教育現場から海外アーティストまで“文化が香る”松戸市 芸術の秋に、松戸市の文化活動をレポート
2023.11.20 09:00
松戸市では“文化の香りのする街”を目指して、さまざまな文化活動を展開しています。10月には2018年から続く「科学、芸術、自然をつなぐ国際フェスティバル 科学と芸術の丘2023」が開催されたほか、海外の921組1000人以上の応募の中から選ばれた2組のアーティストが3カ月の滞在期間で作品をつくりあげる「PARADISE AIR」のロングステイ・プログラムがスタートしました。 また、学校部活動では、松戸市立第一中学校美術部の生徒が街の商店とコラボした作品を制作中、松戸六実中学校では美術部の生徒が、今年9年目で今回が最後となる、街の材木店とコラボした巨大年賀看板を制作予定で、それぞれ12月に披露が予定されています。
今回は、そんな芸術の秋にふさわしいさまざまな松戸市の取り組みをピックアップして紹介していきます。
※本資料内の情報は、2023年11月20日現在のものです。
6回目を迎えた国際芸術祭「科学と芸術の丘」
メイン会場の戸定邸では創造性を刺激する作品を多数展示
市制80周年と重なりイベント規模も拡大
今では松戸市の恒例イベントに定着した「科学、芸術、自然をつなぐ国際フェスティバル 科学と芸術の丘」。創造性豊かな“クリエイティブシティ・まつど”を目指す松戸市が、さまざまなアーティスト、市民、有志の皆さんとともに創り上げてきました。
6回目を迎えた今年は、「Seeds of Hope~ここで、あそぶ時間~」をテーマに開催されました。メイン会場となった戸定邸では、世界的なメディアアートの文化機関であるアルスエレクトロニカと共同でキュレーションし、国内外のアーティストが手掛けた作品が展示されました。また今年は松戸市制施行80周年という節目の年でもあり、イベント規模を拡大。「マツカシ」と題したフリーマーケットの開催や、松戸市にゆかりのあるアーティストが市内の4つの店舗で作品を展示したり、10月21日の夜には江戸川河川敷で初の野外音楽フェスを行ったりと、例年以上の工夫を凝らした充実の内容となりました。
戸定邸内での作品展示 |
左から海野林太郎さん、齋藤帆奈さん、ウィニー・スーンさん、ヴェレーナ・フリードリッヒさん、清水陽子さん、関口智子さん |
アーティストの個性が光る作品の数々
イベント開催前日には、メディア限定で「特別先行内覧ツアー」を実施。ツアー当日には、全体監修を務めたアルスエレクトロニカの清水陽子さん総合ディレクターの関口智子さん、展示コーディネーターの海の林太郎さんの3名と、今回作品を展示するヴェレーナ・フリードリッヒさん、ウィニー・スーンさん、齋藤帆奈(はんな)さん、津野青嵐(せいらん)さんが参加し、展示する作品の魅力を話してくれました。
フリードリッヒさんは、「ERRBSENZÄHLER(エンドウ豆のカウンター)Quality Sorter V1」という作品を展示。参加者に顕微鏡を使いエンドウ豆の品質判定を体験してもらうことで、そこには、現代社会で起きている生命や人生をシステムによって容易に振り分けられることについて考えてもらいたいという思いが込められていました。フリードリッヒさんは「AIのアルゴリズムもそうですが、最初の開発者が知識を与えて人や商品などの物の合格や不合格を決めます。自分がそういう立場になったとき、どう判断するか。もしかしたら、些細なことで判断をくだされるかもしれない。そのとき、私たちはどう考えるべきかということを考えていただければと思います」とコメントしてくれました。
中国で起きている検閲の実態をアート作品で
香港生まれのスーンさんは、「Unerasable Characters Series (2020-2023)」と題して、国家による検閲で消されてしまった市民の文字にスポットを当てた展示を行いました。「weibo」にアップされた後に消されてしまった文字を収集し、それを総数9,216ページにも及ぶ資料としてプリントアウト。また、展示室の障子やモニターでもどのように文字が消されているかがわかる映像も映し出されていました。スーンさんは「今残っている文字でも明日には消されてしまうかもしれないので、日々違う形で表示されます」と話してくれました。 | 「Unerasable Characters Series (2020-2023)」 |
どの作品も興味深く見応え十分
齋藤さんは、人間には静止画に見える超スローモーション動画を粘菌に見せ、その軌跡や好みが反映、編集された映像「Non-Retina Kinematograph」を展示。一方、ファッション制作を通じて「ファット」な身体との付き合い方の研究活動を行う津野さんは、幽体離脱しているようなフォルムの3Dペンドレスシリーズを関東で初展示してくれました。展示作品の多くは、現代社会が抱えるさまざまな問題へ問いかけなど、メッセージ性が強いものばかりでした。 来年も「科学と芸術の丘」は開催予定ですので、想像力に溢れたアート作品を間近でご覧になりたい方はぜひ会場へ足を運んでみてください。 |
津野さんの3Dペンドレスシリーズの1つ |
「PARADISE AIR」ロングステイ・プログラムの招へい者が来日
松戸市長へ表敬訪問も。
左から森純平さん(一般社団法人PAIR代表理事)、ユキ・ユンゲスブルトさん、本郷谷健次市長、
手と顔(チョン・ヘジンさん、カン・ジョンアさん)、通訳の田村かのこさん
記念すべき活動10周年に選ばれた2組
松戸市では、松戸駅前の旧ホテル上層階に国際的な文化芸術の発信拠点「PARADISE AIR」を設置し国内外のアーティストの滞在制作支援を行っています。その中には3ヵ月間松戸市に滞在してもらいながら創作活動や市民との交流を深めてもらうロングステイ・プログラムがあり、今年も921組以上の応募者の中から選ばれた海外のアーティストが来日し、12月末まで活動しています。「PARADISE AIR」の活動開始から10年目の節目に選ばれたのは、写真やテキスト、インスタレーション、映像を駆使してフィクション、想像、現実の境界を探求しているユキ・ユンゲスブルトさん(ドイツ)、マルチメディアを用いた社会参加型のパフォーマンスを創作するユニット「手と顔」(韓国)の2組3名です。
PARADISE AIRの魅力とは
それぞれが創作へ向けてリサーチ活動や市民との交流を図っていく中で、10月26日には松戸市役所を訪れ、本郷谷健次市長と面会。本郷谷市長から「PARADISE AIR」の活動について聞かれると、ユンゲスブルトさんは「ホテルだった場所をアーティストが利用できるようにしているのは、他にはない珍しいところ。その点はアーティストにとってすごく惹きつけられるもの。また、運営スタッフがとても協力的で一緒にいろんなことをしてくれるのも珍しい」と答えていました。森純平代表理事は、「アーティストへの渡航費などの援助は限られていますが、街で受け入れる態勢を整えているので、そこを有効に活用させていただければと思っています」と話してくれました。また、海外での評判を聞かれると、「手と顔」のカンさんが、「過去のテーマや参加アーティストのことがホームページなどでもわかりやすくまとめられている点がとてもよかった。また、アートの専門性を持ったスタッフが揃い、それぞれが活動しながら運営をしているので、そういう人たちと一緒に創作ができるという点も、いい評価につながっていると思います」と話してくれました。 | 市長訪問時も素敵な笑顔を見せてくれたユンゲスブルトさん |
今回の来日で取り組む作品
どのような作品をつくりあげるかという問いには、「今はリサーチ段階なので、これから決めていきたい」と声を揃え、ユンゲスブルトさんは「このようなプロジェクトに参加する際は、最終的にはひとつの冊子を作っているので、それがひとつの案です。その過程で写真をたくさん撮ってリサーチをしているのですが、あまり人が注目しないところを撮影しています。そういうところにも感動は詰まっているので。今後は私だけでなく、他のカメラマンが撮影した写真を見比べたりして、今後の展開をつくり上げていければと思っています」と話しました。また、「手と顔」のカンさんは、「私たちの活動はテキストを書くこと、映像作品をつくることが中心で、いろんな人に入ってもらう参加型。そこで今興味があるのは、いろんな人の“心のふるさと”をテーマにできればと考えています。個人のアイデンティティーを探り、どんな背景で松戸に住んでいるかなどを調べていきたい。今は、海外から松戸に来てお店をやっている人のところで夕食を食べてアンケートなどを書いてもらっているところです」と答えてくれました。 本郷谷市長は、「このプロジェクトを応援してくれる若い人たち、この活動をまだ知らいないという人も含めて、みんなで盛り立てていければと思っています。創作活動の中でたくさんの市民と交流をしていただき、たくさんの感動を与えてほしい」とエールを送ってくれました。 |
質問に答える手と足のチョンさん |
松戸の魅力は川沿いの景色が美しいところ
表敬訪問後に取材に応えた2組。初めて訪れ、約1カ月の生活を送っている松戸市の魅力を聞いてみると次のような答えが返ってきました。 「親しみやすい雰囲気が流れており、住みやすさを感じました。松戸に来て気に入っていることは川沿いを歩くこと。川がひとつの境界線になっていることもいいなと思います。もともと境界というものに興味を持っているので、川の向こう側を見つめられることも面白いです(ユンゲスブルトさん)」 「にぎやかな駅前からちょっと歩くと川があったり、木々が生い茂る場所があったりと、その変化がとてもおもしろいなと思いました(チョンさん)」 「落ち着いた町並みで人々がとてもやさしい。そしてお寺がたくさんあり、日常的に市民が散歩などで訪れている光景がとても素敵です(カンさん)」 今回のロングステイ・プログラムを今後のアーティスト活動にどう活かしたいかという質問には、「韓国もアーティストのサポートシステムがあるので、パラダイスのスタッフとプロジェクト継続のため一緒にやっていきたいと思っています。韓国、日本だけでなく中国や他のアジアの国の人々ともたくさんかかわっていきたい」とカンさん。ユンゲスブルトさんは「ここでのプロジェクトもここだけで終わらせず、ドイツはもちろん、他の国でも続けられるものにできればと思います」と話してくれました。 |
松戸のお寺の雰囲気を絶賛したカンさん |
なお12月2日(土)には、松戸市民会館で、「滞在報告会トークイベント(参加無料/15時~17時)」を開催。詳細は「PARADISE AIR」のHP(https://www.paradiseair.info/)をご覧ください。
松戸市立第一中学校美術部×商店。不要な湯呑をアートに再生・展示
美術部×商店のアート展に初挑戦
「文化系の部活は、スポーツ系の部活とは違って、コンクール以外に日頃の成果を対外的に発表する場がありません。そのため部活動をより充実させるためにも、作品を発表する機会を設けたいと思ったのがきっかけです」。こう話すのは松戸市立第一中学校美術部顧問の土田伸哉先生。松戸市内の商店街「Mism(エムイズム)」との縁で、今回の企画が生まれ、生活雑貨店の山田屋とのコラボレーションが実現しました。 山田屋で取り扱う陶器の中には、売れずに物置きで眠っていた湯呑みや皿などがあり、それらを格安で譲ってもらい、陶磁器用ペイント塗料を活用し、アートとして美術部の生徒がリデザインします。また、粘土で制作した和菓子のフェイクスイーツ作品も展示します。土田先生は「生徒の家族はもちろん、商店街を訪れた人たちにも作品を見てもらいたいです。自分の作品がたくさんの人に見られることが生徒の成長にも繋がります」と話してくれました。 作品は、12月2日(土)・3日(日)に山田屋の裏に位置する蔵に展示する予定です。 展示場所: 山田屋の家庭用品(千葉県松戸市本町12-8) |
湯呑みの制作風景 |
松戸市立六実中学校美術部は恒例の巨大年賀看板。今年が最後に。
今回は辰の巨大看板を創作!
松戸市立六実中学校の美術部は、2016年(申年、今回で9回目)から毎年、学区内にある材木店「有限会社マツムラ」とコラボレーションした作品制作をしています。今年は「辰」の巨大看板を制作。有限会社マツムラ様の移転に伴い、今回が最後となります。 昨年は幅約4m、高さ約5mの巨大な木板に新年の干支を描きました。12月初旬から制作を始め、12月下旬にお披露目しています。部内でデザインコンペを行うのはもちろん、木材の搬入なども生徒たちが行い、下書き、着彩などを行います。お披露目の際には、制作に携わった部員全員がサインを入れるため、とても感慨深い作品に仕上がります。 美術部顧問の安岡先生は「普段の活動では、画力・表現力の向上はもちろん、部員同士のつながりを大切にしています。今年で年賀看板は最後となります。集大成にふさわしい作品づくりをしていきたいと思います。9年間、これまで取り組みを支えていただいた地域の方、保護者、先生や生徒たち、そして何より有限会社マツムラ様には感謝の気持ちでいっぱいです。」と制作に向けた思いを話してくれました。 <年賀看板設置・お披露目について> |
2023年に披露された年賀看板 |