メタバースが開く“新„たな現実
2022.4.8 14:00
「メタバース」と呼ばれるインターネット上の3D 仮想空間が、いま、脚光を浴びている。メタバースは私たちの生活をどのように変えるのか。
公益財団法人NIRA総合研究開発機構(理事長 谷口将紀)は、学者や研究者、専門家のネットワークを活かして、公正・中立な立場から政策提言を行うシンクタンク。メタバースは私たちの生活をどのように変革する可能性があるのか、考える。
企画に当たって
注目のメタバース、その可能性とは
― 私たちの生活をどのように変革するのか
谷口将紀 NIRA総合研究開発機構 理事長/東京大学 教授
昨秋フェイスブックがメタバースを今後の中核事業にすることを発表し、社名もメタ(Meta Platforms)に替えたことを契機に、「メタバース」は、一躍、世界の流行語になった。メタバースの定義は十人十色だが、これまでVR、AR、セカンドライフなどと呼ばれてきた諸技術の汎用性を一層向上させたものというイメージで、当たらずとも遠からずのようだ。
メタバースでは何ができるのか。そしてメタバースは本当に普及するのか、あるいは普及させるためには何が必要なのか。五人の識者に話を伺った。
個人的に関心があるのは、大学のメタバースキャンパス化である。二月に行われたメタのイベント(Meta AI:Inside the Lab)では、人工知能を用いた多言語間の同時通訳システムの開発計画が発表された。日本人を悩ませてきた言語の壁は早晩なくなる。欧米まで約一万キロメートルの距離は埋めようもないが、メタバースキャンパスならば道路の反対側にある校舎に行くよりも近く、世界各国の学生や研究者との交流が可能になる。ミネルバ大学の例を引くまでもなく、世界では大学のオンライン化競争が激化している。国際性における評価の低さがアキレス腱とされる日本の大学にとって、メタバースは起死回生の、そして最後のチャンスと筆者には思えるのだがいかがだろうか。
(一部抜粋)
識者に問う
メタバースは、私たちの生活をどのように変革するのか。
普及のための課題は何か。
「ルール形成の議論に積極的に参加したい」
味澤将宏 Facebook Japan株式会社 代表取締役
メタバースの特徴は「空間内で没入感ある交流が可能な次世代のソーシャル体験」だ。自分のアバターのまま、複数のプラットフォーム間を行き来できるようになる。多様なクリエーターが参入することで、可能性が広がる。広く公正に技術を利用できるオープンな競争環境が重要だと考えている。
「高度な表現力を持ったメタバースで、医療格差を解消する」
谷口直嗣 Holoeyes株式会社 取締役兼CTO(最高技術責任者)
臨床医療や医療教育での利用が急速に進んでいる。手術の三次元モデルは、術前トレーニングや治療方針の検討に活用される。患部を拡大したり、身体内部に入り込むなど、VR空間では自由な見方が可能だ。個人情報のセキュリティ確保のため、今後はブロックチェーン技術の活用などが考えられる。
「協調的な学びの場として、大きな可能性を秘めたメタバース」
稲葉光行 立命館大学政策科学部 教授
メタバース空間は、国や文化を越えた交流や学びを容易に実現できる。アバターを使うと、仮想空間の文脈に没入して、プロジェクトの目的や自分の役割に意識が向かいやすくなる。ただし、仮想空間は「無法地帯」と化しやすい。効果的な協調学習のためには、「目的意識」を設定することがカギとなる。
「自分の「生きたい現実」を生きていけるようになる」
藤井直敬 株式会社ハコスコ 代表取締役
メタバースは、実生活ではあり得ない体験を可能にする。今はまだ、技術のための技術で、価値設計はこれからだ。現実の身体や実生活の延長線上に、「楽しさ」や「うれしさ」を感じる空間を作れるかどうかにかかる。メタバースは、現実と地続きでつながる新しい空間だ。「現実」とは何か、再定義が必要だ。
「メタバースの可能性と今後のルール形成」
高木美香 経済産業省 商務情報政策局コンテンツ産業課長
急速に発展しており、今後は企業の垣根を越えた相互運用によるサービス展開が期待されるほか、NFT(非代替性トークン)などによる「価値」の交換も可能となるだろう。規制については、当面、市場とアーキテクチャ、社会規範の相互作用によるルール形成を見守りながら、検討していく。
データで見る 「長期思考」は未来を変える
新聞全国紙における「メタバース」(単語)登場回数の推移
「昨秋フェイスブックがメタバースを今後の中核事業にすることを発表し、社名もメタ(Meta Platforms)に替えたことを契機に、一躍、世界の流行語になった。(谷口(将))」
注) 数字は、朝日・読売・毎日・産経・日経の5 紙の記事タイトル・本文中に登場した合計回数を示す。
出所) ニフティ「新聞雑誌横断検索」で、朝日・読売・毎日・産経4 紙の月次データを算出。日経のみ、日経テレコンから月次データを算出。
世界のAR/VR:市場規模・出荷台数の推移と予測
「現在は、モバイルからメタバースに移行する過渡期だと考えている。(味澤氏)」
「臨床医療や医療教育を行う際に、メタバースが急速に使われ始めている。(谷口(直)氏)」
「メタバースの空間は、多様な方面で広がっている。(高木氏)」
注) 2021 年以降は予測値。
出所) 令和3 年度版「情報通信白書」。同白書では、Omdia による集計・予測値を引用。
日本のe- スポーツ:市場規模・ファン数の推移と予測
「日本は、メタバース上でのビジネスと適合性が高く、新たな市場を拓く可能性を秘めている。(味澤氏)」
注) いずれも2021 年以降の数値は、2021 年4 月時点での予測値。
出所) ファミ通プレスリリース(2021 年4 月16 日)より作成。調査は角川アスキー総合研究所が担当。
仮想空間における協調学習の例
「国籍を越えた交流と学び、参加者の自発的な学習の促進は、メタバース空間だからこそ実現可能となった現象である。(稲葉氏)」
「アバターを使うと、現実世界の制約に縛られず、仮想空間の文脈に没入しやすくなり、プロジェクトの目的や自分の役割に、より意識が向かいやすくなるという利点がある。(稲葉氏)」
出所) 科学研究費助成事業「メタバースを用いた日本文化に関する『状況学習』支援環境に関する総合的研究」、「メタバースを用いた日本文化および生活文化の状況学習支援環境に関する総合的研究」(いずれも代表:立命館大学教授・稲葉光行)。
識者紹介
味澤将宏 Facebook Japan株式会社 代表取締役
Meta(旧Facebook 社)の日本法人を統括。同社は昨年、社名をMeta に変更、メタバース構築の実現に注力するとして、創業以来の大転換を図った。味澤氏は、日本マイクロソフト等を経て、二〇一二年、ツイッタージャパン広告事業担当本部長および日本・東アジア地域事業開発担当本部長。二〇一六年、同社上級執行役員。長らくオンラインメディアでの広告事業に携わってきた。「ネット広告」の進化の可能性を加速させる取り組みを目指し、二〇二〇年一月、Facebook Japan 株式会社代表取締役に就任。
谷口直嗣 Holoeyes株式会社 取締役兼CTO(最高技術責任者)
株式会社日本総合研究所を経て、株式会社ナブラにてCGの研究開発に従事したのち、独立しフリーランスとなる。3Dプログラミングを中心に、スマートフォンアプリ、ロボットアプリケーション、VRアプリの企画開発に携わる。二〇一六年一〇月にHoloEyes 株式会社を設立。同社代表取締役兼CEO兼CTO就任。医療領域における、臨床・トレーニング・教育向けVRアプリを開発・提供している。女子美術大学非常勤講師。横浜国立大学建設工学科船舶海洋工学コース卒業。
稲葉光行 立命館大学政策科学部 教授
専門は学習科学・認知科学。「文理融合型」のアプローチでインターネット上での「協調学習」を研究。富士通株式会社、ハワイ大学ソフトウェア工学研究所等を経て、一九九八年、立命館大学政策科学部助教授に着任。二〇〇五年から一年間、カリフォルニア大学サンディエゴ校比較人間認知研究所で、コンピュータゲームを使った学習支援の研究に従事。二〇〇八年、同学部教授。ハワイ大学大学院インフォメーション&コンピュータサイエンス研究科修了。
藤井直敬 株式会社ハコスコ 代表取締役
現実科学を中心に研究。マサチューセッツ工科大学研究員を経て、二〇〇四年、理化学研究所・象徴概念発達研究副チームリーダー、二〇〇八年に同研究所・適応知性研究チームチームリーダー。二〇一四年に株式会社ハコスコを立ち上げ、VRサービスの開発・提供を行う。同社代表取締役。二〇一八年よりデジタルハリウッド大学大学院専任教授。著書に『つながる脳』『ソーシャルブレインズ入門』『予想脳』などがある。東北大学医学部卒業、同大学大学院にて医学博士号取得。
高木美香 経済産業省 商務情報政策局コンテンツ産業課長
二〇〇二年、経済産業省に入省。「クールジャパン」の海外発信や、「クリエイティブ産業」育成施策の推進を担当してきた。その後、新興国向けの通商政策や国際標準化政策等の「国際ルール形成」施策を担当し、二〇一八年より現職。コンテンツ産業の振興施策に携わる。ゲームをはじめとするコンテンツ産業における仮想空間の利用が広がったことから、二〇二〇年から二〇二一年に「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業」を実施・担当。東京大学経済学部卒業。スタンフォード大学MBA/MA in Education。
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■NIRA総合研究開発機構(Nippon Institute for Research Advancement)
NIRA 総合研究開発機構(略称:NIRA 総研)は、わが国の経済社会の活性化・発展のために大胆かつタイムリーに政策課題の論点などを提供する民間の独立した研究機関です。学者や研究者、専門家のネットワークを活かして、公正・中立な立場から公益性の高い活動を行い、わが国の政策論議をいっそう活性化し、政策形成過程に貢献していくことを目指しています。研究分野としては、国内の経済社会政策、国際関係、地域に関する課題をとりあげます。
ホームページ:http://www.nira.or.jp/