも

 あらゆる情報が行き交い、日々忙しく過ごしている現代人に注目されている旅行のスタイルとして「リトリート旅」というものがあります。リトリートとは、忙しい日常から一時的に離れてリフレッシュをすることで、本来の自分を取り戻すこと。

 そんな現代人を癒す旅先として、鉄道ファンを中心に知る人ぞ知る熊本県南部の美しい八代海沿いを走る「肥薩おれんじ鉄道」沿線の魅力を、現地の方々への取材を通してご紹介いたします。

熊本県で全国的に有名な旅行先として天草や阿蘇地域がありますが、熊本県南部にも都会の喧騒から離れたローカルで魅力的なスポットがたくさんあります。そんなエリアを縦断する肥薩おれんじ鉄道はどのような鉄道なのでしょうか。
肥薩おれんじ鉄道株式会社 代表取締役社長 古森美津代さんにお伺いいたしました。

列車の揺れと海の揺れが融合? 「おれんじ鉄道」で行く、唯一無二のリトリート旅

【肥薩おれんじ鉄道とは?】

肥薩おれんじ鉄道は、熊本県と鹿児島県、そして沿線の10市町等(当時)が出資し、第三セクター鉄道会社として2002年に設立された、肥薩おれんじ鉄道株式会社が運営する鉄道です。今も故郷への愛着を込めて呼ばれている旧国名である肥後と薩摩の頭文字、そして沿線で柑橘類が良くとれることから肥薩おれんじ鉄道と名付けられました。熊本県八代駅から鹿児島県川内駅を結んでおり、熊本県内では穏やかな八代海沿いを走ります。

【肥薩おれんじ鉄道の特徴】

●車窓を眺めて“チル”できるリトリート旅

肥薩おれんじ鉄道は日本でも有数の“車窓から一面美しい海が見える鉄道”です。日中や夕方にかけての時間帯やエリアによって移り変わる車窓からの長めを眺めているだけで日常から脱却し、時間を忘れたまったりとした旅がスタートします。
「海沿いの鉄道は他の地域にもありますが、線路と海の間に道路を挟んでいない“海の際”を走る列車はそうそう無いです。車窓からの眺めは海の上をゆらゆら走っている感じを味わうことができる。列車の揺れと八代海特有の穏やかな海の揺れが重なる感覚は唯一だと思います。」(古森社長)
夕日に立ち合えた時は目の前に幻想的な風景が広がりますが、海はどの時間帯も違った表情があるとのこと。

【今年10周年を迎えた観光列車「おれんじ食堂」】

通常列車とは異なる茄子紺色の車体が映える観光列車おれんじ食堂は、2023年3月24日に10周年を迎えました。金・土・日・祝日限定で1日3便運行しており、開業から10年間で約8万人が乗車。
リラックスできるように作られたラグジュアリーな車両で、車窓の景色を眺めながら地元食材をふんだんに活かした食事を楽しめる、魅力がたっぷりの観光列車です。(大人税込み4,000円~22,000円、乗車+食事等込み)
●地元資源をフル活用したこだわりの“食のおもてなし”

おれんじ食堂では、沿線の魚、肉、野菜、柑橘類などをフルに活用してここでしか味わうことのできない料理を提供しています。メニューの開発も地元の方々に親しまれている料理店と行うなど、あらゆる観点から地産地消を意識しています。
「地元料理店と協力し、食材も地元の旬な食材を使っています。また、月ごとに使う素材をマイナーチェンジしており、その季節に一番おいしいメニューを出せるようこだわっています。」(古森社長)
メニュー開発に携わった料理店は監修だけでなく提供するメニューの調理もそのお店で行い、途中の駅で列車に積み込むというこだわりよう。制限の多い列車での食事提供でも最高の状態でサーブできるよう、創意工夫がされています。
「列車の食事提供では、列車の揺れや、火を使えないなどのデメリットがあります。しかし、寒い時期には石焼きで鍋を温めたりする手法を取り入れており、食事としてもパフォーマンスとしても楽しんでいただくよう工夫しています。」(古森社長)

左から:モーニング / ランチ(和食) / サンセット
※メニューは時期により変更となる場合があります

●車内のデザインはまるでホテルのダイニングスペース

おれんじ食堂は全2両で構成されており、1号車は海側のカウンター席やグループで乗車可能なテーブル席を設けたダイニングカー。2号車には個室のようなソファー席、向かい合わせのテーブル席など、ゆったりとしたラグジュアリーな時間を過ごしていただけます。移り変わる車窓の風景を眺めながら、上質な列車の旅を味わう事ができます。

左から:1号車 / 2号車(テーブル席) / 2号車(ソファー席)

【フォトカルチャー誌『GENIC』とのコラボによる沿線のスポット紹介】

より若年層へのアプローチを行うため、フォトカルチャー誌『GENIC』を発行するミツバチワークス株式会社プロデュースによる観光パンフレットおよび動画CMを作成し、20代~30代女性を中心とした新しい世代にも積極的に情報発信を行っています。開湯600年を迎える歴史を持つレトロ温泉街「日奈久温泉」や、自然とアートが調和したまち「津奈木」など、沿線の駅ごとにスローライフな旅の魅力をまとめています。

・動画CM(30秒Ver.)
https://www.youtube.com/watch?v=pXW6Ro5d1VI&t=30s
・沿線パンフレット
https://www.hs-orange.com/common/UploadFileOutput.ashx?c_id=3&id=828&sub_id=1&flid=2704

動画CM&パンフ紹介ページ

【オトクなプランや旅券】

●おれんじ1日フリー切符(大人料金: 2,800円 / 65歳以上および小人料金: 1,400円)

肥薩おれんじ鉄道全線(※)が1日乗降自由な切符を、各有人駅や列車内で販売中
販売期間:通年 (※観光列車「おれんじ食堂」は含みません)

●おれんじ18フリーきっぷ(一律料金:2,100円)

当日有効の「JR青春18きっぷ」をご提示いただいた場合のみ、肥薩おれんじ鉄道全線(※)乗り降り自由となるお得な切符です。これからの夏休みや冬休みシーズンにご活用いただけます。(※観光列車「おれんじ食堂」は含みません)
販売期間(夏):2023年7月20日~2023年9月10日
販売期間(冬):2023年12月10日~2024年1月10日
(詳細はHPを参照 https://www.hs-orange.com/page401.html

【「肥薩おれんじ鉄道」を運営する思い】

「おれんじ鉄道の線路沿いには、お子さんを中心にした近隣住民の方々が“ポンポン”を持って観光列車に手を振ってくれる、通称“振り鉄”がいらっしゃいます。これはおれんじ鉄道が推奨したものではなく、あくまでも住民の方々が発端となり定着した活動でした。このように県外から来られる方にも、地域に根付いた鉄道として沿線全体でおもてなしができたらと思っています。」「私は、鉄道は心のふるさとになると考えています。その原風景を長く守っていきたいです。」(古森社長)

肥薩おれんじ鉄道株式会社
代表取締役社長 古森美津代さん

通称「振り鉄」さん達の様子

※肥後おれんじ鉄道、おれんじ食堂の詳細、ご予約につきましては公式HPをご確認ください。
https://www.hs-orange.com/

続いて、長らく肥薩おれんじ鉄道の経営面、利用促進のサポートを行っている熊本県交通政策課の沖﨑 佑吉さんに、沿線の魅力について伺いました。

【肥薩おれんじ鉄道の価値について】

沖﨑さんによると、沿線に面している八代海は内海であることから、穏やかな波で海が揺れる車窓の風景に心が落ち着くとのこと。
「自動車での旅は景色をゆっくり見ることができない。車窓からゆっくりと八代海を眺めながら旅を楽しめるのが肥薩おれんじ鉄道の魅力の一つ。また、沿線には日奈久温泉をはじめとした温泉街や県内最大規模のやつしろ全国花火競技大会、八代海沿いを走る芦北うたせマラソン、つなぎスローフード、水俣のバラ園など、たくさんの魅力的なコンテンツがあります。」(沖﨑さん)

【観光列車「おれんじ食堂」ができたことによる変化】

熊本県としては肥薩おれんじ鉄道に旅行の誘致ができないか、という課題がありました。
平成25年3月に運行開始したおれんじ食堂は、全国のレストラン列車の先がけ。現在では国内でさまざまな観光列車が走っていますが、当時は予約が殺到していました。
「観光の面では一度地のものを食べてもらう、触れてもらうことが大事。誘致の施策を考えるうえで、おれんじ食堂があるかないかで誘致のしやすさが大きく異なります。おれんじ食堂ができたことで、移動しながら景色を楽しみ、地元の食事も楽しめる。そんな旅行の価値を元に旅行代理店やJRさんとのタイアップができるようになったことが強みです。このような機会を多く作ってまずは体験してもらいたいと思います。」(沖﨑さん)

●参考: おれんじ食堂と新幹線乗車券がセットになった便利でお得なプラン

お得に日帰り!「おれんじ食堂新幹線プラン」 https://www.hs-orange.com/page224.html

【来る夏休みシーズンのおすすめ沿線スポット】

県内最大級、500m以上続く白い砂浜と綺麗な海水が魅力の海水浴場「御立岬公園海水浴場」。そして隣接する「御立岬公園」は自然の中で一日過ごせるレジャーランドです。テニスコート、海水浴場、釣り場、パターゴルフ、キャンプ場のほか、少量の塩分を含んだお湯が自慢の温泉センターも併設。たのうら御立岬公園駅から車で約5分ほどです。
「海水浴場だけでなく、隣接する御立岬公園にはアクティビティもあるので、ファミリーなどでもぴったり。夏休みシーズンには、たのうら御立岬公園駅から海水浴場まで無料のシャトルバスをご用意していますので、ぜひ鉄道でお越しください」(沖﨑さん)

左から:御立岬公園海水浴場 / 御立岬公園
(写真提供:熊本県観光連盟)

「肥薩おれんじ鉄道ではゆっくりとした時間の流れとゆとりある空間があり、心が癒やされる新しい出合いがたくさんあります。一度乗ってしまえば後は窓を眺めながら、時間に縛られない旅ができるため、仕事や人間関係などで悩むことが多い現代人にとってピッタリの旅行スタイルといえます。みなさまのご利用をお待ちしています。」(沖﨑さん)

熊本県交通政策課 沖﨑 佑吉さん

夏休みにおすすめ!特産品の収穫・加工体験「くまモンファーム」で和紅茶作りを体験

くまモンファームとは、地域全体を観光農園と見立て、農産物の収穫体験や食の体験をくまモンと掛け合わせた体験型コンテンツとして提供する新たな取り組みです。
肥薩おれんじ鉄道沿線である水俣・芦北地域の農林水産業者等が様々な体験型観光コンテンツをご用意。農産物とくまモンのコラボレーションによって楽しく体験いただけます。

今回は熊本県水俣・芦北地域の特産品である「みなまた和紅茶」を使った和紅茶作り体験を提供する「和の香」ティーソムリエの大塚さん、くまモンファームを推進する水俣・芦北地域雇用創造協議会の宮本さんへお話をお伺いいたしました。

【漬物やおにぎりにも合う紅茶?「和紅茶」とは】
和紅茶の定義は日本で育てている素材かつ、日本で加工をしている紅茶のこと。
「日本の紅茶の生産地として熊本県は上位に位置しており、そのうちの7割が水俣産だといわれています。和紅茶の生産者が集うイベントとしては国内最大の祭典である全国地紅茶サミットも水俣の地で開催されました。」(大塚さん)

和紅茶と海外の紅茶との違いについては、味や風味に明確な違いがあります。
「海外で生産された紅茶は渋みや香りが強い銘柄が多く、苦手な方はミルクや砂糖などを入れる必要があります。一方で和紅茶は渋みも少なく、やわらかい味わいが多い。品種によってもさまざまですが、苦手な方も飲みやすく食事にも合います。意外かもしれませんが、(特に甘みのある)お漬物やおにぎりにも合うんです。」(大塚さん)

【「くまモンファーム」として和紅茶作り体験を実施する理由】

「くまモンファームとしては、食の体験コンテンツとして農産物の収穫体験も多く行っていますが、和紅茶の手もみについては素材の保存が可能で通年体験ができるため、収穫体験のように時期が限定されないことから体験メニューとしては相性が良いです。夏休みに家族で楽しんでもらえたらと思っています。」(宮本さん)

●くまモンファーム 和紅茶作り体験 HP

https://www.kumamotto.net/detail/a2kf01000003/

【和紅茶作り体験の様子をレポート】

①揉捻(じゅうねん)

茶葉の手もみを行うと香りが出てくると共に色が変化していく。
傷ついたところから発酵するため、傷を付けて酸化発酵を促す。
力加減で渋みが変わってくる。

②発酵

乾燥防止のキッチンペーパーをかけて酸化発酵させる。
発酵具合によって味が異なる。
※この時間を使って和紅茶の歴史やお茶のイロハをレクチャー

③乾燥

電子レンジで過熱して粗熱を取ることで簡易的に乾燥。

④選別

茎や余分なものを取り除く。

⑤くまモンオリジナル紅茶パックに茶葉を入れる。

世界で一つだけのオリジナル和紅茶が完成。

⑥その場で淹れたての和紅茶を試飲。
和の香 大塚 佳寿子さん 水俣・芦北地域雇用創造協議会 宮本 裕美さん