危機管理を考える(1)【企業不祥事における謝罪会見】

~「謝罪相手は誰なのか」を念頭に、具体的に伝える~

令和期における、経営者(および広報にとっての不祥事案への対応と、それに紐づく何らかの「謝罪」は、一定割合で必ず起こる不可避な「日常業務」と考えておくべきであろう。とはいえ実際のところ、失敗や不適切な事案の発生に際し、当事者の本音とすれば・・・

 

 

 

 

PR総研主任研究員
共同ピーアール株式会社セミナーコンサルティング グループ長
磯貝 聡

PR総研概要はこちら

はじめに

企業・団体の危機管理を考えるにあたり、不祥事発生に際しての「謝罪」は、最重要テーマの一つである。

全国に数多ある企業・団体ではどんなに対策を講じても不祥事がゼロになることはなく、上場企業に限れば、コーポレートガバナンス・コード導入以降に表沙汰になった事案だけをカウントしても、不祥事の発生件数は年々、増加傾向を辿っているのが現実である。

平成期以前であれば、例えば「ひとりのアルバイト従業員がSNSを通じて不祥事情報を世界に向けて発信する」などということはほぼ不可能であったため、企業側も不祥事への対処方法として、「あくまで知らぬ存ぜぬで押し通す」、「何が何でも隠し通す」、「メディアからの取材には一切応じないし、説明もしない」といった選択肢もないわけではなかった。

しかし、「どこからでも火の手が上がりうる」令和の時代においては、もはやそれは通用しない。

そればかりか、そのような「時計が止まった状態」の危機管理は、企業の持続可能性を損なうほどの、強烈なマイナスインパクトを持つことは強調しても、し過ぎることはないだろう。

 

「不祥事は、いつかは起きる」と考える

こうしたことから、令和期における、経営者(および広報にとっての不祥事案への対応と、それに紐づく何らかの「謝罪」は、一定割合で必ず起こる不可避な「日常業務」と考えておくべきであろう。

とはいえ実際のところ、失敗や不適切な事案の発生に際し、当事者の本音とすれば、「できるだけ詫びたくない」、「怒っている相手(会見であればメディア)を前にしての謝罪は怖い」、「恥さらしは嫌だ」といったネガティブな感情を抱きがちなのは致し方あるまい(しかし、企業・団体のトップとしては、部下や同僚を前にそんな本音を漏らすわけにはいくまい)。

それゆえ、企業・団体のトップは、まずもって、自社の不祥事は企業活動をしていく中では「いつかは必ず起こる」と考えて、普段から想定して準備をしておくことである。

重大な法令違反や、社会からバッシングを受ける不適切な行為によって、大勢の集まったメディアの前で謝罪や説明を求められることは、経営者にとって「日常の行動」の一環であり、逃げられるはずもない。まさに、「犬とメディアは、逃げれば追いかけて噛みついてくる」(元社会部記者の弁)ことを肝に銘じておかねばならないのである。

 

「その時」どうする

ではその時、読者ならばどのような行動をとるだろうか。

重要なのはその「手順」である。

メディア(及びその向こう側にいる視聴者・読者、そして世間)に対し、責任者であるあなたは、発生した不祥事案の事態・経緯、原因、法的な見解、被害者への補償をどうするかを細かく説明しようとするかも知れない。

無論、それらは必ずやらねばならない。

しかしながら、その前に、まず行うべきことがある。

 

まずは「お詫び」

自社に何らかの責任があり、顧客、取引先や一般消費者等に迷惑をかけている状況ならば、通常は先ず、何をおいても「お詫び」(謝罪)すべきである。

その際、「お詫び」の要素として必須なのは

A.誰に対する謝罪か(被害者、迷惑をかけている相手など)

B.謝罪の根拠が何で、どのような言葉で詫びるか

の2点を明確にしておくことである。

 

事例にみる「お詫び」

読者は、「謝罪の相手方と言葉選びを事前によく確認しておくなど当たり前」と思われるかも知れない。

しかし、不祥事案発生時には当事者が冷静沈着な対応を必ずしも取れないケースが少なくないのが実情で、業界を代表するようなリーディング・カンパニーであっても、この点が曖昧な対応をとった結果、リスクを拡大してしまった事例は少なくない。

実際に、直近の謝罪会見に関するニュースの中で、会見者の「お詫び」部分がどのようにメディアで報じられたかをみてみよう。

※以下、引用元ニュースサイトのリンク切れの際はご容赦ください。

 

2021年10月25日 NTTドコモ・井伊社長【通信障害】

A.通信障害によって、多くの携帯ユーザーの皆さま、企業の皆さま、大変多くの方々に、B.大変ご不便おかけしたことを、深くおわび申し上げます。この度は申し訳ございませんでした」

https://www.fnn.jp/articles/-/258883

※謝罪部分引用:FNNプライムオンライン 2021年10月25日

 

この通信会社の事例では、携帯ユーザーなど具体的な対象を出して謝罪している。

 

10月26日テレビ朝日 亀山社長が定例の記者会見で【番組の不適切演出】

B.今回の不適切な演出は、番組への信頼を大きく損ねる許されない事案であり、A.視聴者、関係者の皆さまに深くおわび申し上げます」と謝罪

https://news.yahoo.co.jp/articles/52a4b27dfd49d975928ade4f6e866472cbf6ae9f

※謝罪部分引用:日刊スポーツ 10/26(火)ヤフーニュース配信

 

このテレビ局の事例では、番組を観ていた視聴者に対し、信頼を損ねる演出を行った旨を謝罪している。

 

上記①②いずれも、謝罪相手を具体的に述べ、根拠を提示して謝罪しており、謝罪の要素を満たしているものと判断される。

 

一方で、次に示す③の銀行の事例は、謝罪の要素が満たされていないものである。

 

8月20日みずほフィナンシャルグループ 阪井社長の会見【5度目のシステム障害】

「再発防止策が十分だったか、見直しがかなり必要だ。B.極めて重く受け止めていて、改めて深くおわびする」と述べた。

https://www.asahi.com/articles/ASP8N66YJP8NULFA011.html

※謝罪部分引用:朝日新聞デジタル 2021年8月20日

 

坂井社長は「再発防止に取り組んでいるなかで、B.極めて重く受け止めている」と陳謝

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB204QF0Q1A820C2000000/

※謝罪部分引用:日経電子版 2021年8月20日

 

阪井社長「再発防止に取り組んでいる中でこのような事態を起こしてしまったことにつきまして、B.極めて重く受け止めています。改めて深くおわび申し上げます」

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210820/k10013214561000.html

※謝罪部分引用:NHK NEWS WEB 2021年8月20日

 

以上から気付くように、記事中では謝罪対象が明確に提示されていないのである。

この点について、筆者は様々な媒体の記事を探したが、謝罪対象(第一義的には、銀行利用者や取引先がそれに該当すると思われるが)についての明確な提示がない。

実際に、銀行は会見の中で謝罪対象について発言していた可能性もあるものの、少なくとも会見を報じるメディアは、カギカッコの中で「誰にお詫びをしているか」をまったく報じていない。報じられなければ知られない、つまりは発言していないのと同じことになってしまうのである。

 

謝罪の伝え方(メディアの力をお借りするというスタンス)

以上の3つのケースを題材に、もしも読者が緊急会見をすることになった場合、どうすればよいか考えてみて頂きたい。

一般的に言って、企業不祥事の場合、事案にもよるが、たいていは不特定多数の被害者一人一人に直接対面して詫びることもできず、会社の役職員総出で手分けして全ての被害者に連絡を取るといったリソースもないと考えるのが現実的である。

よって、実際には、そうした人海戦術を使わずに、できるだけ短時間で多くの人に謝罪の意を伝える手法を考えることにならざるを得ない。

そうした状況下では、まず自社のウェブサイトやツィッター等で速やかに謝罪コメントを発信することが最低限の初動対応として必須となるが、それ以外の手法となると、やはりメディアの活用(記者会見等)以外に選択肢はないだろう。

その点を踏まえると、国民の知る権利を背景として取材に訪れるメディアへの対応は、最前線で対峙を迫られる担当者にとっては厄介な相手であるには違いないにせよ、自社の主張を謝罪相手や世間一般に対して適切に報じてもらう機会と捉えれば、ゆめゆめ疎かにできないのである。

その点をわきまえれば、謝罪会見における冒頭の言葉選びも、少しは変わってくるというものである。

謝罪会見において必要なのは、小手先の会見テクニックではない。

謝罪相手は誰なのかを念頭に、その人が置かれた状況に想像力を働かせて、具体的かつ明解に意思を伝えることこそが重要なのである。

  • (本稿中意見にわたる部分は筆者の個人的見解である)

そのほかの危機管理コラム
危機管理を考える(2)【突発事象が起きた時】
危機管理を考える(3)【初会見までは何時間?】
危機管理を考える(4)【リリースと記者の注目の違い】
危機管理考える(5)【危機事案の初公表までの間、社内ですべきこと】