危機管理を考える【7】 保険金不正請求事件などの危機発生に見る、 企業、AI、元記者…コメント作成に大きな違い?

本稿では危機の種類ごとに3つのコメントを比較検討してみた。 ① 不祥事を起こした当事者企業による「コメント」 ② 不祥事の記事を読ませてChatGPTが出した「コメント」 ③ 元報道記者が考えた「適切なコメント」 いったいどのコメントが、世間から共感を得られるか、検討した

PR総研 主任研究員
共同ピーアール株式会社 危機管理コンサルティンググループ長
磯貝聡
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前回の本コラムでは、オンライン・メディア時代ならではのコメントについて分析したが、今回は、発生した危機の種類ごとに、企業がどのようなコメントを発信しているかについて検討してみたい。

本稿でいうコメントとは、主に危機が発生した際にマスメディアなどで紹介される企業の見解である。
簡単に言うと記事の「  」の部分のことをいう。

企業が会見、電話対応、リリースなどでメディアに発信し、最終的にマスメディアがそれらを取捨選択して短いカギカッコにして紹介したものだ。
当事者企業としてはこのカギカッコ以外にも多くのことをメディアには伝えているケースが多いが、最終的に記事化される(あるいはニュース原稿化される)段階で短いフレーズに纏められてしまう。だからこそ、報じられたときのコメントを通じて、当事者企業の問題に対する姿勢や広報担当者のスキルの優劣が浮き彫りとなるのである。

そこで本稿では長年、報道現場での記者経験を有する元記者からメディアの視座についてのコメントを得つつ、危機の種類ごとに下記3つのコメントを比較検討してみた。

比較コメント
① 不祥事を起こした当事者企業による「コメント」(メディアの記事でカギカッコ紹介されていた部分)
② 不祥事の記事を読ませてChatGPTが出した「コメント」
③ 元報道記者が考えた「適切なコメント」

なお、②不祥事の記事を読ませてChatGPTが出したコメントについては、ChatGPTへ問いかける際には、下記の問いかけと共に該当の記事を読ませた。

Q1実際にあった次の記事を読んで、メディアから取材があった際のコメントを教えてください。1行ないし2行程度の短く適切なコメントにしてください。

Q2なぜそのコメントにしたのかその理由も教えてください。

ケース1 保険金不正請求

■事案概要
中古車販売大手ビッグモーターが事故車の修理に伴う保険金を水増し請求し、過大に保険金を受け取っていたことが分かった。関係者によると不正が疑われる案件の割合はサンプル調査で4割超に上った。
※執筆時点

■ChatGPTに読ませた記事
2023年7月7日 17時45分 朝日新聞
中古車大手ビッグモーター、保険金不正請求 不要な部品交換で水増し

①企業のコメント
同社は5日、「事態を重く受け止め、外部専門家の助言を得ながら再発防止に取り組み企業体質の改善に努める。不適切な請求事案を確認した案件は真摯(しんし)に対応する」との声明を出した。
2023年7月7日 17時45分 朝日新聞
中古車大手ビッグモーター、保険金不正請求 不要な部品交換で水増し

※筆者注:企業側コメントのカギカッコの後に、メディアが批判的な評価を加えている記事もあったので次のコメントもあわせて紹介する。

ビッグモーターは5日付で、公式ホームページで調査委員会から報告書を受け取ったと公表した。「事態を重く受け止め、企業体質の改善に努める」としているが、どのような不正行為があったかなど報告書の中身はほとんど明らかにしておらず、損保各社は引き続き公表を求めていく。
2023年7月7日 17:56  日本経済新聞
中古車ビッグモーター、修理の4割で保険金過大請求疑い

②ChatGPTの出したコメントとその理由
コメント:「ビッグモーターは、このような不正行為を重く受け止め、再発防止に全力で取り組みます。被害を受けたお客様に真摯に対応し、企業の信頼回復に努めます。」

上記の理由(ChatGPT回答)
このコメントは、企業が問題を認識し、再発防止に取り組む姿勢を示しています。また、被害を受けたお客様に対して真摯に対応し、信頼回復を図る意思を表明しています。これにより、企業の責任感と誠実さをアピールすることができます。

③元記者の考えたコメント
「この度は日頃からご利用いただいているお客さまや関係者の皆さまに多大なご迷惑をおかけし、ご心配頂いておりますことを深くお詫びいたします。調査委員会からの報告を真摯に受け止め、不正行為と思われる事案の経緯や原因などを徹底的に調査いたします。こうした事態を二度と起こさぬよう、外部の方々のご意見も頂きながら、全社一体で再発防止に取り組んでいく所存でございます」

上記コメントとした理由(元記者解説)
 これから紹介する2つのケースとは異なり、この件に関しては会社のコメントよりもChatGPTの出したコメントの方がうまく書かれている、と思います。ただし、(ChatGPTでは)再発防止に取り組む姿勢は示していますが、不正行為に至った経緯や原因などの究明にはまったく触れていないことや被害を受けた利用者に対しても真摯に、と表現しながらも具体的にどのような対応を検討しているのかなどが書かれていません。
 さらに、会社のコメントに至っては「出さない方がマシ」というレベルです。こちらも会社として、調査委員会から指摘された案件の詳細な調査を行うことも示されず、さらに真摯に対応する、改善に努める、という安易な表現を使ってのコメントにとどまっていて、何も伝わってきません。

ケース2 海洋汚染

■事案概要
6月27日午前5時40分ごろ、沖縄県名護市で「赤色の水が川から海に流れ込んでいる」と県警名護署に110番があった。オリオンビールによると、名護工場から食紅で着色された冷却水が流出したのが原因で、河川や海が赤く染まった。

■ChatGPTに読ませた記事
2023/06/27 17:26 読売新聞 
オリオンビール工場から冷却水流出、沖縄・名護漁港周辺が赤く染まる…環境への影響なし

①企業のコメント
同社の村野一社長は「多大なご迷惑とご心配をおかけしましたこと、深くおわび申し上げます」とコメント。再発防止策を講じる考えを示した。
6/27(火) 18:28 毎日新聞で報道したコメントより引用
海が真っ赤に オリオンビール工場から色づけした冷却水流出 沖縄

同社は「多大なご迷惑とご心配をかけ深くおわび申し上げる。二度とこのような事態が生じないよう防液堤の増設や漏れを感知するセンサーの取り付けなど管理強化を進める」などとコメントした。
2023-06-27 17:37社会 時事通信で報道したコメント
工場から冷却水、海赤く染まる=食紅着色、オリオンビール謝罪―沖縄

②ChatGPTの出したコメント
「このような事故が起きたことについて深く遺憾に思い、環境保護を最優先に考え、再発防止の対策を迅速に講じます。」

上記の理由(ChatGPT回答)
コメントを作成する際には、以下のポイントを考慮しました。
謝罪と遺憾の意を表す: 事故が起きたことに対して謝罪と深い遺憾の意を表明することは重要です。被害を受けた地域の住民や関係者に対して、真摯な態度を示す必要があります。
環境保護の重要性を強調する: 環境への影響を最小限に抑えることは不可欠です。事故原因を認識し、今後同様の事故を防ぐために、セキュリティや設備の点検・保守の強化を行うことを示しました。
迅速な対応と再発防止策の提示: 事故を教訓として、センサーシステムの導入などの対策を講じることで、異常を早期に検知し対応できる体制を整える意思を表明しました。

以上のポイントを踏まえ、被害を受けた地域の住民や関係者への謝罪と再発防止に向けた対策を明確に示すコメントを作成しました。

③元記者の考えたコメント
「周辺にお住いの方をはじめ皆様方に多大なご不安やご心配をおかけしたことを深くお詫びいたします。 今回の事故を起こした原因を徹底的に究明するとともに、二度とこのような事態を起こさぬよう、防液堤の増設や漏れを感知するセンサーの取り付けなど一層の管理強化を進めてまいります」

上記コメントとした理由(元記者の解説)
ChatGPTの出したコメントは一見、模範解答、と思われるかもしれません。ただ、気になる部分がいくつかあります。
ここでは、まず周辺の人たちに不安を与えたことをお詫びすべきでしょう。「深く遺憾に思い」というくだりはお詫びのニュアンスが感じられないですし、第三者的とも受け取られる可能性もあります。細かい話かもしれませんが“深く”という表現も“遺憾に思う”の言葉になかに、申し訳なく思う、という意味が込められているので、必要ない、と感じます。もっと言えば、くどい、という印象を与えるかもしれません。
「環境保護を最優先に考え、再発防止の対策を迅速に講じます」。この表現ですが、ややお役所的、というか人間味を感じない印象です。ここでは具体的にどんな対策、再発防止策をとるかを盛り込んだうえで、二度とこうしたことを起こさない、というメッセージを伝えるべきだと考えました。

ケース3 従業員逮捕(コンプライアンス違反)

■事案概要
新型コロナウイルス関連事業の受託を巡り、近畿日本ツーリストが自治体に対し人件費などを過大請求した事件で、大阪府警は、大阪府東大阪市から約5億8900万円をだまし取ったとして、同社の関西法人MICE支店支店長ら社員3人を詐欺の疑いで逮捕した。

■ChatGPTに読ませた記事
2023年6月16日 5時00分 朝日新聞
近ツー支店長ら「実績を上げたかった」 ワクチン業務めぐり詐取容疑

①企業のコメント
近ツーの親会社は15日、「捜査に協力する。深くおわび申し上げる」とのコメントを発表。
2023年6月16日 5時00分 朝日新聞
近ツー支店長ら「実績を上げたかった」 ワクチン業務めぐり詐取容疑

KNT-CTHDは15日、「今後も引き続き、捜査に協力する。関係者には多大な迷惑と心配をかけ、深くおわびする。本件の内容に関するコメントは、捜査中のため差し控える」
2023年6月16日 2:00 日本経済新聞
近ツー支店長ら3人逮捕 ワクチン業務で詐取疑い 東大阪市から5.8億円

②ChatGPTの出したコメント
「近ツーの支店長らの行動は信じられません。公的な業務に対する詐欺行為は厳しく処罰されるべきです。」

上記の理由(ChatGPT回答)
このコメントは、被告たちの行動が公的な業務に対する詐欺であり、信じられない行為であることを指摘しています。また、このような行為は社会的に許容されるものではなく、厳しい処罰を受けるべきであることを主張しています。

※筆者注:近ツーとなったのは、記事の中で同社名の略称として「近ツー」と書いてあったため、それを企業名と認識した模様。
※筆者注:他人事のようなコメントだったので当事者性が無かったので
「もう少し当事者性を持ったコメントにして」と入れてみたところ次のような回答となった。

ChatGPTの出したコメント
「近ツー支店長らの行動に失望しています。信頼されるべき役職にある人々が公的な業務で詐欺を行うなんて、非常に遺憾です。公共の利益を損なう行為に厳正な処置を求めます。」

上記の理由(ChatGPT回答)
このコメントでは、近ツーの支店長らの行動に失望を表明し、彼らが公的な業務で詐欺を行ったことについて遺憾の意を示しています。また、公共の利益を損なう行為に対しては厳正な処置を求めるというメッセージを込めています。当事者性を持たせることで、問題の重大さと被害者の立場への共感を表現しています。

③元記者の考えたコメント
「当社社員が起こした不祥事で、関係者の方はじめ、皆さまに多大なご迷惑やご心配をおかけしたことを深くお詫びいたします。引き続き、捜査には全面的に協力してまいります。なお、事件に関しましては現在、捜査中であることから、誠に申し訳ございませんが、控えさせて頂きます」           

上記コメントとした理由(元記者の解説)
まず、ChatGPTのコメントで、決定的にまずいのは、当事者としての意識に欠けている点。
「信じられません」「失望しています」自らの会社の社員が起こした不祥事にも関わらず、自分たちが被害者である立場でのコメントは一般の怒りを増幅するだけ。さらにおそらく捜査当局に対してあると思われるが「厳正な処置を求めます」というコメントの前に、「今後の捜査の行方をみながら、会社としても厳正な処分を行う」というコメントすべき、と思います。
一方、会社としてのコメントも、まずは、社員が世間を騒がせる不祥事を起こした不祥事へのお詫びをまずコメントすべき。順番が違う、という些細なことと思われるかもしれませんが、ここはきちんと認識すべき、と考えます。

 

 

筆者のまとめ
社内論理だけのコメントを出さないために

コメントとその理由、会社としてどのようなスタンスであるべきかについては、ChatGPTに尋ねれば、端的でポイントを踏まえたコメント(ある程度もっともらしいコメント)が短時間で出てきた。
再発防止策の内容については、やや具体性に欠ける部分があったが、社内での検討材料の一つ、すなわちコメントの素案として活用できる可能性はあるかもしれない。
なお、ChatGPTでは時々、他人事のようなコメントを吐き出すことがあったが、それは企業のコメントでも同様である。
自社が引き起こしたことについて、きちんと非を認め、誰に対して謝罪するのかを明確にしたコメントを出すことが、社会(被害者、迷惑をかけた相手)に対してのコミュニケーションの第一歩である。
おそらく、ChatGPTは、使い手の広報が意識してそうした条件を設定し、何度も繰り返し問いかければ、適切で配慮あるコメントが出せるようになるだろう。そして今後、AIの学習ナレッジが十分に蓄積されていくにつれ、さらに充実したコメントが提示できるようになる可能性もあろう。

本稿で筆者が一番伝えたかった点は、広報やChatGPTのコメント作文能力ではなく、自社が引き起こした事案に対して、対外発信に責任を持ち最終決定を行う経営層がどのように事案を受け止めているかが重要ということである。
広報担当者としても、AIが作文したコメントを参照しつつ経営層が多面的かつ適切な判断を下し、最終的に社会に受け止められる(少なくともネガティブな反応を引き出すことがない)コメントを提示できるか否かという視点が重要であろう。
若干の皮肉を交えて言えば、組織が社会(国民感情)とずれた認識を持ち、それを客観視し、必要に応じ是正するプロセスを備えていないと、組織内の、いわば「内輪の論理」のみによる「違和感に満ちたコメント」が吐き出されてしまう可能性が高まると思われる。
そうならないためには、「第三者の視点」すなわち、事案を俯瞰的・客観的に眺めることができる人をコメント作成プロセスに適切に介在させることが欠かせないのではないだろうか。


参考:
ちなみに、本コラムの全文をChatGPTに読ませ感想を求めたところ、AIからは少々紋切り型ではあるものの、以下のような感想が提示された。

【AIに尋ねた文章】
1.このコラムを読んでみて1~2行程度で感想をください。
2.このコラムも踏まえ、事件・事故が起きた際の企業のコメントはどうあるべきと考えますか。1~2行程度で教えてください。

【AIの回答】
非常に興味深い内容であり、AIを利用した広報活動やコメント作成に対する洞察が得られました。コメントの的確さと当事者性の重要性を再確認しました。
企業のコメントは、即座に謝罪と被害者への配慮を示し、具体的な対応策と再発防止を伝え、透明性と責任感を示すべきです。

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