危機管理を考える(3)【初会見までは何時間?】

~問題発覚から初会見まで広報的にやるべきことを整理する~

事案発生から開示までの時間軸を踏まえ、やるべきことのイメージができているだろうか?

PR総研 主任研究員
共同ピーアール株式会社 危機管理コンサルティンググループ長
磯貝聡
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いつまでに公表するか
組織(企業・団体)において、
● 危機が発生した際に、その事実をいつ公表すればよいのか?
● 事案の公表後、どのタイミングで組織トップに会見させ、記者と対峙させるべきなのか?
この2つは、広報担当者にとって実に悩ましいテーマである。

大規模な通信障害や製造拠点の火災、公共交通機関の事故といった、広く社会にマイナスインパクトが及ぶ事案であれば、メディア側は早い段階で事態の概要をある程度掴んでいるとみるべきで、「公表は待ったなし」と考えなければならない。
他方、特定商品・サービスの品質問題や不正検査の事案であれば、公表のタイミングを自社で判断する余地は総体的に大きいと考えて差し支えない。

とはいえ、公表を先延ばしにすれば、そのこと事態が新たなリスクを起こしかねない。しかし、「いつまで公表を先延ばしできるのか…」という発想に自然となってしまうのが組織心理かもしれない。

発生からX時間以内に会見という原則
このコラムをお読みいただいている方(企業の広報の方が多いと思われるが)の組織内で、事案発生から開示まで何時間以内に開示すると決めているだろうか。

一般的に、(特に突発的な事案では)事案発生を組織として認知してから開示(会見)までのインターバルとして、許容される時間は「発生後4時間程度以内」と考えられる。無論、これはあくまで一般論であり、実際のところは事案の性質により個別に判断されるべきだが、本稿ではこの「4時間」をベースに話を進めることにする。
仮に開示(公開)までの猶予が「あと4時間」となった場合の広報セクションの動きは次の通りである。

※以降は、会社として開示決定し、会見実施を決めた前提で論を進める(そもそもの開示判断やリスク評価等については稿を改める)。

広報セクションの会見準備
①事案を認知してから2時間以内に社内検討を行い会見概要(いつ、どこで、だれが、何を)を判断。
②上記判断の2時間後に記者会見を開く旨、メディアに「会見案内」を送付(送信)。
③「会見案内」には、日時(送付時点から2時間後が目安)、会見の案件名(例:XXにおけるXX事故発生について)、会見者氏名及び役職、場所(地図入り)といった情報が含まれなければならない。

上記の初動対応を手際よくやってのけるには、相当なスキルとスピード感が必要である。まずもって4時間以内の会見が実現してはじめて危機対応のスタートラインに立つことができることを忘れてはなるまい。

滞りなく危機対応のスタートラインに立てるようになるためには当然、普段より、会見案内のフォーマット、案内先のメディアリストの整備、想定される会場(会議室)の予備的確保、事案に応じた会見者選定プロセスの確立など、多岐にわたる課題を整理し、常にアップデートしておかなければならない。

これらを危機が発生してから1から行うのでは「4時間の猶予」の枠内ではとても収まらない。やはり平時からの備えは怠れない。

こうした事情を広報担当者に伝えると、「もちろん、その原則は分かってはいるが…」と認めつつも、「事案の原因が不明なケースでは、情報収集に時間を要することも多く、情報開示することでかえって混乱を招きかねないから、4時間以内の会見実施にこだわるのは妥当でない」とか、「(火災の場合であれば)消火が先決で会見などしている暇はない!」といったリアクションを受けることがしばしばある。

とはいえ、「慎重を期す」ことにこだわったがゆえに「4時間の枠」を大きく超える事態となれば、公表タイミングが遅いとメディアが(勝手に)判断するリスクは格段に高まる。

会見が遅い=隠ぺいしようとしたのか?の議論
その結果でてくるメディアのリアクションとして、「隠ぺいしようとしたのか?」、「大した問題ではないと考え公表を遅らせたのか?」などと、本題に入る手前のところで無用な追及を受けることになってしまう。

こうしたメディアの反応自体が正しいものかどうかが問われることはまずない。何をおいても事案を発生させた「原因企業が一番悪い」のであり、それを追及するマスコミは「正義」の側に立っているという図式は滅多なことでは崩れないことを念頭に対応しなければならない。

諸事情から公表が遅れ、「なぜ、公表(会見)がこの時点になってしまったのか?」とタイミングの根拠がメディアの関心事に追加されてしまえば、いかにうまく回答しても、メディアはそれを「言い訳」として報道することになる。

様々な社内事情があるにしても「4時間の枠」を死守して準備を進めることが、結局のところベストである可能性が高いのである。
 
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