キャッシュレス社会に向けて何をすべきか

―消費者の決済実態分析を踏まえて―

日本政府はキャッシュレス推進に乗り出した。現在約2割のキャッシュレス決済比率を2倍に引き上げることを目標としている。NIRAが実施したアンケート調査では、同比率を約5割と算出した。政府の数値では除かれる銀行口座間送金等を含むため、政府推計より高い。

日本のキャッシュレス化は想定以上に進んでいるともいえるが、アンケート調査結果を詳しく分析すると、いくつか課題もある。所得や学歴が高く、年齢が30代以上の人に、キャッシュレスがより浸透している。また、国民全般に根強い現金嗜好が確認され、特に、所得の低い人ほど、現金での支払いを希望する比率が高い。地域によってキャッシュレス化の進展にもかなりの違いがある。さらに、ポイントサービスは、所得の高い層がその恩恵を受けている傾向がみられる。

これらの点を踏まえると、国民全体にキャッシュレスを浸透させるには、低所得者にとっても利便性の高いサービスの普及など、利用者の視点に立った多面的できめ細かい政策を推進する必要があることがわかる。すなわち、キャッシュレス決済の実態把握と定点観測、郵便・医療介護など公的サービスのキャッシュレス化実現、民間企業による付加価値の高いサービス提供に向けた「競争」と、個人間小口送金など社会インフラとしてインターオペラビリティの高いサービス構築に向けた「協調」の促進、金融・ITリテラシー教育の充実などが求められている。これらの施策の実施により、利便性の高いデータ利活用社会の構築を目指すべきだ。

翁 百合
Yuri Okina
NIRA総合研究開発機構理事/
日本総合研究所理事長

翁 百合 NIRA総合研究開発機構理事  日本総合研究所理事長

 

本記事で使用されている図表一覧 (NIRA出典)

表1 決済手段別 キャッシュレス決済 比率 キャッシュレス決済 51.8% クレジットカード 31.4% 口座引き落とし 10.5% プリペイド式電子マネー 5.0% インターネットバンキング 1.4% キャッシュカード振り込み 0.9% デビットカード 0.8% フィンテック決済サービス 0.7% キャッシュレス決済比率は金額ベースで算出

図1  世帯年収階層別 キャッシュレス決済比率 200万未満 43.2% 200~300万円 45.6% 300~400万円 47.5% 400~500万円 52.9% 500~600万円 53.8% 600~800万円 58.1% 800~1000万円 55.9% 1000~1250万円 59.6% 1250~1500万円 59.5%  1500万円以上 64.0% キャッシュレス決済比率は金額ベースで算出

年齢別 決済手段別 キャッシュレス決済利用率 3 年前からの増減幅 キャッスレス全体 クレジットカード プリペイド式電子マネー フィンテック決済

表3 現金決済比比率 高い 消費項目 お布施 冠婚葬祭関連費用 93.1% 仕送り 小遣い 家族 贈与 91.7 % 仕送り・小遣い・家族への贈与85.9% 理髪料、パーマ・カット78.8% タクシー代73.4% 6 医療、介護71.5% その他サービス料 66.1% 消費項目別に現金決済された金額を、当該項目の消費金額全体で除して算出したものである。

地域 地方別 キャッシュレス 決済利用率 北海道 東北 北関東 首都圏 甲信越 北陸 東海 近畿 京阪神 中国 四国 九州 沖縄

現金利用 希望 現金利用希望 36% キャッスレス決済 希望 64%

 

図4 世帯年収別 現金 クレジットカード 支払い希望 率  支払い希望率は、商品やサービスの購入時の支払い手段について、あなたの考えにあて はまるものを一つ選んでくださいという設問に、現金で支払いたい、クレジットカードで 支払いたい、デビットカードで支払いたい、電子マネーで支払いたい、上記以外の方法 で支払いたい、わからないの中から回答を得て、各手段の割合を算出したものであり、本図 は希望率の高かった現金、クレジットカードのみグラフ化したもの。

表4 現金支払 希望理由 現金以外の方法は、お金を使っている感覚がせず、使いすぎてしまうから 57.2% 現金以外の方法は、セキュリティが不安だから 34.7% 現金以外で支払う必要がないから 27.8% 現金以外の方法は、紛失・盗難が不安だから 13.9% 現金以外の方法は、残高やパスワードが管理しにくいから 13.2% 現金以外の方法は、支払いの手続きが面倒だから 8.7% 現金以外の支払方法は、使える場面が少ないから 5.8% 現金以外の方法で支払いたいが、やり方がわからないから 2.2% スマートフォン、パソコンなどをもっていないから 0.8% 現金支払い希望理由は、商品やサービスの購入時の支払い手段について、あなたの考え にあてはまるものを一つ選んでくださいという設問に、できるだけ現金で支払いたいと回答 した人を対象とし、その回答理由をたずねたもの。アンケート回答者の36 % である、1080人を対象。同設問は複数選択可能。

参考図表1 ロジスティック回帰分析結果 キャッシュレス クレジットカード プリペイド式 フィンテック決済 デビットカード 説明変数 性別 年齢 大都市圏ダミー 既婚(同居)子どもの有無ダミー 所得  正規雇用 非正規雇用 自営業 学生 最終学歴 銀行・ATMまでの距離  毎日の情報取得源数 活動性スコア 共感性スコア 進取性スコア 絶対的リスク回避度(利得局面) 絶対的リスク回避度(損失局面)

参考図表2 ポイント利用の最小二乗 OLS 推定結果 クレジットカード デビットカード プリペイド式 フィンテック決済 仮想通貨 オートチャージ

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