危機管理を考える【20】 広報部に配属されたら、まず着手すべきは「危機管理広報」体制づくり
~「攻めの広報」と「守りの広報」の違いから考える~
2026.10.5 17:30
「今日から危機管理広報体制を整えてほしい」と言われたらいったい何から手を付けたらいいのだろうか。広報業務の全体像を「攻めの広報」と「守りの広報」という切り口で整理したうえで、優先度の高い危機管理広報体制の作り方を、平時と有事に分けて解説する。
共同ピーアール総合研究所(PR総研) 上席主任研究員
磯貝 聡
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はじめに・・・「今日から危機管理広報体制を整えてほしい」
「広報部に異動になった」、「新しく広報部門ができて配属された」——そうした方が最初にぶつかる壁は、「広報の仕事とは結局、何をすることなのか?」という素朴な疑問であろう。
しかも今回は、「今日から危機管理広報体制を整えてほしい」という経営層からの突然の「宿題」つきである。引継ぎで危機管理広報マニュアルがあればまだよいが、マニュアルがないもしくは作成してから更新した形跡のない古いマニュアルしかない場合、何から手をつければよいか分からない、と頭を抱えている方も少なくないはずだ。ひとたび緊急事態だと言われれば、明確なルールがないまま各部署から情報や要望が飛び交い、広報担当者が社内で振り回されて疲弊してしまうケースも後を絶たない。
本稿では、広報業務の全体像を「攻めの広報」と「守りの広報」という切り口で整理したうえで、優先度の高い危機管理広報体制の作り方を、平時と有事に分けて解説する。
- 広報活動においては「攻め」も「守り」も分けるべきではなく、「一体的に行うべき」という原則論は踏まえつつも、今回は、あえて広報活動の中でも危機管理広報の業務を優先して行うことになった場合の要諦について書いていこうと思う。
1.広報には「攻め」と「守り」の2つの顔がある
広報と聞くと、プレスリリースの配信やSNS運用、メディアへの露出獲得といった「攻めの広報(ポジティブPR)」をイメージする方が多いだろう。これは、ブランドや認知の構築を目的に、企業が計画的・能動的に情報を発信していく仕事である。
一方でもう一つ、「守りの広報(危機管理広報/リスクコミュニケーション)」という仕事がある。こちらは、企業価値の毀損を防ぎ、信頼を維持することが目的であり、発生タイミングは突発的であり、対応は受動的とならざるを得ない。有事が起きてから初めて対応を迫られる、という点が攻めの広報との大きな違いである。
二つの違いを表にまとめると以下のとおりである。

「攻めの広報と守りの広報の比較」 筆者作成
新しく広報部門に加わった方に押さえておくべきは、広報における「攻め」と「守り」は似て非なる仕事であるという点である。
そして今回のように「危機管理体制を整える」ことが最優先事項として与えられているのであれば、取り組むべきは後者、「守りの広報」の仕組みづくりにほかならない。
2.最大の問題は「経営層が『守りの広報』を評価しない」こと
危機管理広報体制を構築するうえで、実は広報担当者を最も苦しめるのが「組織・経営層の理解不足」である。
多くの企業において、経営層は売上に直結しやすく華やかな「攻めの広報」ばかりに目を向けがちである。その結果、危機管理広報の体制構築という極めて重要なミッションに対して、十分な人員も予算も投下されないケースは少なくない。
さらに深刻なのは評価制度である。「未然に危機を防いだこと」や「迅速な対応で炎上を最小限に抑えたこと」は、何事もなかったかのように見えてしまうため、そこで奮闘した担当者が正当に評価されないという構造的な問題がある。攻めと守りの広報は一体のものであり、守りの広報機能のない広報部門は広報として成立し得ないと筆者は考える。いずれの広報機能も、日ごろから社内の各部署とも信頼関係を構築し、良いニュース悪いニュースともに情報が上がってくる仕組みを持つべきものだからである。
リソースも権限も与えられないまま「とりあえず体制を作れ」と丸投げされれば、いざという時に社内の各部署との連携や調整がうまくいかず、広報が社内で振り回され、サンドバッグになってしまう。
例えば、社内で信頼関係が構築されていない製造業の場合、重大な製品回収事案が発生したとしても、当該情報を製造部署から広報への伝達タイミングがかなり遅れることがある。こうした場合、広報は突如、危機情報を与えられ、直ちにメディア対応をさせられる。これでは十分な対応は期待できまい。
また、重大な不祥事発生や従業員逮捕に至るといった事案では、社内に疑心暗鬼があると、担当部署から広報への情報伝達が遅れ、十分な検討がなされないままメディアやステークホルダーの反発を招く「自社都合最優先」のリリースが発信されてしまうといったケースも散見される。こうした場合、反感を買うだけにとどまらず、そうした重大事案をリリース発信だけにとどめたことで、社会に対する企業の向き合い方や誠実さが強く疑われる事態となり、最終的に、火消しのためトップが緊急会見を行わざるを得なくなる事態にもなりかねない。
こうしたことから、情報集約体制の構築を始めるにあたっては、まず経営層に対して「危機管理広報には専門の人員と予算、そして社内を動かすためのトップのコミットメントが必要である」と進言し、理解を得ることが第一歩となる。
3.平時のルーティン——社内で振り回されないための「武器」づくり
まず何から始めるか。何も起きていない平時における危機管理広報の仕事は、大きく2つに集約される。
①危機管理広報マニュアルの整備
自社にどのようなリスクが想定されるかを洗い出し、発生時の報告ライン、対応フロー、連絡体制、初動対応の判断基準などをあらかじめ文書化しておく作業である。 ここでのポイントは、社内のどの部署が担当するか(誰が情報を集めるもしくは該当部署が情報を集め、誰が情報開示に関する意思決定し、誰が発信するのか)という役割分担を明確にすることである。これが決まっていないからこそ、有事において広報が社内で振り回されてしまう。なお、マニュアルは広報を守る「武器」でもあるから、今日のように変化が激しい情勢にあっては、一度作って終わりではなく、事業内容や組織体制の変化に合わせて定期的に見直す必要があることは言うまでもない。
②社内への周知とトレーニング
マニュアルを作っても、実際に有事が起きたときに現場が動けなければ意味がない。人間は、自身が経験したことのない局面において判断や動作を急に求められても、これを一片のミスもなく適切に行うことはほぼ不可能な動物である。したがって、危機発生時の初動対応や報告ルールを社内に周知し、想定問答づくりやメディア対応訓練などのトレーニングを重ねておくことで、いざというときに迷わず動ける体制がつくられる。
平時の仕事は地味に見えるかもしれないが、この積み重ねが有事対応の質を大きく左右し、広報自身が理不尽な社内調整に忙殺されるのを防ぐ唯一の手段となる。
4.有事の対応——対策本部との連携、情報収集、メディア対応準備
実際に何か起きてしまった場合、広報担当は単独で動くのではなく、各部署から構成される対策本部と連携しながら動くことになる。ここでの広報の役割は主に次の2つである。
①情報収集と整理
何が、いつ、どこで、どの程度の規模で起きたのか。事実関係を対策本部や関係部署から正確に集め、時系列で整理する。曖昧な情報のまま対外的に発信すれば、後の訂正がさらなる信頼毀損を招きかねず、この段階の精度こそが極めて重要である。集めた情報をポジションペーパーに取りまとめ、関係部署内で共有する必要性については、PR総研の別のコラムでも整理してあるのであわせて参考にされたい。
②メディア対応の準備
収集した事実をもとに、想定される質問への回答(想定問答)やコメント案を準備し、窓口を一本化したうえでメディア対応に備える。実際の現場では、メディアから突然質問状やアンケートが届き、期限内の回答を求められるケースも珍しくない。そうした場面でどう向き合うべきかについては、こちらもPR総研の別稿でも具体的な事例をもとに考察されているので、あわせて参考にされたい。
5.まとめ——守りの広報は「地味な業務」ではなく「組織の最優先事項」
広報部門に配属されたばかりの方にとって、危機管理広報は華やかさのない、地味な仕事に見えるかもしれない。しかし、危機が発生してから初めて危機管理広報部門やその業務に注目が集まるようでは、組織の危機管理体制としては不十分の誹りを免れない。
危機管理広報は、決して「地味な裏方仕事」ではなく、事業を継続するうえでなくてはならない最重要業務である。だからこそ、平時から経営層自らがその必要性を組織全体に周知し、「最優先で取り組むべきテーマ」として社内に徹底することが不可欠である。
こうした点を踏まえ、広報担当者として平時のマニュアル整備とトレーニング、有事の対策本部連携・情報収集・メディア対応準備という一連の流れを押さえておくことこそが、いざというときに組織の信頼を守る強固な基盤となる。それは同時に、広報担当者自身が有事において社内で理不尽に振り回される事態を防ぐことにも直結する。
経営層には「守りの広報への投資と適切な評価」を粘り強く求めつつ、まずは足元で、自社にどのようなリスクが想定されるかを洗い出すところから、一歩ずつ体制づくりを始めていただきたい。
- 文中の意見にわたる部分は筆者個人の見解であり、所属する組織を代表するものではない
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