危機管理を考える(5)【危機事案の初公表までの間、社内ですべきこと】

自社の主力商品・サービスの提供がストップし提供再開の目処が立たない。 もしくは、ある日突然、ヤフーニュースのトップに自社役員の不正が報道され、その役員が逮捕されたら… 社内で誰がどのような動きをして、迅速な公表ができるだろうか…

PR総研 主任研究員
共同ピーアール株式会社 危機管理コンサルティンググループ長
磯貝聡
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I.はじめに

あなたの組織で不幸にして危機事案が発生してしまった場合、それを知ってから初公表までの間、広報担当者は何をすべきか(あるいは、すべきでないのか)。

当然のことながら組織は、広報担当者の一存ですべての公表内容を決定できない(事の軽重にもよるが)ので、役員や関係部署等との社内調整を経て公表(HPでのお知らせ、メディアへのリリース配信)を行うことになる。

 

例えば、昨今話題になっている通信障害発生に関しては、「障害発生時、通信会社は30分以内にHP上で公表する旨の業界ルール導入を検討」というニュースがあった。

 

(引用開始)===================

通信障害、原則30分以内に初報 総務省指針策定へ

総務省の検討会は29日、通信障害が起きたときの利用者向け広報の業界ルールの原案を公表した。通信大手を対象に障害の発生から「原則30分以内に初報の公表を求めることが適当」と明記した。ホームページトップのわかりやすい位置に掲載し、更新頻度は「深夜早朝を除き、少なくとも1時間ごとを目安」とする。

日経電子版 20221129 17:06掲載

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA295JQ0Z21C22A1000000/

(引用終)===================

 

上記ニュースのような通信障害の際、通信会社として公表を行うまでの大まかな流れは下記のように整理できる。

 

 

 

多くの携帯利用者に加え、通信が不可欠な事業者(医療機関、金融、物流、IoT家電、警備保障、コネクティッドカー等)にとって、通信障害の発生は事業継続に多大な影響があり、ときには致命傷となる可能性も皆無ではない。

そのため、危機発生後30分以内にまずは「通信障害が発生し、XXXエリアでXXXサービスに使いづらい状況が発生しています」と速報する必要に迫られる。

それにしても、「30分以内に公表せよ」とは当局もなかなか厳しい対応を迫るものだが、時代の要請であり致し方ないのかもしれない。また、こうしたプレッシャーは通信業界にとどまらず、この先、さらに多様な業種に波及していく可能性が高い。

 

参考として、20227月に発生したKDDIの通信障害では、発生からメディア報道まで下図のような流れであった。
なお、広範囲にわたる通信障害など国民生活への影響が大きい事案については、メディアはたとえ夜中でも報道することは留意すべきである。

 

 

 

 

II.初公表までに社内でやるべきこと

次に、多くの組織、企業で【初公表】までに組織、社内ですべきことは何かを考えてみたい。

 

(1)情報入手が遅れがちな広報

企業で事故、事案が発生し、それを最初に知るのは広報ではない。

危機事案ごとに一例をあげると、重大なクレームを受けたコールセンター担当者、または自社の役職員逮捕を警察からの入電で知った総務担当、あるいは大規模な回収事案であれば品質保証室の担当者、もしくは経営マターで役員のみぞ知ることかもしれない。

 

いずれにせよ、「広報担当が知るのは、社内では最後」というのはあながち珍しいことではない。

 

※上記は全社緊急対策本部組織図のイメージ

こうしたリスクを軽減し有事の情報把握を迅速に行うためには、社内で日ごろから「何かあったら広報も(もしくは危機管理担当)へ躊躇なく一報すべし」と社内に周知徹底する必要がある。

また、広報サイドにおいては、一報を受けた後の情報の整理集約のため「ポジションペーパー」の作成が重要となる。ポジションペーパーとは、事案の発生から現在までの事実関係、会社としての対応を時系列でまとめたものであるが、現時点での事案に対する評価および見解も記載する。

 

 

 

2)リスク評価

ある程度の情報が集まった段階で、社内で情報の評価することが重要になる。まずもっての評価ポイントは以下の3点である。

 

イ.問題の大きさと影響範囲

生命・健康に関わる問題か、経済的損失にとどまるのか(その場合の規模・程度)、事案に伴い会社が被る(であろう)損失の程度

ロ.継続性

危機がいつ終わるか、 終結点が予測できない場合のリスクをどう軽減するのか

ハ.客観的印象

メディア(とその先にいる視聴者・読者)はどのような印象を持つか

 

 

 

3)「適切な公表」とは何かを考える

上述の社内でのリスク評価に基づき、「適切な公表」とは何かを考え、速やかに決定していく。以下にそのポイントをリストアップする。

 

イ.リリースから考える

公表の可否に関し、社内承認を得る前に、まずはどんな告知内容(リリース)となるか、最初にリリースを書いてから動くとよい。

優秀な広報担当者になるほど、具体的な公表イメージのアイデアが容易に浮かび、本プロセスが迅速にこなせるものである。

 

ロ.そもそも公表すべき事案か

業種や組織風土による部分が大きいが、「(どうにかして)公表しなくてもいいか」という発想からスタートをする広報も少なくない。

しかし、広報パーソンとしては、一定数を超える人員が関与する組織においては、「永久に秘匿し続けられる不祥事など存在しない」との原則を常に念頭に、「情報を世間に適切に伝えることで問題を解決するのが広報のミッション」というスタンスを堅持しつつ、社内各部署との調整を図る努力を怠るべきでない。

 

 

ハ.公表の可否を巡る社内的な判断根拠

上述の通り「永久に秘匿し続けられる不祥事など存在しない」以上、万一、「対外公表しない」旨を決定した場合、後々、メディアはもとより従業員、顧客、株主等のステークホルダーから「なぜ非公表(=隠蔽)を決めたのか?」と、その判断の根拠や意思決定プロセスを問われることになる可能性が極めて高い。

とはいえ、社内検討の結果、最終的に「非公表」とされるケースも皆無ではあるまい。

その場合には、後に事態が表沙汰になった場合、かかる決定に至った経緯等について、「遅蒔きながらも説明責任をしっかり果たす」という心構えと所要の準備が伴うことを忘れてはならない。

その場合には、当然ながら当事者企業として、公表遅延に係る少なくないペナルティを支払うこととなろう。

いずれにせよ、「非公表イコール何の対外説明準備も必要なし」ではないことは肝に銘ずべきである。

 

 

二.公表するタイミング

公表時期の決定要因としては、大きく分けて以下の2つのタイミングを意識するとよい。

 

A.自社に公表タイミングの決定権はなく、躊躇なく、「待ったなし」で速やかに行うべきもの

(人命に係る事案、通信障害、製造拠点の事故、役職員の逮捕等のケース)

B.監督官庁に報告するタイミング、社内調査が済んだタイミングでよいもの

 

上記のいずれを選択すべきかは、業種や事案の性質に依存する。

 

ホ.公表手法

情報開示手法はいまや多様化しているが、概ね以下の4類型である。

A.会見
(プレス・カンファレンス)

しかるべき会見者が、自社の会議室や外部会議室(ホーム環境)に記者を呼ぶ、もしくは記者クラブ(アウェイ環境)に出向いて行う。主に謝罪や事実関係の説明を行うが、同時刻、同内容を公平に発表できることが最大のメリット。メディア(=ステークホルダーの代表者)からの質問を受けることで、プレスリリースだけでは伝えることのできない、企業としての誠実さや問題解決に向けた姿勢を、会見者の口からステークホルダーに直接伝えることができる。

英語でプレス・カンファレンスと表記されるように、会見者と記者団との双方向の「会議」(質疑応答)の場であるため、稀にみられる「会見者が言いたいことだけ伝えてそのまま退席(質問は受けつけず)」といった一方通行の様式は認められない。

ちなみに会見者となる人物は企業を代表し責任がとれる役員以上が相当、とメディアは考えている(事案について詳細説明ができる部門責任者などの同席は問題ない)。

※会見での留意点について、詳細は稿を改めてお伝えする。

 B.メディアなどステークホルダーに積極的に同時刻などリリースを配信

会社としての「公式見解」、把握している「正しい事実」を文字に落としてメディアやステークホルダーに配信することができる。

ある記者は、「会見上で席に着いて事態をまとめたリリースをもらえるとそれだけで『安心』する。まずはそれをもとに、事態の概要を書いた第一報を起稿できるから」と述べたが、それほど記者と企業側を結ぶ接点として重要なものである。

C.HP上にのみ掲載 目立つ箇所に分かり易く提示するか、辿り着き難いところにひっそり情報を置くかは企業の経営判断であるものの、後者は開示スタンスが問題視され二次被害(レピュテーションリスク)に繋がるケースもあり要注意。
D.メディアからの問い合わせがあれば、それに応じて事実を伝えるのみ 受身かつ消極的な開示で、隠し立てはしないというスタンスではあるが、開示スタンスが問題視され二次被害(レピュテーションリスク)に繋がるケースもあり要注意。

 

 

 

III. むすびにあたり

上記でみたように、例えば通信障害など、国民生活に大きな影響を与える事案が発生した際には、当事者企業は「30分以内に公表」という最速スピードが求められる。

これは事前の十全な備えなしには絶対に不可能な対応であると断言できよう。

こうした事態を想定して、「危機管理広報マニュアル」作成などの対応をとる組織は少なくないが、一度つくってそのまま放置しておいたのでは、万一の時には役立たない。

当たり前の結論であるが、やはり「日頃の備え」に勝るものはないのである。

 

広報担当者は、年に数回は「不幸にして自社の主力商品・サービスの提供がストップし提供再開の目処が立たない事態に遭遇したとしたら・・・」と思いを巡らせてみて欲しい。

ある日突然、ヤフーニュースのトップに自社役員の不正が報道され、その役員が逮捕されたら、社内で誰がどのような動きをして、迅速な初公表に漕ぎ付けるか、すぐにイメージできるだろうか。

こうした事態はいつでもどこでも起こりうる。現にこうしている間にも「まさか」の事態は次々発生している。

あなたの組織も、「平和」を謳歌している今のうちに、具体的な一つのリスクをとりあげてみて、社内の各部署の責任者と、公表までのフローについて話し合うところから始めてみることを強くお奨めする。

 (本稿中意見にわたる部分は筆者の個人的見解である)

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